中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「いつもと変わらぬ1日に」 埴輪  (MAIL)
「うい〜っす。」
「あ、紅蓮さん、おはようございます。」
 いつもの如く、和やかな朝である。朝のラッシュが終った後、なんとなく気が向いて散歩中の紅蓮は、朝っぱらから訓練に余念が無いヒロと遭遇した。
「しっかしお前さんも飽きないねぇ。」
「アインさんに普通で一撃、かましたいですから。」
 やはり、前に二人がかりで挑んで、簡単にあしらわれたことを、相当気にしているようである。
「・・・打倒ルシアはいいのか?」
「まずは手近な所から!!」
「・・・・・。」
 果たして、本当にアインが手近なところなのだろうか?
「ま、頑張れや。俺はそこまで本気にゃなれねぇな。」
 3度の飯よりも喧嘩が好きな紅蓮の台詞とも思えないが、結構簡単な理由があったりする。
「紅蓮さんらしくないッスね。」
「俺は、喧嘩は好きだが殺し合いは好かん。」
 意外な台詞を聞いて、唖然としてしまう。そこに更に付け加える紅蓮。
「それに、今ぐらいならスリルのある喧嘩が楽しめるからな。」
 非常にらしい台詞を吐いて、その場を立ち去る。後には、ヒロの打ちこみの音だけが鳴り響いていた。


「・・・ウェンディ。」
「あ、おはようございます、紅蓮さん。」
「この時期に何やってんだ?」
「見てのとおり、マフラーを編んでるんですけど・・・?」
 ちなみに、現在は初夏。まだ暑いと言うほどではないが、寒くなることだけはまず無い時期である。
「これから暑くなるのにか?」
「その後、すぐに寒くなりますよ。」
 ま、人の趣味だ。口出ししてもしかたがあるまい。
「で、孤児院のほうはどうだ?」
「ちょっと経済状態が良くありませんね。」
「いや、孤児院の状態じゃなくてお前の近況が聞きたいんだが・・・。」
「ティナさんたちもいますし、大丈夫ですよ。」
 そこで会話が途切れる。最も、悪くない沈黙だが。しばらくボーっとして、紅蓮は立ちあがる。
「じゃ、俺そろそろ戻るわ。」
 ぽんとウェンディの肩をたたいて、少々怪訝な顔をする。
「どうしました?」
「いや、前に聞いたのと、大分プロポーションが代わってるから驚いたんだが・・・。」
「え!? 私、太りました!?」
 少し考えこんで紅蓮が答える。
「どっちかと言うと、痩せたほうになるんじゃねぇか? 腰の周りの分が胸に移動したんだから。」
「へ?」
 ちなみに、紅蓮がなぜこんなことが分かるかというと、朋樹とともに修行をしたからに他ならない。触れただけで相手の体格体型(含む3サイズ)、筋肉のつき方などが分かるのだ。ちなみに、ウェンディは比較的筋肉質なほうに入る。
「ぐ、紅蓮さん!!」
 真っ赤になって、ウェンディ。それを見ながら内心うめく紅蓮。
(もうじき3年だからなぁ・・・。)
 年齢的に考えると既に成長など止まっているはずなのだが、闇でこっそり身長が1センチ伸びていたりする。成長が遅かったらしい。
「ま、仕事頑張れよ。」
「紅蓮さんも、お仕事がんばってください。」


「よう、いらっしゃい。」
「紅蓮、何か冷たい物。」
「ボクには紅茶とケーキ!」
「へいへい。」
 トリーシャと朋樹のセットだ。今日はクリスやシェリルは居ないらしい。ちなみにパティは出前と買出しで夕方まで戻らない。
「なんか、今日は平和だな。」
「そうだね。マリアが暴走する事も無かったし、アルベルトさんがルシアさん達にちょっかい出すことも無かったし。」
「ヒロとともの喧嘩も無かったし、か?」
 そう、女性の好みが見事にかぶった二人は、現在クールなライバル関係にある。最も、双方17歳で現在13のディアーナが好みに入っているのは、少々問題だが。
「ま、口喧嘩ですんでるうちはいいが・・・。」
「手を出し合ったら、只事じゃすまない、か?」
「あ、禅鎧さん!」
「よ、珍しいな、こんな時間に。」
「届け物だ。サインをもらえるか?」
 どうやら、どこかに寄った帰りに届け物をしたらしい。さすが、よろず承ります、のジョートショップだ。
「はいよ。これでいいか?」
「ああ。それじゃあ。」
「待てよ禅鎧。なんか飲んでけよ。」
「悪いが、金が無い。」
 ジョートショップと、その従業員の経済状態ぐらいは知っている。表向きの借金は10万だが、アインに対しては5万の負債があるのだ。
「ま、報酬のおまけって事だ。」
 さっとコーヒーを用意する。サイフォンがぽこぽこ音を立てている。
「・・・好意に甘えるとするか。」
 ひたすらクールな禅鎧に、思わず苦笑を浮かべる紅蓮。
「朋樹君、喧嘩は止めてね。ヒロさん強いから。」
「ま、さすがにとももそこまで無謀じゃねぇよな。」
「悪かったね、弱くて・・・。」
 ブスッとして言う。最も、盗難事件の関係者は、大抵基準が違うので、朋樹が弱いとは一概には言えない。
「ま、ともの場合は体術のレベルじゃなくてパワー差を補う技術のもんだから、その内張り合えるようになるって。」
「それはそれで悲しいかも。」
 思いっきり化け物扱いである。
「なんか、俺も化け物扱いされている気がするんだが?」
 出てきたコーヒーを手に取りながら、禅鎧が苦情をもらす。
「事実だ、気にするな。」
 冷徹に言いきる紅蓮。ちなみに、禅鎧はジョートショップの戦術担当である。防御担当のアイン、攻撃担当のルシアとセットで最強トリオを形勢している。
「そもそも、俺より化け物なのは、3人はいる。」
「というと?」
「50音順で言うと、アイン・クリシード、リカルド・フォスター、ルシア・ブレイブだ。」
「・・・・・。」
 なんとなく、反論の余地が無い。
「ちなみにヒロと紅蓮、ナターシャは次点だ。戦術次第ではなんとかなるからな。」
 あくまでも冷静な禅鎧。
「そう言うわけだから朋樹、ヒロに勝てる=化け物と、と言うわけでもないぞ。戦術のレベルで対応できないほどの物を、持ってはいない。」
「神族の力は?」
「真正面からでなければ、なんとかなるさ。それほど絶対的な物じゃない。」
 紅蓮と禅鎧が戦術談義を始める。なんとなく、話がおかしな方向に流れ出す。
「そう言えば、ヒロの奴がアインに普通で一撃かましたいって頑張ってたぞ。」
「前はルシアさんに追いつきたいって言ってたのに、今度はアインさん?」
「とりあえず、手近な目標としてアインを持ってきたんだと。」
「感覚的には分からなくも無いが、アインが本当に頑丈なだけか? 正体不明さや不気味さを考えると、むしろルシアと互角だと思うぞ。」
 アインやナターシャなど、正体不明な面子の実力については、この街のつわもの達の間でも意見が分かれている。
「何で、この街はそこんなに化け物が集まってるんだろう・・・?」
 無敵とまではいかなくても、かなり強いほうだと言う自負があった朋樹。だが、その自信は既にこなごなに砕けている。自分が上の下に分類されることがあろうとは・・・。
「リカルドが化け物だからじゃないのか?」
「お父さん、そんなに強そうに見えないんだけどなぁ・・・。」
 実の娘にそう言われては、お父さんは立つ瀬が無いのである。
「ま、ヒロはともかく俺やアインがお前さんに牙をむいたりはしないさ。何なら、技を一つ、交換するか?」
「へ!?」
 禅鎧が、突然な申し出をする。
「尻馬に乗っていい?」
 そこへ、アインが顔を出す。
「お好きにどうぞ。と言っても朋樹が承服すれば、だが。」
「こっちは問題ないこど、いいの?」
「異世界の武術、と言うのも興味があるからな。」
「別に、知られて困るような技は無いし。」
 この場合のアインの台詞は、非常に怖い気がする。禅鎧も、結構底知れない物があっていい感じだ。
「そう言えば、アインがなぜここに居る?」
「遅いから、迎えにきた。」
「別にそれほど遅いとは思わないが?」
 肩をすくめて、アインが答える。
「今日の夕食の当番、禅鎧だよ。遅れたらルシアの機嫌が悪くなる。」
「なるほど。迎えに来るに足る理由だな。」

中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲