中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「はじめのはじめ」 埴輪  (MAIL)
「へぇ、こんな所に街があるんだ。」
 独白する人影。大きな門の上には『エンフィールド』と書かれている。全身を覆うマントに目深にかぶったフード、それらの所々に砂埃がついていることから察するに、北の砂漠を越えてきたのだろう。
「ちょうどよかった。」
 頭の中で、物資の残りを確認しながらつぶやく。砂漠越えのときに結構使ってしまったために、そろそろ補給が必要である。
「すいません、そのフードを、下ろしていただけますか?」
 門の番をしていた男に呼びとめられる。
「へ? ああごめん。ちょっと待ってね。」
 その人物の素顔がはじめて明らかになる。青い髪の、やや中性的な容貌を持つ二十歳前後の青年である。声も容貌にふさわしく、人をひきつける、何処か中性的な美声である。
「何なら、武器も預けようか?」
「いえ、それは結構です。それより、この街にはどんなご用で?」
「砂漠越えで使ったぶんの食料とかを補充しようと思ったんだけど。」
「そうですか、分かりました。何日ぐらい逗留するご予定で?」
「決めてない。そもそも、ここに街があること自体を知らなかったから。」
「分かりました。では、この街の地図です。ようこそ、エンフィールドへ。」


「暇だな。」
 黒い髪に瞳の、中肉中背の青年があくび混じりにつぶやく。まぁ、普通一般に、昼下がりの時間帯と言うのは食堂は大抵ひまになってしまう。
「紅蓮、サボってないでちょっとは手伝いなさいよ。」
 店内を掃除していた、ショートカットの少女が男に向かってそう言う。どうやら、男の名は紅蓮と言うらしい。
「いいじゃねぇか、別に。そんなに急いでやる仕事でもないんだろ?」
 少女に向かって面倒くさそうに答える。
「あんたねぇ、そんな事言ってたら給料減らすわよ。」
「へいへい、分かりました。」
 そう言って肩をすくめると、雑巾を手にとってテーブルを拭き始める。そこへ、カウベルの音が鳴る。
「あ、いらっしゃい。」
「ここ、宿屋だよね?」
 入ってきたのは、先ほど門番と話をしていた青年である。
「そうだけど?」
「じゃあ、とりあえず一泊頼めるかな?」
「分かったわ。宿帳お願いね。」
「はいよ。」
 差し出された宿帳に「アイン・クリシード」とサインをする青年。
「いくら?」
「後払いでいいわ。ただし、踏み倒したらそこの怖いお兄さんが黙ってないわよ。」
「ちょっと待てパティ、誰が怖いお兄さんだ。」
 少女−パティと言うようだ−に突っ込みを入れる紅蓮。
「君じゃないの?」
「お前もあっさり納得するなよ・・・。」
 ちょっと脱力しながら突っ込みを返す紅蓮。
「そう言えば、自己紹介がまだだったね。宿帳にも書いたけど、僕はアイン。」
「俺は紅蓮だ。」
「あたしはパティ・ソール。パティでいいわ。」
 自己紹介が終って、アインが一つの質問を切り出す。
「そうだ、この街で仕事が出来る場所って、無い?」
「仕事? どんな?」
「何でもいいよ。よろず、承りますってね。」
 それを聞いて、少し考えこむ二人。この街には、よそ者に仕事を分けてくれる、もしくは雇ってくれる場所が結構ある。
「一応、何ヶ所かあるけどな。」
「定職を持つか否かで変わるわね。」
「まだ、そこまでは決めてない。」
「まあ、とりあえずはジョートショップだな。多分、一つぐらいは仕事があるだろう。」
「ありがとう。あ、荷物は何処に置けばいいかな?」
「部屋に案内するわ。でもその前に、埃は払っておいてね。」


「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいッス!」
 年齢不祥の綺麗な女性が対応に出てくる。その後ろを、犬に酷似した魔法生物がついて来る
「ここって、何でも屋だよね?」
「ああ、そうだが?」
 銀髪で、アインよりやや背の低い人物が、女性の後ろから返事をする。すさまじい美人だが、さすがにアインはそれを言う事はしなかった。
 当然である。間違っても男や男勝りの女に美人などとは言えない。言ったら後が面倒だ。
「何か、いい仕事無い?」
「あいにくと、こっちもそれほど色々仕事があるわけじゃないんだ。」
「別に、お金については言わないよ。せいぜい、何日か分の宿代が稼げればいいから。」
 同い年ぐらいのその青年に対して、のほほんと答えるアイン。
「それぐらいなら、と言いたいところだが、さすがにそいつも厳しいな。」
 肩をすくめる青年。
「一つで無理なら、いくつもやればいい。安い奴で、手際よくやれば数こなせそうなのは?」
「あまり、うちの仕事を甘く見ないほうがいいぞ。」
「大丈夫。出来なきゃそう言うから。」
「当てにならんな。」
 そういいながら、一応ファイルを取り出す青年。
「え〜っと?」
「やはり、素人がいきなり出来そうな物は少ないな。」
「いや、このあたりならばいけると思うよ。」
 そう言って、アインが選んだのは『薬草の採取』と『モンスターの退治』である。
「これが、どの種類かわかるのか?」
「うん。こう言う奴だろう?」
 そう言って、簡単に葉っぱや茎、花、種などのスケッチをする。
「よく、知っているな。」
「うん。前に色々とお世話になったからね。」
 そういいながら、他の依頼も見ていく。
「さすがに、他には簡単には行きそうに無いなぁ。」
「当たり前だ。」
「いきなりこう言うのはそっちに迷惑がかかりそうだし、まずはこの二つをやってみるよ。期限も余裕があるし、もし明日やってみて失敗しても、まだ依頼主には迷惑がかからない。」
 無茶苦茶な言い分である。
「だが、モンスターは逆上して暴れる可能性があるぞ。」
「手負いの奴は最低限、相打ちに持ちこむよ。」
「無茶苦茶だな・・・。」
 そう言って、青年ははたと気がつく。なんとなくこの男のペースに巻き込まれて、自己紹介すらしていなかったことに。
「そう言えば、お互い名前も名乗っていなかったな。」
「言われてみればそうだね。僕はアイン・クリシード。」
「俺はルシア。ルシア・ブレイブだ。こっちはアリサ・アスティアさん。この店のオーナーだ。」
 そう言って、はじめに対応に出てきた女性を示す。
「で、これがテディ。アリサさんの目の代わりだ。」
「これとはなんッスか、これとは!!」
 仲がいいのか悪いのか。少なくとも、テディのほうは割りと本気のようだ。
「なんにせよ、とりあえずは明日にしよう。上手く仕事がこなせたら、もう一つくらい分けてくれる?」
「出来次第だな。」


「と言うわけで、お仕事を二つ、もらってきた。」
「二つもこなせるのか?」
「場所が近いからね。」
 そう言いながら、出された夕食をつつく。そろそろ、人がたくさん出てきた。
「盛況だね。」
「そうだな。」
 人がいっぱい出てきたあたりで、紅蓮に声がかかる。
「そろそろ、いつもの奴やってくれよ!」
「そうだそうだ!!」
「O.K。今日は何にする?」
 立ちあがった紅蓮が、客にそう尋ねる。
「そうだな・・・。」
「桜吹雪、なんてのはどう?」
 アインが横から口を挟む。
「いいな、それ。そいつで行こう。」
 近くにいた客が同意する。
「アイン、お前、俺が何をするか知ってるのか?」
「いや、知らない。ただ、準備なしでなにかするんだったら、幻影系の魔法だろうなと思っただけ。」
「ま、当らずとも遠からずだ。じゃ、行くぜ。」
 手のひらを上に向けて、厳かにつぶやく。
「内に眠りし力よ…我が右手に集え。」
 紅蓮の右手に、薄紅色光の珠が現れた。
「生命の源の光よ…我が左手に集え。」
 同じく、左手に白っぽい光の珠が現れた。
「我が両の手に集いし力よ…我が身体を媒介とし、一つとなりて我が右手にいでよ!」
「なるほどね。」
 そうつぶやいて、アインが何かをはじめる。紅蓮の呪文が完成すると同時に、アインもなにかを発動させる。
「なんだなんだ!?」
「桜吹雪なんだから、そよ風ぐらいあった方が自然かと思ってね。」
 いきなり吹いたそよ風に慌てる紅蓮。冷静に答えるアイン。更には、花の香りまである。
「今日はサービスええやないか、紅蓮。」
「半分は、こいつだよ。」
 牙が目立つ赤毛の娘に、ぶっきらぼうにそう答える紅蓮。
「どう言うことです?」
 水色の髪を三つ編みにした少女が、怪訝な顔をする。
「う〜ん、一つぐらい、芸を見せたほうがいいのかと思ったんだけど・・・。」
「芸・・・ですか?」
「うん。紅蓮の奴ほど複雑な事はしてないけど。」
 髪の毛をマフラーのように巻いた、変わった髪型の娘にそう答えるアイン。
「お前なぁ・・・。やるんだったら一言言ってくれよ。」
「こう言うことが日常なんだと思ったんだ。」
 苦笑しながら答えるアイン。
「で、紅蓮。こいつ誰や?」
「ここの泊り客で、アインって言うんだ。今日来たばかりだ。」
「よろしく。」
 穏やかな微笑を見せて挨拶をするアイン。
「で、君達は?」
「うちは、アルザ・ロウや。」
「ウェンディ・ミゼリアです。」
「ティナ・ハーベルと申します。」
 口口に自己紹介をする。
「もう一人、いるんじゃないの?」
『へ?』
 アインの言葉に、目を丸くする4人。
「ティナから、もう一人分の気配がするんだけど、紹介してくれないの?」
「げ・・・・・。」
 思わず絶句する紅蓮。
「初対面で、あたしの事を見ぬいた人間ははじめてよ・・・。」
「はじめまして。」
「あたしはヴァナ。よろしくね。」
「知ってると思うから、こっちは省くよ。どれくらいになるかはわかんないけど、よろしく。」

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