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「「ちびイヴちゃん」 第一話」 ふぉーちゅん  (MAIL)
※この作品では主人公(1)とイヴがくっついたことになっています。

壊れSS 第一話 ちびイヴちゃん、登場

 てくてく。てくてく。てくてく。
 エンフィールド市内、午前八時四十分。一日の仕事が始まるまであと二十分というこの時間、通勤の人間で混み合っているさくら通りを一人の青年が歩いていた。
「……一体、何でこんなことになったんだろうなあ」
 何やらぼやきながら歩いている青年の名は、メルフィスラート・ラインソード。通称メルフィ。世間では「ジョートショップの青年」で通っている、若き何でも屋である。
「え?それが分かれば苦労しません?まあ確かになあ」
 それにしてもこの青年、先程から誰に向かって喋っているのだろうか。テディやヘキサなどの付属品がいるわけでもないし、随行者がいるわけでもないのに。それとも、何か危ない電波でも受信しているのだろうか。
「早く元に戻りたいです?そりゃ僕も同じだよ――ま、何はともあれ情報収集だな」
 青年はそのように言うと、目的地に向かって足を早めたのだった。

 からんからん
「いらっしゃーい……って、あんたか」
 食堂兼宿屋「さくら亭」の看板娘ことパティ・ソールは、客の来店を告げるベルの音に元気な声を上げかけ――入ってきた客の顔を見た途端にテンションを落とした。この二、三年で飽きるほどに見慣れた顔――メルフィ・ラインソードが入ってきたのである。彼はカウンター席の方に歩み寄ると、
「いつも思うんだが、一応こっちは客だぞ?」
 ささやかな抗議をする。だがパティはそれに構うことなく彼に席を勧めた。
「あははは、まあいいじゃない。まあ座って座って」
 グラスに冷たい水を注ぎ、メルフィの前に置く。そして、
「そういえば、イヴは?一緒にいないなんて珍しい」
 疑問と興味の色を浮かべる。
 メルフィスラート・ラインソードとイヴ・ギャラガー――この二人は世間で言うところの、いわゆる恋人同士である。しかも相当にアツアツの。フリーの日に二人が一緒にいないことなど、この半年で一回あるかないかくらいなのだ。
「もしかすると……ふられた?」
「いや、それはない」
 若干の期待を込めたパティの科白に、即座に頭を振るメルフィ。そう、彼が先程から頭を悩ませている原因は、ふったとかふられたとかの話ではない。
「そういう話であったのなら、どんなに楽だったことか……」
 思わずメルフィがそう呟いたとき――、
『冗談でも、そんなこと言わないで下さい』
 突然響いた声に、パティの身体が硬直する。今聞こえた声は、ここにいないはずの人間の声。そして、今話題にしていた人間の声。
「イ、イヴ?」
『わたし以外の誰だというんです?』
 かすかに震えているパティの声に、冷静に応えるイヴの声。が、声はすれども姿は見えず。彼女の声がどこから聞こえてくるのか、パティには全く分からなかった。声の感じからすると『遠話(ファー・トーク)』の魔法を使っているらしいから、おそらくは離れた場所にいるのだろうが――
「一体どこにいるわけ?」
 白旗を掲げ、メルフィに解答を求める。先程からにやにやと笑いを浮かべている彼のことだ。イヴがどこにいるのか知っているのだろう。
 パティがそのように言うと、
「ま、ね。それじゃ、ぼちぼち種明かしするとしましょうか」
 人の悪い笑いを浮かべたまま、隣に置いてある鞄を取り上げるメルフィ。ぱちりと音を立てて、掛け金を外す。そして――、
「出て来なよ、イヴ」
『はーい』
 ごそごそと音を立て、鞄の中で何かがうごめく。そしてのそのそと何かがそこから出て来て――、
『おはよう、パティさん』
「…………」
『…………』
「う、嘘おおおぉぉぉっ!?」
 ――パティの絶叫が周囲一ブロックに響き渡ったのは、きっかり十秒間の沈黙の後だった。





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