「ジョートショップのピンチ」
埴輪
(MAIL)
「アイン!!」
「なに? どうかしたの?」
さくら亭で皿洗いをしていたアインの元に、アレフがかけこんできた。
「ちょっと来てくれないか!?」
「パティ?」
「行ってきたら? どうやら、珍しくまじめな用事みたいだし。」
酷い一言をさらりと放つパティだが、それに取り合ってる余裕すらないらしい。
「で、何があったんだ?」
とりあえず、水を出しながらアインが聞く。
「青い髪した男が倒れてた! ちょっと見に来てくれ!!」
「青い髪?」
その台詞を聞いて、昨日の客を連想する。どうやらどこかへ出かけているらしく、姿が見当たらない。
「分かった。ちょっといってくる。」
「出来るだけ早く帰ってきなさいよ。」
「禅鎧じゃないか。」
「やっぱり、知り合いか?」
「昨日の、さくら亭のお客さん。」
クラウド医院の病室で、眠っている禅鎧を見るアイン。
「アイン、これが何かわかるか?」
トーヤが、禅鎧の服の腕を捲り上げる。
「なかなか、凝った呪いだ。」
それを見て、あっさり正体を看破する。
「でも、今の状態はそれが原因じゃない。」
「それぐらいは分かる。」
この呪いは、何かの封印だ。とはいえ、魔力だの潜在能力だのではないことは確かだ。
「こいつは、本人が何とかする問題だ。部外者が横から茶々を入れるのはよくない。」
「・・・まあいい。呪いだなんだは、俺の専門外だ。」
「禅鎧はどう言う状況で倒れてたんだ?」
「妙なことに、誕生の森のほうで、後ろからどつき倒されたかなにかしたらしいんだ。」
「本気で妙だな。ああ言うタイプがそれを許すなんて。」
そもそも、昨日エンフィールドに来たばかりの人間が、なぜわざわざ誕生の森などに行ったのか。その時点で腑に落ちない。
「とりあえず、さくら亭に戻ってるよ。」
「ああ。仕事、頑張れよ。」
アレフと別れ、さくら亭に戻る。その日の朝は、それ以上の事は起こらなかった。
「アインくん、ちょっといいか?」
「リカルド、どうしたんだ?」
「ああ。朝倉禅鎧と言う人物についてたずねたい。」
「昨日からここに泊まっている客。武術は多分超一流。音楽は間違いなく超一流の上。」
昨日の段階で分かっていることを、そのまま率直に答える。
「で、どう言う人物だと思う?」
「警戒心は強い。間違ったことに手を出すようなタイプじゃない。」
やはり、印象をそのまま率直に話す。
「彼の部屋、ちょっと調べてみてもいいか?」
「何があった?」
「美術品盗難の容疑がかけられている。」
怪訝な顔をするアイン。
「理由は?」
「彼の服のポケットから、盗まれた美術品が一点見つかった。後、目撃証言があった。昨日の晩、美術館の近くを二人組の人影がうろついていた。片方は身長180近く、もう一方は170と少しと言ったところだったらしい。」
「いくらでも居るような特徴だな。」
「ああ。で、背の高いほうの髪の色は青髪で、低いほうは銀髪だったそうだ。」
なるほど、と思わず納得する。
「で、もう一方の容疑者は?」
「ルシアくんだ。」
「なかなかにありえないところだな。」
妙な表現を使うアイン。
「でも、その表現だったら、ルシアのほうは確定みたいだね。」
「ああ。彼の部屋から何点か美術品が出てきた。」
「それは困ったな・・・。」
アインが困っているのは、この時点で、アリサがとる行動が読めたからだ。
「とりあえず、禅鎧の部屋には案内するよ。」
「さて、どうしたものか?」
状況を確認したアインは、とりあえずジョートショップに戻ることにした。
「ただいま・・・ってやっぱり誰もいない・・・。」
予想どおりと言えば予想通りである。
「そう言えば、禅鎧を拾ったのもアリサさんだって言ってたよな・・・。」
更に、その先の展開が読めたアインは、秘密の小部屋に下りていく。
「お帰り。」
どよんとした表情のルシアと禅鎧に対し、普通の態度で出迎える。
「アインか・・・。」
「状況は把握した。10万までは何とかできると思う。」
「えらく話が早いな・・・。」
そう答えてから、驚愕の表情を見せる二人。
「どこにそんな金があった!!」
「5万はここにくる前に僕が蓄えていた分だ。で、ジョートショップの蓄えは約3万。5千は残しておきたいからここからは2万5千。」
「で、残りはどうする?」
「あまりいい方法じゃないけど、金持ちのお嬢様に色々買ってもらおう。」
そう言って、色々な物を見せる。
「確かに、あまりいい方法じゃないな。」
「金持ちのお嬢様?」
「どうせマリアのことだろう?」
「マリア?」
禅鎧の台詞にこともなげに答えるルシア。
「ま、その辺は後にしよう。で、アリサさん、禅鎧の部屋は用意しておいたけど?」
「ありがとう、アインくん。」
「どこまでも準備のいい奴だな。」
心底あきれるルシア。多少は元気が出てきたらしい。
「ま、残りの分はどうにかする方法を考えよう。期限は一年だっけ?」
「ええ、そうよ。」
「3人で死ぬ気で働くか。」
「そうッス!死ぬ気で働くッス!!」
その台詞を聞いて、苦笑を浮かべる2人。
「そう言えば、青い髪の時点で、どうしてアインくんが疑われなかったのかしら・・・?」
「答えは簡単、目撃者が証言した時間帯に、僕はアリバイがあったんだ。」
「どんな?」
「その時間帯、リカルド達と一緒に居たんだ。」