中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「未来への旅人 出会いの鐘」 月虹  (MAIL)
「腹・・・・減った。」
 何度そのセリフを言ったことだろう。
 その言葉を発した青年は黒いズボン、手首まである黒いシャツ、右手には黒い皮手袋、右手首には虹色の腕輪がシャツの袖口をしっかりと止められており、その上には白いジャケット。ジャケットの両肩からは虹色の線が袖口にかけて引かれていた。
 その青年の髪は長く黒色で、髪を後ろの先でまとめている、その髪にも一筋の虹色の髪が流れている。
 その青年は、丸いサングラスを掛けておりその顔はわからない。
 だが、そこそこのハンサムだと思われる。
「腹が減っては戦はできぬと言う事でありまスな。ボス。」
「そやそや、ウチらも腹が減って死にそうスよ。オヤビン。」
 と、いきなり肩に乗っていた生物がしゃべり始めた。
 2匹とも犬をちいさくしたような生物で、“ボス”と言った方は全身を真っ黒な体毛で覆われていて、“オヤビン”と言った方は全身を真っ白な体毛で覆われていた。
「うるさい、耳元で騒ぐな。ただでさえ丸5日何も食ってないんだ腹に響く。」
 そう、この青年はこの辺りに迷い込んでしまい、もう10日も経つ。しかも溜め込んでいた食料も4日目に全て無くなり5日目にはそこら辺に生えている草を食べていた。
 しかし、6日目に入ると身体を壊し食べるのをやめた。
「やばいな、このままだと餓死する恐れが出てきたな。」
 と、リュックの中の探りながら呟く。
「ん?、これは。」
 リュックを探る手の動きが止まる。
 その手には、薬草が握られていた。
「やった、これで少しは腹の足しになる。」
 と、口に入れようとする。
「やめておくでありまス。また身体を壊してしまうでありまス。ボス」
「そうやで、止めておいた方がいいんやないっスか。オヤビン」
 2匹が止めにはいる。
「うるさい、俺はもう死にそうなんだ、だまってろ。それにこれは食える草だ。」
 と、言うが早いが食べてしまう。しかし、美味しくないらしく吐き出してしまう。
「はあ・・・俺はこんな所で死ぬのか。」
 と、あきらめ出したその時、2匹が騒ぎ出す。
「ボス、ボス、あそこに街があるでありまス。」
「街や、街や、これでウチらは死なずに済むんスね。オヤビン。」
 と、前方を見ると遠いところではあるが、確かに街がある。
 大急ぎで、街に向かい走り出す。
「やったぞ、これで死なずに済む。天はまだ俺を見放さなかったんだ。」
 ピタッと、急に足が前に進まなくなる。
「むむ、これはどうした事だ前に進めない。」
 と、考え込んでしまう。2匹が何か言っているようだが耳には入らない。
 下を見ると空が広がっている、というより地面が遥か下にある。
「なるほど、崖から飛び出してしまった。というわけだな。」
 考え込んでから結論を出す間にもだんだんと身体は落ちてゆく。
「ああああああーーーーーーーーーーーー」
「ボーーーースーーーーーーーーーーーー」
「オーーヤーーービーーーーンーーーーー」
 三者三様の悲鳴を上げながら落下して行く。


              青年が落下する少し前。
「ご主人様、なんでこんな所にきたっスか?」
 と、先ほど青年と一緒にいた生物を黄色にしたものが、後ろに向けて声を発した。
「たいした理由じゃないのよ、テディ。」
「あの人が、テディ・・・あなたを連れて来た日が今日だからよ。」
 声を掛けられた女性、アリサ・アスティアはそう答えた。
 テディが話し掛けようとした瞬間、アリサがそれを止めた。
「どうしたんスか、ご主人様?」
「テディ、今何か聞こえなかったかしら。」
 言われて、耳を澄ましてみる。
 しかし、何も聞こえなかった。
「なんにも聞こえないっスよ、ご主人様。」
「いいえ、やっぱり聞こえるわテディ。」
 仕方なく、もう一度耳を澄ましてみる。
 すると、遠くの方から声が聞こえてきた。しかもだんだん近づいてくる。
「ほんとっス、でもどこから声がするんスかねえ。」
 と、辺りを見回す。
「ああーーーご主人様。上っス、上から人が落ちてきてるっス。」
「大変、テディどの辺に落ちるかわかる?」
「このまま、真っ直ぐ行った崖下のところっス!」
 急ぎ足で崖下の所に向かう。
 もう少しで崖下に着くという所で、ドサッ、という音が聞こえた。
「ああ、間に・・合わなかった・・スね。」
 たとえ、間に合っても1人と1匹では何もできなかっただろうが。
「いいえ、まだ生きているかもしれないわ。」
 と、テディを促して急いで崖下に向かう。


 崖下には、先ほどの青年がピクリともせずに倒れていた。
 一緒にいた生物達はその場にはいない。
 青年が倒れている少し上のほうには、小さな小さなクレーターができていた。
(くそ、後少しで街だというのに、こんなヘマを踏むとは。)
 と、胸中で毒づく。
(はあ、こんな・・最後になる・・とは・・な。)
 だんだん、意識が薄れてゆく中、声が聞こえた。
(幻・・聴・・・・・か?)


「ご主人様、いたっス!、いたっス!」
 と、テディが騒ぎ立てる。
「テディ息をしているか調べて。私は脈を調べるから。」
「ういっス。」
 1人と1匹は青年を調べ始める。
「・・脈はあるわ。」
「こっちも息はしてるっス。」
「テディ、エンフィールドに戻って人を呼んできて。トーヤ先生のところに運ぶのよ。」
「ういっス。・・・?ご主人様この人何か言ってるっスよ!」
「テディ、なんて言ってるの?」
「ちょとまってくださいっス。」


(うう・・?話し声が聞こえる?さっきのは幻聴じゃあなかったんだ。)
(?・・運ぶ?・・どこに?いや、それよりも何か言わなくちゃ!)


「・・・・・」
「テディ、なんて言ってるの?」
「・・・・・・・腹減った。て言ってるっス。」
「まあ・・。」
     
     この出会いこそが新たな悠久の歴史の始まりの鐘の合図だった。


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