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「ちびイヴちゃん 第三話」 ふぉーちゅん  (MAIL)
 壊れSS ちびイヴちゃん

第三話 やっぱり事件の原因は……

一、
「……何がどうなってるのか、だいたいのことは分かったよ」
 奥の部屋から出てきたメルフィの最初の一言は、まずそれだった。
 チョップとフライパンの攻撃からメルフィが生還してから約一時間半後。「さくら亭」のテーブルを一つ占領して、事件の被害者たちが顔を揃えていた。この一時間半を使って四人の身体を調べていた彼から、この事態の原因と対処法を聞くために。
 集まっている六人の顔を、メルフィは順番に見回すと、
「まずは四人の共通点から説明しましょう」
 なぜか講義口調で説明を始めた。エンフィールド学園で魔法の講義をするときの口調にそっくりである。
「四人の身体を調べたところ、各部分の細胞がおよそ八分の一の大きさに縮小していました。そのために身体が小さくなったわけです」
 うんうんと頷く六人。メルフィは彼女たちが理解していることを確認すると、話を続ける。
「その原因ですが、やはり何らかの魔法によるものと推察されます。体内の各組織に魔力の残留が確認されました。四人が四人とも、質は違いますがそのパターンは一緒です」
『はい、質問』
 右手を挙げて質問するシェリル。意外とノリがいい。
『質が違うのにパターンは同じってどういうことですか?わたしたちの魔力は、四人が四人とも違うタイプのはずですが』
「良いところに気が付きましたね」
 どこからか黒板を取り出し、簡単な図を書き始めるメルフィ。
「この魔法は、対象になった人間の魔力を利用することによって発動します。術者がやっていることは魔法式の形成だけ。対象者から魔力を抽出し、その魔法式に合わせて魔法が発動するため、質が違っても動作パターンは一緒ということになるわけです」
『分かりました、先生』
 シェリルが納得するのを見て、話を次に移す。
「それでその魔法をかけられたルートですが――どうやら、食べ物絡みですね」
「食べ物?」
 トリーシャが怪訝な顔をする。
「はい。胃や食道など消化器に反応がありました。おそらくは魔法薬なんでしょうけど……皆さん、昨日何か変わったもの食べましたか?」
 メルフィの質問に、四人から様々な答が返ってくる。
『僕は学園祭で学校に詰めてましたから、学食の他には出店で買った二、三品だけですけど』
『えーっと、昨日はエセルお兄ちゃんとデートでさくら亭でパフェ食べたあと、学園祭でスパゲッティとかき氷とクッキーとたい焼き』
『わたしは基本的にあなたと同じものしか食べてないはずだけど』
『わたしもほとんど学校にいましたから……学食の他には、トリーシャちゃんが持ってきたクッキーくらいです』
 誰がどの科白であるのかは、「悠久」ファンならすぐに分かるだろうから省略するとして――メルフィはその「クッキー」とやらに引っかかりを感じた。
「トリーシャ、シェリルに渡したクッキーって、ひょっとして正門から四つ目の店で売ってたやつだったりする?」
「うん。バニラとチョコチップ、二種類詰め合わせの袋入り。両方ともボクたちで焼いたんだけど」
 心当たりがありすぎる。そのクッキーだったら、彼も買ったのだ。当然、イヴも食べている。
「ひょっとして、クリスやローラも買った?」
『はい』
『うん。両方とも両方ともすごく美味しかったけど……そっか、あれトリーシャちゃんたちが作ったんだ』
「……どうやら、そのクッキーが原因だな。誰か、まだ残っている人は?」
「あ、それだったら売れ残りが少しうちに」
「取ってきて。それと、できたら材料も」


二、
「結論から言うと、今回の原因は『これ』だった」
 トリーシャが持ってきた材料をメルフィが分析したところ、その結果は――、
『……バニラエッセンス?』
 メルフィが振っているのは、手の平ほどの大きさの、口が細い茶色い小瓶。イヴの言うとおり、どこから見てもバニラエッセンスである。ただし、何のラベルも貼られていないのが、気になると言えば気になるが。
「残念だけど、これはバニラエッセンスじゃないよ。一種の魔法薬で、効果はイヴたちが身をもって実証してくれているとおり」
 つまり、生物の身体を縮める薬というわけだ。
「それを、誰かが間違って使ったってわけ?」
「ああ」
 パティの言葉に、重々しく頷くメルフィ。
「まあ味も匂いもそっくりだから間違えても無理はないと思うけど」
『だけど、このクッキー、アレフくんやピートくん、それからエルさんやリサさんたちも買ってましたよ。三人は分かりませんけど――少なくともリサさんは小さくなってないみたいですけど』
 天井を見上げて、クリスが言う。二階から響いてくる、盛大ないびきの音。間違いなくリサが発生源だ。これだけ大きな音を立てているくらいだから、小さくはなっていないのだろう。
「それなんだけど――はっきり言って分からない。詳しいことは製作者に聞くしかないんじゃないかな」
『分かるんですか!?』
「ああ。推察だけど、ね」
 驚きの声を上げるシェリルに、分からないかなあ、という視線を向ける。
「事件が起こった場所がエンフィールド学園で、事件の原因が魔法薬。学園関係者で、魔法薬を使ってこんなことをやりそうな人物といえば、さて誰でしょう?」
 メルフィの言葉に、一人の少女の名前が挙がる。
『マリアさんね』
「マリアね」
『マリアちゃんだね』
『マリアちゃんですね』
「マリアだね」
『マリアちゃんだね』
 そう、こういう騒動を起こしそうな人間は、彼女以外考えられない。それはこの街に住む者たちの、共通の認識だった。
「あの一件以来、懲りたと思っていたんだが……どうやら考え違いをしていたらしいな」
 あの一件――ご想像のとおり、『ラブ・ポーション』の事件である。あのときメルフィはアルベルトに迫られたりトーヤに迫られたりと、散々な目にあったのだ。
「どうやら、こんなところで着々と伝説を築いていたらしいな……というわけで、マリアを捕まえに行くぞ」
 ひょいっ、とイヴを肩に載せ、先に立って店を出ていくメルフィ。三人をバッグに戻したトリーシャもあとに続く。何か異様な雰囲気に、パティはそれを黙って見守るしかなかった。

 しかしながら、ショート邸に着いた六人を待っていたものは――、
「お嬢様あぁぁぁぁぁぁっ!!」
 騒ぎまくっている執事の姿と、
『しばらく旅に出ます。探さないで下さい  マリア』
 丸っこい文字でそう書かれた、マリアの書き置きだった。



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