「未来への旅人・安息の地(前編)」
月虹
(MAIL)
「それにしても良く食べるっスねえ。」
テディが呆れたように声を出す。
「それだけお腹が空いてたってことでしょう?」
と、アリサがおかわり用の皿を取りに席を立った。
「そんなもんスかねえ。」
ここは、エンフィールドの中にあるジョートショップと言う何でも屋。
青年がエンフィールドに運び込まれて2日後、青年は目を覚ました。
そして今、青年はジョートショップで一心不乱にご飯を食べていた。
なぜ青年がこの場に居るかというと、話は2日前にさかのぼる。
「トーヤさん、どうですかこの子の具合は?」
アリサが心配そうな声で尋ねる。
「心配要りませんよアリサさん。命に関わるような怪我はしていません。」
「でもよ、崖から落ちたんだろ?どうしてこいつはほとんど無傷なんだ?」
と、横から帽子をかぶった優男、アレフがトーヤに尋ねた。
「それは、本人に聞いてみれば分かるだろ。」
アレフの後ろにいたエルフ、エルがその問いに答えた。
「そいつは今起きているのかい?」
銀髪の戦士風の女性、リサが尋ねる。
「いや、まだ寝ている。」
「何だ、起きてないの?つまんな〜〜〜〜い。」
金髪の少女、マリアが不満の声を上げる。
「マリア、無理言っちゃだめだよ。」
「そうですよマリアちゃん、それにもう少し静かにしないと。」
大きな黄色リボンが特徴的なトリーシャと髪を三つ編みにし、メガネをかけているシェリルがマリアをなだめる。
「でも、ほんとにどうしてなんだろう、あの高さから落ちたらただでは済まないのに。」
と、だぶだぶの服を着た小柄な少年、クリスが首を傾げた。
「そんな事より、お前達はとっとと帰れ。後はこっちで何とかする。」
トーヤの一喝によりアリサとテディ以外は帰っていった。
「アリサさんも帰っていいですよ。後は私がなんとかしますから。」
「ええ、でも、もう少しだけ居させて下さい。」
「でも、あの人本当に大丈夫なんスか?」
その問いにトーヤの表情がわずかに曇る。
「100%大丈夫だとはいえん。だが話を聞いた所から推察すれば栄養失調だというは間違いないだろう。怪我の方はたいした事は無いから動く事はできるだろう。ただ・・」
「ただ、なんスか?」
「ただ、右腕と左足だけは封印のような物が施されていて診察できなかった。」
「封印・・スか?」
「ああ、それも恐ろしく頑丈な代物だ。だが命に関わる物ではなさそうだ。」
「そうスか。」
「しかし、このまま目を覚まさなかった時はどうするかだな、ずっとここに置いておく訳にはいかんし。」
そう、クラウド医院とて慈善事業ではない。見ず知らずの他人、それも素性の知れない旅人をいつまでも置いておく訳にはいかない。
「もしよろしければジョートショップでお預かりいたしましょうか?」
と、アリサがトーヤに申し出る。
「こちらとしては助かりますが、よろしいのですか?」
「ええ、どうせテディと2人きりですものかまいませんわ。」
「ご主人様、こんな見ず知らずの人を店に入れない方がいいんじゃないんスか。」
と、テディが反対する。
「だめよテディそんな事を言っては。困ったときはお互い様よ。」
「ういっス。お互い様っス。」
いきなり掌を返すテディ。
「では、明日も目が覚めない様なら皆さんに頼んでジョートショップに運んでもらいますから。」
「助かります、アリサさん。」
「それではまた明日、おやすみなさい。」
「さようならっス。」
トーヤに挨拶をしてジョートショップへと戻っていった。
結局次の日も青年の目が覚めることがなく、ジョートショップに運ばれていき起きたのは次の日だった。
そして今現在。
「ほんとに良く食べるっスねえ。」
と、言いながら自分も料理をつまむ。
次の皿が来るころ青年の手が止まる。
「ふ〜〜〜生き返った。」
「あら、もういいの?」
大皿10枚を1人で平らげて、もういいの?所では無いだろう。
「はい充分です。それと済みません、起きたばかりで自己紹介も無しに他人の家のご飯をご馳走になってしまって。」
あれだけ食っておいて言うセリフではない。
「いいのよ、子供はそんな事気にしなくて。」
だが、アリサはそんな事など気にしてはいない様だ。
「とにかく自己紹介だけはしておくっス。ボクの名前はテディっス。」
まだ料理を食べていたテディがいきなり自己紹介をはじめた。
「そうね。私の名前はアリサ・アスティア。このジョートショップの経営者よ。あなたは?」
「俺ですか?・・・俺は・・・ファバルです。」
少し口篭もりながら答えた。
「どうしたの?」
「いえ、俺は1年前から記憶喪失なんでその名前があっているか不安なんですよ。」
少しの間沈黙が流れる。
「そ、そういえばさっきボクを見て驚いていたっスけど、どうしてっスか?」
と、テディが話題をそらす。
「ああ、そう言えばこいつらの紹介がまだだったな。うっかりしていたよ。ちょっと待ってくれ。」
「紹介って、まだほかに誰かいるんスか?」
「まあ、待ってろて。おい、お前らさっさと出て来い。」
そう言うと、ポンッという音と共に何かが現れた。
「自分達を忘れるなんて、ひどいでありまス。ボス。」
「食い物の恨みは恐ろしいやでっス〜〜。オヤビン。」
と、いう声と共に色違いのテディがそこにいた。
「ボ、ボ、ボ、ボ」
「ん?どうしたテディ“ボ”なんて連呼して。」
「ボ、ボ、ボクがもう二人いるっスーーーーーーー。」
声を張り上げて叫ぶ。
「ああ、俺もお前を見たときおどろいた。」
「これは驚いたでありまス。自分達に似た者を見るのは初めてでありまス。」
「そやな〜〜これはほんまに驚いたでっス。」
テディに似た2人(2匹)も驚きの声をあげる。
「本当にそっくり、毛の色と喋り方を除けばまったくおんなじね。」
アリサも驚いている。
「それよりも2人とも自己紹介をしろ。」
「す、すいませんでありまス。ボス。」
「あちゃ〜〜ウチらとした事が、えろうすいませんっス。」
2人(2匹)が皆に謝る。
「まずは自分からでありまス。自分はコクバと申すでありまス。以後よろしくでありまス。」
まず、はじめに黒い毛の方が自己紹介をはじめた。
「つぎは、ウチっスね。ウチはアメリちゅうんっス。よろしゅうたのんまっス。」
次に、白い毛の方が自己紹介を済ませた。
「私はアリサ。」
「ボクは、テディっス。」
アリサとテディも自己紹介を済ませる
「それで、どうするのファバルクン。これからのことは?」
と、アリサが急に尋ねてくる。
「これからの事ですか?アリサさんには恩もあるからそれを返しておきたいんだけど、持ち合わせも無いし。」
悩むファバル。その頃コクバとアメリは残った料理を幸せそうに食べていた。
「行く当てが無いならウチに来たらどうかしら?」
「そこまでお世話になる事なんてできませんよ。」
「いいの、そんな事気にしなくて。それに、テディと2人きりだと結構寂しいのよ。」
断るファバル。それを説得しようとするアリサ。
(はあ・・アリサさんの誘いを断るのは無理か。俺が不安なのはあいつらの食費なんだよなあ。あいつらだけで2人分食うからな都合3人分食い扶持が増えるんだよなあ。)
コクバとアメリはテディと同じくたくさん食べる。たたでさえ、ジョートショップの家計は苦しいのにここで3人分増えたらどうなるか、ファバルはその事を心配していた
(仕方ないか、俺がその分を稼げば問題無いか。それと、あいつらには食いすぎないよう言っておくか。)
「分かりました、お世話になります。ですが俺は店員として働かせてもらいます。」
「わかったわ。それじゃあ早速で悪いんだけど、これを届けてくれるかしら?」
「これ、なんですか?」
「ケーキよ。ファバルクンを助けるのを手伝ってくれた人達にあげるのよ。届けるついでにお礼を言ってきたらどう?テディ案内してあげて。」
「わかりましたっス、ご主人様。」
「それじゃあテディ、先に外に出ていてくれ俺は少し準備がある。コクバ、アメリ来い。」
と言って、2階に上がっていく。
「ふう。」
「大丈夫でありまスか?ボス。」
「大丈夫だ。今の所は、な。」
「無茶もええところやでっス。“スペア”かて幾つもある訳やないんスよ。」
「ああ、分かっている。だがゆっくり休養していたし、心配した程じゃあない。換える必要は無いだろう。それよりもテディが呼んでいるさっさと行くぞ。」
「了解したでありまス。」
「ウチはこっちに残らせてもらうさかいにっス。」
「分かった。だが余計な事は喋るなよアメリ。」
「ウチにぬかりはないっス。」
「じゃあな。」
と言い残してファバルとコクバは出ていった。