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「天窓の洞窟」 埴輪  (MAIL)
 6月の下旬。クリスやシーラなどの臨時店員(アルバイトとも言う)に助けられ、やっと返済のめどが立ってきたルシア達は、休日をのんびり過ごすゆとりを取り戻していた。
「今日はどうする気?」
 朝から3人の様子を見に来ていたパティがそう質問する。
「これといって、決めてないな。」
「タッグを組んで、仮面男女にでも挑戦するか?」
「それも悪くないな。」
 アインは、鉛筆を削っている。パティの問いかけには答えない。
「アインは?」
「・・・ちょっと考えさせて・・・。」
 それだけ言うと、再び鉛筆を削り始める。
「即断即決のお前にしては、珍しいな。」
「いくつか、気になることが出てきたんだ・・・。」
「気になること?」
 だが、アインは答えない。鉛筆を削り終わったかと思うと、手に付けていた篭手をはずし、分解し始める。珍しい構造のその篭手に、思わず興味を惹かれる3人。
「なぜ、篭手の中に解錠セットなんか仕込んであるんだ?」
「うわ、弓にプロッドにワイヤーまで仕込んであるぞ・・・。」
「凄い複雑・・・。」
 だが、その台詞に一つとして答えない。ひたすら何かを考えこんでいる。そこへ
「グッドニュース、グッドニュース!!」
「またトリーシャか・・・。」
 苦笑しながらルシアが対応に出る。そこにはトリーシャと、彼女に引っ張ってこられた朋樹が居た。さすがに、ヒロの姿は見えない。
「で、今日はなんだ?」
「あのね、アリサおばさんの目が治るかもしれないの!!」
『なんだって(ですって)!?』
 ルシアと禅鎧、そしてパティが声をハモらせながら叫ぶ。だが、アイン一人、考え事に没頭していて反応を示さない。
「本当なのか!?」
「うん! ただ、絶対だとは言えないけど・・・。」
 アインを無視して盛り上がる3人。すっかり蚊帳の外の朋樹は、アインを見て首をかしげる。
「アイン、何やってるの?」
「考え事。」
 アインは、篭手の手入れを終え、ナイフや剣、鞭などの手入れに入っていた。ナイフは野外活動などに使うたぐいの万能ナイフである。
「考え事しながらそんな事したら、危ないよ。」
「大丈夫。せいぜい手を切るぐらいだから。」
 全然大丈夫ではない。そんな二人を置き去りにして、トリーシャ達の間で話がまとまる。
「なるほど、天窓の洞窟とやらにある・・・。」
「その目薬茸とやらを取りに行けばいいんだな。」
「そうと決まったら出発よ、アイン、朋樹!」
 なぜか、パティまで行くことになっている。
「えっ、僕も!?」
「当たり前よ! アインは当然、行くんでしょ?」
「いや、今回はパス。」
『ええ〜!?』
 これは、その場にいた全員が驚いた。
「どうしてよ!?」
「どうしても気になることがある。確かめてみて、余裕が出たらサポートをするよ。」
「お前がそう言うのだから、よほどのことなんだな。」
「別に、そう言うわけじゃないよ。確証もないし。」
 その台詞自体には誰も納得しない。何を考えているか、とか何をしでかすか、とかは予想できないたぐいの相手だが、大して重要でもないことをアリサの目よりも優先するはずが無い。
「仕方がないな。今回は俺達だけで行くよ。」
「うん、頼む。」
 彼らが出ていってから、アインもすぐに出て行く。最も、行き先は彼らとまったく別の場所だが。


「貴様ら、何者だ?」
 紅蓮とシーラの2人が加わった一行に、間抜けな仮面をつけた一団が襲いかかってきた。最も、勝てるわけが無く、あっさり全滅したが。
「決まっています。お宝がありそうなところに誰かいるのでございますから、先を越されたくなかったのでございますよ。」
 理由になっていない。はっきり行って、ばればれの嘘である。最も、そんな事はどうでもいいのだが・・・。
「ま、いい。とりあえず、邪魔はされたくない。エビフライにでもさせてもらうぞ。」
 と言って、ロープでまるでエビフライを連想させるほどぐるぐるに縛る。さすがに逆さに吊るしたりはしないが、あれでは身動きが取れまい。
「・・・・?」
 不意に視線を感じて、あたりを見まわすルシアと禅鎧。ほんのかすかな気配。視線がなければ彼ら二人でも気がつかないほどのものだ。
「どうした?」
 案の定、紅蓮は気がついていない。最も、彼の力量を疑うのは酷だ。ルシア達二人にだけ、あえて気がつくように気配を漏らしている疑いすらあるのだから。
「いや、何でも無い。」
「多分、気のせいだろう。」


「アルベルト! ヒロ! 協力しろ!!」
「こっちは手一杯だ!」
「すみません!! こっちもッス!!」
 どこから沸いて出てきたのか、へヴィアントの群れに囲まれてしまった。一匹一匹が人間大はある、巨大な蟻である。しかも、その先には妙なモンスターまでいる。
「ここ、聖域。荒らそうとしたお前ら、許さない。」
「何が聖域だ!!」
 声を荒げながらヒロが神気を高める。純度が低いところを見ると、攻撃力を上げて、一気にかたをつける気なのだろう。
「ヒロ! 無茶は控えろ!!」
 数匹を罠に掛けた禅鎧が忠告をとばす。彼の後ろには、非戦闘員のシーラ、パティ、トリーシャが控えている。
「くそ! こうなりゃ・・・!!」
「焦るな、紅蓮!!」
 得意の合成魔法で一気に蹴りをつけようとした紅蓮を、ルシアが止める。不意を付かれたいまの状態で下手な行動は隙につながる。
「でもこのままじゃ!!」
 朋樹が悲鳴を上げる。
「無駄なあがき、よす。楽に、なれる。」
 そうつぶやいた次の瞬間、何かの影が走った。
「きゃあ!!」
 一体が朋樹の頭上を飛び越え、シーラ達に踊りかかったのだ。そして、誰も何も出来ないまま、へヴィアントが叩き落される。体の中心のあたりに、尾羽のような物が刺さっている。
「何!?」
 視界が突然ゆがみ、へヴィアントが次々に潰れていく。まるで、巨大な鉄槌で叩き潰されたように。
「何が起こったんだ・・・?」
 見ると、番人と名乗ったモンスターも、呆然としている。突如、また視線を感じ、天窓の洞窟の由来となった天井を仰ぎ見る。今度は紅蓮や朋樹も気がついたらしい。ヒロやアルベルトも、同じ方向を見ている。
「・・・なんだ、あいつは・・・?」
 アルベルトがそうつぶやいたのも無理はないであろう。そこには、幾何学的なデザインの面をつけた人物がたたずんでいたのだから。身長は175センチぐらいであろうか? 男女すら判然としない。フェニックスをモチーフにしたと思われる、羽衣と尾羽の付いた体のラインのほとんど出ない赤い服を身にまとっている。こう書くと派手なように聞えるが、実際は、デザインゆえかむしろ渋いイメージすらある。唯一の特徴は短く刈った鮮やかな金髪。だがそれとてありふれた色である。
「まったく気配を感じなかった・・・。」
 ヒロが呆然とつぶやく。これでも、彼は超一流である。その彼が、いくら追い詰められて焦りがあったとはいえ、気配に気がつかないなどという事はほとんどありえない。
「・・・・・・。」
 彼、もしくは彼女の姿が突如掻き消える。次に現れたときには、指先から炎を凝縮した剣を出していた。番人の首が、いつのまにか斬り落とされている。
「出来るな・・・。」
 警戒の色を浮かべながら、ルシアがつぶやく。動きがまったく見えなかった。スピード、だけでは無い。全員の死角を巧妙について移動したのだろう。
「何者だ?」
 禅鎧が静かに問う。だが、その人物は何も答えない。突如、背後で何かが激しく燃え上がる。それを確認したその人物は、現れたときと同様、忽然と姿を消す。
「ち、邪魔が入ったか・・・。」
 首を切り落とされた番人の姿が変化する。次の瞬間、眼帯をつけた拘束衣の男に変化する。
「今回は退かせてもらう。次は、もう少しましな趣向を用意させてもらうことにする。」
 もう一人、服装などは似ているが、微妙に印象の異なる男がそう声をかける。どうやら、先ほど燃やされたのはこいつらしい。
「貴様ら、何者だ!!」
 アルベルトが問う。彼らは「シャドウ」とだけ言い残して姿を消す。
「逃げられたか・・・。」
「あれこれ考えてもしょうがないわ。きのこを取りましょう。」
 シーラの提案で、一同がきのこを集め出す。アルベルトがえらく張りきっていたのはここだけの話である。


「で、どうだったの?」
 レナが、窓から入ってきた人物に静かにたずねる。
「とりあえず、黒は確定。ただ、こっちの都合もあるから、しばらく泳がせて置きたい。」
 書類を渡して、青年が言う。わざわざ窓から入ってきたのは、正面から訪ねてはここの一人娘がうるさいからだ。
「そう・・・。わかったわ、ありがとう。手間をかけたわね。」
 その青い髪の人物に礼を言う。
「ま、こっちの都合も多分にあったからね。報酬をもらうのが悪いぐらいだ。」
「こちらにとっても、重要なことよ。それはそうと・・・。」
 青年が持っている面を見て、怪訝な顔をするレナ。
「それは何?」
「ちょっとしたおもちゃ。」

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