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「ちびイヴちゃん 第五話」 ふぉーちゅん  (MAIL)
  壊れSS ちびイヴちゃん

  第五話 様々な過去

  一、
 イヴが小さくなってクリスとシェリルとローラが小さくなって元に戻ってついでにマリアが小さくなったその翌日――
「ただいま」
「ただいまッスー」
 アリサとテディが旅行から帰ってきた。三泊四日の温泉旅行、それを終えた彼女たちは普段どおりにジョートショップの扉を開いたのだが――、
「お帰りなさい。アリサさん」
『お邪魔しています』
『…………』
 表情の選択に困っているメルフィとイヴの姿に、
『ええぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇ!?(ッスー)』
 ジョートショップの店内に、一人と一匹の悲鳴がこだましたのだった。

「そ、そう、そんなことがあったの」
 十五分後――表面上はなんとか落ち着きを取り戻したアリサは、食堂のテーブルに座っていた。彼女の向かいにはメルフィが座り、さらにその横には、彼に寄り添うようにイヴがテーブルの上に座り込んでいる。三人の前にはそれぞれ紅茶のカップが――イヴの分はメルフィが小さくした――置かれていた。
「それにしても、マリアちゃんも相変わらずね」
 ざばざば
 アリサの前のカップに大量の砂糖が投入される。表面的には落ち着いている彼女だが、やはり動揺しているのだろう。三杯、四杯、五杯……紅茶は、既に飲むことが不可能な領域に達していた。
(しかし、それにしても……)
 眼が治ってから感情表現が豊かになったとはいえ、相変わらず多少天然ゆったりおっとりのんびりのアリサをここまで動揺させるとは――さすがはマリアといったところだろうか。いろんな意味で。
「それで、マリアちゃんも今小さくなってるわけ?」
「ええ。まあ、今晩くらいには戻るはずですが」
『あら?確か三日って……』
 アリサの問いに対する答えに、イヴが反応する。それに対し、メルフィは軽く苦笑いを浮かべた。
「ああ、あれは嘘」
 マリアに言ったのとは裏腹に、術の効果は三六時間、一日半で消えるように設定してある。マリアの忍耐力が三日も保つとは思えないというのが一番の理由ではあるが、もともとメルフィもそれほど怒っていたわけではないのだ。クリスたちを抑えるために、あえてあのような処置を施したのである。
「本気だったら、三日どころか永久に小さいままにしておくさ。もちろん魔力も封印するし」
『な、なるほど……』
 メルフィの科白に、思わず冷や汗を浮かべるイヴ。彼がそのように言うのは、けしてはったりや冗談ではない。彼にはそれを可能とするだけの力があるのだ。そして彼女は、ある意味そのことを一番良く知っている人間なのだから。


  二、
 メルフィスラート・ラインソードとイヴ・ギャラガー――この二人がつきあうようになったきっかけは、だいたい半年前に遡る。
 今年の三月末のある日、ジョートショップではあるパーティーが開かれていた。パーティーの名は『メルフィ君無罪確定おめでとうパーティー』(アレフ・コールソン命名)。フェニックス美術館盗難事件の解決と、それによるメルフィの潔白証明とを祝うパーティーである。
 メルフィ、アリサ、テディのジョートショップメンバーにアレフ、クリス、ピート、エル、シェリル、パティ、シーラ、マリア、メロディ、リサの悠久1メンバー、それにリカルド、アルベルト、イヴ、カッセルとを加えた本当に関係者だけのパーティーだったのだが――その席上で、イヴが突然倒れたのだ。
 当然パーティーは中止、イヴはクラウド医院に担ぎ込まれた。そして精密な検査が行われたのだが――その結果、驚くべきことが判明した。
 イヴと、そしてトーヤの口から語られた、二人の他にはメルフィしか知らない彼女の秘密。それは彼女が彼女の父、ルーク・ギャラガーの最後の作品であるという事実だった。そして彼女は身体の不調――機能不全の発生により倒れたのである。
 実を言うと、このイヴの身体に起きた不調はトーヤの手に負えるものではなかった。限りなく完璧に近づけているとはいえ、やはり人間の業に完全なものはない。今まで生きてきた十八年間によって、彼女の身体は手の付けようのない状態になっていた。少なくとも真っ当な方法では。であるのに、なぜイヴがここに生きているのかというと――結論から言うと、イヴを助けたのはメルフィだった。
 メルフィはついこの間まで過去の記憶を失っていたのだが――シャドウがその辺の記憶を全部持っていっていたのだ――、シャドウと再融合することによって記憶、そして知識を取り戻した。そして元素変換魔法を利用することによって、イヴの身体を造り替えた。完全な、人間の身体に。当然、機能不全など跡形もなくなり、彼女は九死に一生を得たのである。
 しかし、この出来事にイヴは困惑した。実を言うと、彼女は倒れる以前から自分の身体のことを知っていた。ルークが亡くなる前に残した手紙を、彼女は数ヶ月前に発見していたのである。それによって明かされた事実はトーヤによって確認され、そして彼女はそれをなんとか乗り越えようとしたところだった。そして今度は人間の身体。つまり彼女は、わずか数ヶ月の間に「人間→人形→人間」と自分の存在を揺さぶられたのである。
 この一連の事件はイヴの精神に深い痕を残した。自分の全存在、存在理由が翻弄されるという事実。仮にメルフィの支えがなかったとしたら、彼女の心は壊れてしまっていただろう。彼自身過去に傷を持つ身であり、イヴの姿に自分を重ねていたのかも知れない。そしてこういった境遇にある二人が互いを求め合うことは、むしろ当然のことだった。そしてそのまま現在に至る。
 この事件――様々な人間に波紋をもたらしたこの事件は、少なくとも二人の人間には自分の半身となるべきものを提供したのかもしれない。






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