中央改札 交響曲 感想 説明

時の側に居たいからplusライム[HP]


2000年09月24日 日曜日 午前 02:43:33→→→午前 04:30:21

時の側に居たいから

夢を見てた
つまり君の夢を
あまり知らない君のことを
僕は
夢に見てしまっていた
ずっと 前から
時を感じる
同じ顔の君に逢うまで
僕が見ていた その夢を
君は知らずに時を過ごして居たんだ
そして 逢ってから 
君がその君だと知ったんだ
君が好きだった
あの頃から・・・・・・・・・・・・・・・

「ねえ、あの歌知ってる?」
「あれでしょ? 知ってるー。有名だもん」
小鳥の声のする学校で女の子達が喋っていた。
いつもの弾んだ声が気にかかる。
僕は弾んだ声が苦手だった。
学校の匂い。
高校2年の僕は1人の女の子に恋をした。
1つ年下の彼女。
「僕は君が好きだ。友達から・・・出来れば・・・」
「・・・・・」
「付き合って下さい」
勇気を出した僕の勝ちで、その子は「はい」と返事をした。
後谷まこと。
名前は男の子みたいだけど、姿はすらっとしていて、すごくシャイそうな女の子。
僕が1年の時は後谷まことはこの学校にいなかった。
別の中学校で、入学式の時に知った。
「あ。ごめんなさい」
トイレの前でハンカチを落とした後谷まことを僕は見付けた。
「あの・・・」
僕はおそるおそるハンカチを拾い、その子へ持っていった。
それが始めの出会いだった。
けど、僕には出会いは他の所で始まっていた。

寺田直木 16歳。
いつも何かの出来事が有るたびにこの夢を見る。
出てくる人は決まって、この彼女 後谷まこと。
いつからか。
5歳のお漏らしした日から、ずっと出てくる。
この11年間、ずっと。

BGM 美女と野獣

NO.1
「先輩」
一言言う彼女。
「何?」
僕はそう言い、彼女の方を見るが彼女がどこかに歩いていく。

NO.2
「せーんぱい!」
すごく嬉しそうな彼女が僕の手を取る。
「ええ?」
前がよく分からない道を歩き出す僕ら。
行く道は、その日その日の感情で違う。
悲しい感じだと、イヤなことが起こる。
嬉しい感じだと、嬉しい出来事が起こる。

この2パターンの夢を見る。
始め、5歳の僕には何の事やら理解不能だったが、恋ってモノを
知るようになると分かりだしてきた。

「寺田!」
はい?
僕は授業中も寝ていて、時を飛んでいた。
「寺田!!」
「おい、直木ーー」
小声でささやく前の声。
「な。起きなー」
はあ? ジョークか?
「な。起きー」
「てらだ!!!!!!」
「は?」
僕は大きな声のする方をジローッとにらみ返してやった。

「てらだ! 立っとけ!!」

しまった・・・先生だった。
僕は科学の授業、ずっと立っていることになった。
今日はついてない。
2番目の夢を見て、恥ずかしい感じがしたのだ。
今日は1年生がホームルームでキャンパス見学をする日だった。
あの夢で見た、彼女が来る。
僕は本当にしまった、と思った。
科学は嫌いでいつも寝たふりをする。
そうしないと疲れてイライラしてしまう。
ノートを取りながら、書き終えたら先生の言葉を聞き流しながら
寝るのが日課だった。
今日だけは止めとけば良かった。
本当に寝るとは。


「おい、来たぞ」
前の席の友達がささやく。
窓の外を振り返る余裕は無かった。
立っているだけで恥ずかしいのに、彼女が通る。
「ね、立ってる人が居るよ」
静かに通る1年生の中にそんな声が教室の外から聞こえてきた。
声は教室に入り、直木の所に届いた。
「あの人、顔真っ赤じゃん」
直木の机は一番後ろで、廊下から離れてはいた。
1年生は教室の真ん中で止まり、1年生を連れた先生がグルッと回れ右をした。
何かの距離。
こっちまで来るなよー。
直木の心が響いていた。
「・・・・・・・・・」
直木は赤くなりながらも右をちょっと見た。
「!!」
すぐそこには下を少し向いて、直木を恥ずかしそうに見ている彼女の姿があった。
ほんの偶然で、直木が向いたすぐその時に彼女は居た。
距離が50センチしかなかった。
彼女もぴったりと直木の視線を感じて、びっくりしていた。
「まこと」
ハンカチを落としたときに偶然見たネームを呟いていた。
「まこと?」
前にいる友達が驚いて僕に向かって叫んだ。
教室にいる全員が僕と友達の方を見た。
「えーー。あーーー」
僕はあいまいな言葉で逃れようとした。
「おい、授業・授業!!」
黒板に立っている先生が大きな声を出した。
「そこに立ってる 寺田直木! 座っていいぞ。恥ずかしいだろう」

もうすぐ寒く、暖房の無い教室が待っている
体が温まったら眠くなる、この秋の季節
窓の外は涼しく、虫が鳴いて、中は女の子達がわいわいざわめく季節

僕はこの時名前を覚えてもらったことより、恥ずかしさでいっぱいだった。
2回目の時が過ぎていった。

冬はもうすぐ
寒くなれば季節も変わり、イベントが始まる
友達が騒ぐ時を過ぎ去ってくれとばかりに願いつつ
僕は時を過ごしていた
クリスマス
その時を一緒に過ごせたら
後、残り2ヶ月のこの時
1年生の中間のこの時
学校慣れのこの時
彼女はもうどれくらい僕を知っただろう
廊下で何回かすれ違うたびに
彼女の恥ずかしそうな姿が
僕の夢は彼女でいっぱいだった
いつの間にか
夢は回数を
一日に何回も夢を見ては、目覚める
僕は不眠に悩まされることになった

10月の半ば

僕は倒れてしまった。
友達が大丈夫か? と聞いてきた。
僕は何でもないと、あえて言うのだけれど、1週間の不眠はきつかった。
保健室でまた夢を見た。

「先輩、大丈夫?」
彼女が本当に心配しながらのぞき込むかのように。

「直木先輩・・・」
フッとそんな声が聞こえていた。
「直木せんぱい・・・・」
僕はよく寝た。だけど、夢がまだ続いているかのような錯覚で目を開いた。
「えっ?」
「だいじょう・・・ぶ・・ですか?」
「あ・・・ああ・・・・・・・・・・・は?」
夢で見た同じ顔の彼女、後谷まことが見ていた。
「あの」
僕は何も言えずに起きあがった。
「寝てていいですよ」
彼女は言う。
「・・・・・」
僕は寝るわけにもいかず、起きあがったままでいた。
「先輩の友達がこれを持って行って欲しいって」
彼女から受け取ったのは僕の大切な指輪だった。
「この指輪・・・」

指輪
祖母からの贈り物
女の子に逢ったら
渡すように
大事な女の子に渡すように
渡された贈り物
それは5歳の時を越えて繋がった
おねしょをして叱られた
僕は泣きじゃくって祖母の膝に座って
また泣いた
祖母は頭をなでてくれて
「大丈夫だよ」
そう呟いた
「大丈夫・大丈夫」
ずっとそう言ってくれて
僕が泣き止みそうな頃
祖母自身がしていた指輪の1つ
小指の指輪
ピンクの小さな指輪を
僕の小さな指に
小さな小さな親指に
ブカッとはめてくれたんだ

「大事な子におやり」

祖母は微笑んで、また僕の頭をなでて言った。

「大丈夫・大丈夫」ーーーーーーーーーーー

 あれからの時を過ぎて、僕はいつもこの指輪をポケットに入れて持ち歩くようになっていた。いつか渡す時が来ると信じて。
彼女が心配そうにまだ見ていた。
「大丈夫だよ」
僕はそう言い、決心をした。
始めての告白だった。
「僕は君が好きだ。友達から・・・出来れば・・・」
保健室のベットの側に居る彼女に僕はドキドキしながら言う。
「・・・・・」
何も言わない彼女を見つめて、続きの言葉を。
「付き合って下さい」
僕の気持ちを確かめるように彼女の目を見つめた。
恥ずかしいけど、彼女の気持ちが知りたかった。真剣だった。

保健室の中は涼しい、顔はほてっていて、空気が
澄んだ空気の中
彼女と僕
他はいない空間の中
真剣な空気
それをぶち壊すかのようにガラッと誰かが戸を開け、また閉める。
2人は吹き出して笑い合った。

後谷まこと。
名前は男の子みたいだけど、姿はすらっとしていて、すごくシャイそうな女の子。
「はい」

クリスマスの2ヶ月前
指輪を渡せた
この時に
祖母の思い出と共に
夢と一緒の女の子
どんな付き合いになるか分からないけど
上手くいきそうな
そんな2人の予想に
2人の夢はずっと一緒に居ることーーーー


               THE END


 
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