中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「未来への旅人 安息の地(中編)」 月虹  (MAIL)
「まずはどこに行くんだテディ?」
 前を歩くテディにファバルが尋ねる。
「そうっスねえ、まずはさくら亭にでも行ってみるっスか?」
「さくら亭?どんな所なんだ?」
「さくら亭は宿屋を兼ねる大衆食堂っス。ファバルさんを助けるのを手伝ってくれた人達はよくここに集まるっス。」
 説明をしてくれるテディにファバルはそうか、と答える。
「大衆食堂でありまスか。一度食事をしたいものでありまスな。」
 ファバルの肩に乗っている黒色のテディ、コクバが答えた。
「それよりも早く行くぞ。」
「ういっス。」
 テディの案内でさくら亭へと急いだ。


カラン、カラン・・・
「お邪魔するっス。」
「テディじゃない、いらしゃい・・・あら、そっちは?」
 テディに挨拶をしたショートカットの少女、パティは見なれない人物に視線を注いだ。
「パティさん忘れたっスか?崖から落ちた人っスよ。」
 事実なのだが、身も蓋も無いことを言うテディ。
「ああ、あの時の。もう出歩いても大丈夫なの?」
「大丈夫だ。しかしその事を聞くってことは、あんたも俺を助けてくれたってことだな?本当に済まない、礼を言うよ」
 パティに頭を下げるファバル。
「別にいいわよ、そんな事気にしなくて。で、なんの用?」
「ああ、そうだ忘れるところだった。これをアリサさんが手伝ってくれた人に分けてくれって、それと俺を助けくれた人へ礼を言って回ろうと思ってな。」
 と言って右手で持っていた箱を差し出す。
「へえ、アリサおばさまが。」
「それから、テディの話によると俺を助けてくれた人達はよくここに集まるそうだが、今、ここにいるのか?」
「いるわよ。ほら、そこのカウンターに。それよりも座ったら?」
 パティの言葉を聞いてカウンターを見てみると、そこには戦士風の女と三つ編みをしてメガネをかけた少女といかにもお嬢様風の少女が座っていて、こちらを見ていた。
「とにかく座りなさいよ、自己紹介はそれからするわ。それと、そっちのテディそっくりなあんたもね。」
「分かった。その前にコーヒーを1つ頼む。」
「OK。わかったわ。」
 そう言うと、パティは厨房へと入っていった。
 厨房へ入ったのを確認したファバルはカウンターに近づき、
「俺を助けてくれたんだってな。済まない、礼を言わせてもらうよ。」
 頭を下げそう言い、1つ離れた席に座った。
「別にいいんだよ、そんな事。」
「そ、そうですよ。それに困ったときはお互い様ですし。」
 リサとシェリルがファバルの言葉に答える。ただ一人シーラは俯いて何も言わない。
「どうしたんでありまスか?」
 と、いつのまにかシーラの前に移動したコクバが尋ねる。
「あはは、シーラは男の人にてんで免疫がないのよ。」
 パティが厨房から戻ってきて、そう教えてくれた。
「免疫でありまスか。」
「そう、シーラは小さい頃からピアノの勉強であまり外に出なかったのよ、そのせいでお父さんとピアノ先生以外まともに話せる男の人がいないのよ。」
「それは大変でありまスね。」
「少しは良くなった方よ。だから、シーラの紹介はあたしがするわね。シーラ・シェフィールド、シェフィールド家の一人娘でピアニストを目指してるのよ。」
「へえ、一度聞いてみたいもんだな。」
「そうでありまスね。」
 その言葉にシーラはますます俯く。
「あはは,シーラ挨拶ぐらいしたら?」
「パ,パティちゃん。」
「ゴメン、ゴメン。じゃあ次はアタシね、アタシはパティ・ソール。このさくら亭の看板娘よ。」
「わ、私の名前はシェリル・クリスティアです。しゅ、趣味は読書です。」
「最後は私だね、私はリサ、リサ・メッカーノ。少し前までは傭兵をやっていたんだけど、今は休業中さ。で、ボウヤの名前は?」
「ボ、ボウヤ?」
 少し戸惑った様子でオウム返しするファバル。
「私から見れば、まだまだボウヤさ。」
「はあ、ボウヤ・・か、まあいいか。俺の名前はファバル。ジョートショップで店員として働く事になった。改めてよろしく頼む。で、こいつは・・・」
 と、テーブルに乗っているコクバを指差す。
「自分の名前はコクバというでありまス。以後お見知りおき下さいでありまス。」
「と、いうわけだ。ほかに何か聞きたい事はあるか?」
 そう言った後、コーヒーに手を伸ばしその中に塩を入れる。
「あんた、よくそんな物飲めるわね。」
 パティが驚きと半ば呆れたような声をあげる。
「そうか?結構うまいと思うんだが・・・。」
「アタシは遠慮したいわね。」
 パティとそんな会話をしているとシェリルが話し掛けてきた。
「あ、あの・・・聞いてもいいですか?」
「ん?ああ、いいぜ。」
「崖から落ちたんですよね?それなのにどうして平気なんですか?」
 その問いに、ファバル少し悩み、そして答えた。
「う〜〜ん、実は俺もよく分からないんだ。崖から飛び出して、気が付いたら崖下にいたんだ。それから少し経ってアリサさん達の声が聞こえて、そのまま気を失ったんだ。」
「なんだ、あんたもわからないんだ。」
 と、これはパティ。
「それよりもボウヤ・・・ちょっといいかい?」
「なんだ?リサ。」
「どうしてサングラスを掛けたままでいるんだい?それは相手に失礼じゃないかい?」
 確かにファバルはサングラスを掛けっぱなしである。
「い、いやこれは俺のポリシーみたいなもんだし。そ、それとチャームポイントなんだ。」
 明らかにうろたえた声で言い訳するファバル。
「そ、そうでありまスよ。そ、それに外してもつまらないでありまスよ。」
 コクバも必死に止めようとする。だが、そんな事をいわれればますます気にしてしまう。
「あやしいっス、あやしいっス。なんか隠してるっス。」
 今まで寝転んでいたテディがいきなり話に参加してきた。
「隠してるかどうかは知らないけど、とにかく礼儀だけはしっかり教えてやらないと。パティ、手伝って。」
「OK、いいわよリサ。」
「パ、パティちゃん嫌がってる事を無理やりするのは・・・。」
「そ、そうよ。やめた方がいいと思うわ。」
 二人を止めようとするシェリルとシーラ、だがその二人の言葉は歯止めにはならなかった。
「パティ、今だよ。」
「それ!さあ、顔を見せなさい。」
 一瞬の隙を付かれリサに羽交い締めにされ、パティにあえなくサングラスを取られたファバル。しかし、当初の目的と違ってきている。
「あ・・あ、とってしまったでありまスか。」
 コクバが肩を落とす。
「さてと、どんな顔してるのかしら・・・・・・ああ!」
「な、なんだい、急に大きな声を上げて。どうかしたのかい?」
 パティは黙ってファバルの顔を見ていたが、少しすると大きなため息をつきリサに話し掛けた。
「リサは見ないほうがいいかもよ。」
「なんだい?そんなこと言われたら気になるじゃないか。」
 リサは、そう言うと前に回った。この時ファバルはサングラスを取られたショックからかその場に座り込んでいた。
「どれどれ・・・・・・!!」
 リサの動きが止まる。それに伴いシェリル、シーラ、テディが集まってくる。
「ど、どうしたんですか?」
「どうかしたの?」
「ファバルさんの顔がどうかしたっスか?」
 三人(二人と一匹)が尋ねるとリサは無言でファバルの顔を指す。「どれどれ」と言う感じで顔を覗き込む。すると、
「「「あ!!」」」
 と、大きな声を上げ、その後にそれぞれ声を出す。
「わあ・・・」
「きれい・・・」
「ほんとっスねぇ。」
 サングラスを取ったファバルの顔は中性的と言うよりむしろ女性的である。髪が長いのでそれがさらに相乗効果をあたえ女らしく見える。注意深く見なければ男だとはわからないだろう。
「こうなると分かっていたから止めさせようとしたのでありまス。」
 誰に言うでもなくコクバはつぶやいた。

「これでもういいだろう?」
 あれから10分後ようやく落ち着いたファバルがそう切り出した。この時ファバルはサングラスをちゃんと掛けていた。
「ふ〜〜ん、サングラスを掛けてると男っぽく見えるんだ。」
「パ、パティちゃんそれはファバルさんに失礼じゃ・・・・」
「いいんだよシェリル、それくらいの事は気にしないから。」
 そういいながらもコーヒーカップを持つ手が少し震えている
「でも、きれいなのにそれを隠すなんてもったいわ、ファバルくん。」
「シーラさんもそう思うっスか?」
 ファバルに慣れてきたのか、ファバルに話し掛けるシーラ。
「シーラもテディもやめてくれよ、そう言う事を言われたくないからサングラスをしているんだから。」
「ボウヤもたいへんだね。」
「他人事だと思って。」
 そんな他愛も無い話を続けていると店の奥で酔っ払いが喧嘩をはじめた。
「ちょっとケンカなら外でやってよ!!」
 パティが酔っ払い達に大声で文句を言う。
「ああ〜〜なんだと〜〜オレ達にけち付ける気か!」
 そう言って、酔っ払い達が近づいてきた。
「あんた達、やる気かい?」
 リサが酔っ払い達を挑発する。
「んん〜〜〜?結構かわいい子が揃ってるじゃねえか、オレ達に付き合ってくれよ。」
 酔っ払い達は、シーラとシェリルに近づいていく。
「は、離してください。」
「へっへっへ・・嫌よ、嫌よもいいのうちってか?」
 酔っ払いがシーラを掴み離そうとしない。
「やめろ。さっさとその手を離せ。」
 それをファバルが止めにはいる。
「かっこつけてんじゃねえよ!」
 酔っ払いがファバルを突き飛ばす。
「っ!いてて。」
「かっこつけてるからそうな・・・ん?なんだてめえの顔、まるで女みてえじゃねか。おい来てみろよ。ここにも美人が居るぜ」
 シェリルにちょっかいを出そうとしてた酔っ払いがこちらに来る。
「ほんとだぜ、すげえ美人じゃねえか。」
 そう言うと二人して笑い出す。
「あ・・・あ・・・あ、に、逃げた方がいいでありまス。」
 コクバが急に震え出した。
「だれがだい?ボウヤかい?」
「あの酔っ払い達でありまス。ボスは自分の事を女とけなされるのを凄く嫌がるんでありまス。少し前もこんなことがあったでありまス。」
「その時はどうなったの?」
「その時はゴロツキ達でありまスけど、その時は相手が命乞いしてもゆるさなかったでありまス。相手が気を失ってやっとゆるしたでありまス。」
 説明をしている間も説明が終わってもコクバはずっと震えていた。コクバは怒ったファバルではなく何か別のものを恐れているようだ。
「だれが・・・・女だって?」
「てめえだよ。・・・なんだ怒ったのか?何度でも言ってやるよ。この女顔。」
「そう・・・・か。」
 そう言うと、顔を下に向ける。そしてシーラを掴まえている酔っ払いに近づく。酔っ払いの前に来るといきなり右手で酔っ払いの頭を掴む。
「な、なにしやがんだ。てめ・・・・う、うおお。」
 抗議しようとした酔っ払いの体が中に浮く、右手一本で。それに伴いシーラを掴んでいた手が離される。その隙にパティがシーラをファバルの後ろに連れていく。
「こ、この野郎離しやがれ。」
「悪いな・・・俺は耳が悪くてなもう一度言ってくれよ。」
 そう、ファバルが言うと手に力をいれる。少しすると、ミシミシという音が聞こえて酔っ払いが悲鳴を上げた。
「なんだもうギブアップか?」
 そう言って手を離す。酔っ払いは頭を抱えて床にうずくまっていた。
「て、てめえ。よくもやりやがったな。」
 もう一人の酔っ払いがナイフで切りかかろうとしていた。しかし、
「やめときな、刃物なんか出して、あんたたち犯罪者になるつもりかい?」
 リサが酔っ払いの喉元にナイフを突き出していた。
「リサか、別によかったんだが。」
「そうもいかないだろう、ボウヤ。」
 リサの方に注意を向けていると、床にうずくまっていた男がナイフを突き立ててきた。しかし、誰もその事に気づいていない。
「!・・・ボウヤ、危ない!」
リサがその事に気づき、ファバルに叫ぶ。しかし、間に合わずナイフが右腕に近づく。そして・・・・・“パキン”という音と共に折れたナイフの先が床に落ちる。それを呆然としながら見る酔っ払い。そこへ、ファバルが声を掛ける。
「残念だったな、突き立てたのが右腕じゃなかったら良かったのにな、さて、俺はお前にチャンスをくれてやった。さっさと帰れば良かったのになあ。今度はさっきのように甘く無いからな。」
 言いながら、右手で再び頭を掴む、ただし今度は相手の目を見ながら。
「今度は、そうだなあ・・・頭蓋骨でも砕いてやろうか?」
 そして、少しずつ力を込めてゆく。
「ヒ・・ヒイ。オ・・・オレが、オレが悪かった。す・・すぐこっから出て行く。だ・・だから、だから助けてくれぇ。」
 酔っ払いはファバルの目を見るなり急に脅えだした。ファバルがつまらなそうに手を離すと、逃げるように出ていった。もう一人もその後を、追いかけていった。
「ど、どうしたんでしょう。あの人?」
「さあ?」
シェリルとパティが首を傾げる。
「あ、ありがとう。ファバルくん。」
 シーラがファバルに近づいて行こうとしたその時、
「来るな!!」
 と、シーラに怒鳴る。
「・・・コクバ俺のサングラスを取ってくれ。」
「わ、わかりましたでありまス。ボス。」
「ちょっと!なんで、怒鳴るのよ。」
 パティがファバルにつっかかる。
「やめときなパティ。・・・・説明してくれるね?ボウヤ。」
 リサが聞くと無言で頷き、コクバから渡されたサングラスを掛けカウンターの席に座る。
「・・・俺がサングラスを掛けている理由は2つある。1つはこの顔を隠すため。もう1つは目を隠すためだ。」
「どうして目なんか隠す必要があるんだい?」
「俺の目・・正確には眼球の方だが・・には見せた相手の戦意を奪う効力がある。」
「へえ、便利じゃない。ケンカしなくて済むなんて。」
「実はそうでもない。・・確かに上手に使えば、便利だろう。しかし、これは制御が難しい、なぜなら感情が直に伝わるからだ。・・・・・そしてもう1つこれを多用できない理由がある、それは・・感情が制御できなくなり、この力が暴走した時、相手の戦意を奪うだけでなく生きる気力すら奪ってしまうんだ。」
「生きる・・・気力ですか。」
「そうだ、1度だけ使った事がある。相手は山賊だったが・・ある村を襲っていてその時に村人を傷つけていたんだ。それがゆるせなくて、感情が制御できなくなり・・・気が付いた時には山族達は地面に倒れていて、その目には生気が無かった。・・俺はそんな事が頻繁に起こらぬようにサングラスを掛けるようになったんだ。」
 話が終わると辺りには暗い雰囲気が漂っていた。少ししてそれをコクバが破った。
「ボス、大丈夫でありまスか?」
「ああ、だいぶ落ち着いてきた。・・・あれ?サングラスが少し壊れてるな・・修理するか。」
 サングラスを外すファバル。
カラン、カラン・・・
「いけない・・・お客さんだ。いらっしゃい・・・て、アレフとクリスじゃない。」
「よう、パティ。・・・お!あそこにいるのはリサとシーラとシェリルとアレ?後1人は・・・」
「ア、アレフくん、困るよ、僕これから宿題しようと思ってたのに・・・・・」
 どうやらクリスは無理矢理連れてこられたようだ・・・その2人の事をファバルはリサに尋ねる。
「リサ、あの2人は?」
「帽子をかぶっている方がアレフ、メガネをしている方がクリス。あの2人も助けるの手伝ったクチさ。」
「そうか・・・・じゃあ礼を言ってくるか。」
 と言って席を立ちアレフたちに近づいて行く。もちろん、サングラスは“外したまま”で。
「あ・・・ファバル。そうだ、こっちは・・・て、あんた、サング・・」
「おお!なんて美しい。・・・・・どうです?これからデートでもしませんか?」
 いきなりファバルを口説き出すアレフ。
「あ・・・ボス、サングラスを忘れて行ってるようでありまスね。」
「ええ!、そ、それじゃあ・・・・・」
「アレフクンは・・・・・」
 さっきの事を思い出して青ざめるシェリルとシーラ。
「いえ、多分大丈夫でありまス。」
「どうしてっスか?」
「あの人は命の恩人でありまス。それに、ナンパ程度ではそう怒らないでありまス。」
「じゃあ、アレフさんはどうなるっスか?」
「う〜〜〜ん。多分、地獄のお仕置きコース行きでありまスね。」
 どんな物か聞こうとした時アレフの声がさらに大きくなった。そっちを見るとファバルが微笑んでいる。
「ああ、君のその笑顔、まるで天使・・いや、女神のようだ。」
 確かにその笑顔は見ていて心休まるものがある。・・・だが、事情を知るもの達にとっては地獄の前の天国、と言った所だろう。
「・・・・ねえ、あれどうなってんの?」
 戻ってきたパティがコクバに尋ねる。コクバは先程のことを話し、そしてこう言った、
「死刑・・・決定でありまス。」
 裁判長・・・・・コクバがそう告げた。
 この時、その場に居た7人(5人と2匹)は3人を除いて、アレフの冥福を祈った。
 アレフがナンパを始めて数十分後、さくら亭から、この世のものとは思えぬ声がエンフィールド中に響いたという。
後日、さくら亭で起きた事は、本人はおろか、さくら亭に居た人も何も語ろうとはしなかった。


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