中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「野球をしよう」 埴輪  (MAIL)
「絶対、ろくなことにはならない気がする。」
 メンバーを見て、開口一発アインがつぶやいた。
「大体、俺たちを野球なんぞに誘った時点でなにかあると思ったんだ。」
 そろいのユニフォーム(なぜかあった)を着た禅鎧がげんなりした顔で言う。
「ま、何はともあれ、ちゃんと働いてよ!!」
 礼が終ってから、ジョートショップの3人組にささやくパティ。
「ランチ一人3食。」
 パティの台詞に対して、ルシアがつぶやく。ぎくりとした顔になるパティ。
「なによ・・・?」
「ランチ一人3食。」
 繰り返すルシア。しばしにらみ合いが続く。結局折れたのはパティのほうだった。惚れた弱みかもしれない。
「分かったわよ。で、この場合、3人でいいの?」
「ああ。アレフたちについては知らん。」
 そのまま、ぶらりとサードのほうに歩いていく。禅鎧が既にマウンドに立っている。パティたちのチームは後攻である。
「じゃ、しまっていこう。」
 キャッチャーミットを構えたアインが全員にそう声をかける。
「打たせても大丈夫だぜ!」
 ショートのアレフが派手にパフォーマンスをする。外野はエルとリサ、そして何故かピートである。こうして、只ではすまないだろうと予想される試合は、幕を開けたのであった。


 1回の表の攻撃は、3者凡退であった。クラウスとヤンに多くを求めるのは酷だろう。アルベルトは健闘空しくキャッチャーフライであった。
「手強い・・・。」
 速攻でアウトになる1番バッターのピート。まぁ、彼を責めるのは酷である。何しろピッチャーはヒロだ。
「絶対に塁に出て見せるわ!」
 何故か燃えているパティ。視線の先には紅蓮がいた。そう、何故か紅蓮とパティは別のチームなのである。
「ま、頑張って。」
 気の抜けた応援をするアイン。最も、燃え上がっているパティにはまったく聞えていないようだが。
「勝負よ、ヒロ!!」
「受けてたつ!!」
 大きく振りかぶって、第一球を投げる。豪速球がパティの目の前を通り過ぎる。
「なるほどね・・・。」
 さすがはエンフィールドに生息する化け物の球だ。プロ野球でも通用するだろう。
「だけど、さくら亭の厨房で鍛えたあたしの力、甘く見ないでよ!!」
 第二級を見事にジャストミートする。そのままコロシアムの外壁を超えるかと思われたが・・・。
「甘いぜ!!」
 紅蓮が高く飛びあがってキャッチしてしまう。ルールに魔法禁止の項目がなかったので、反則ではなかったりする。
「紅蓮のヤツ・・・、後でとっちめてやる!!」
 心底悔しそうなパティ。はやくも嵐が吹き荒れそうである。
「とりあえず、俺まで回してくれるとありがたいんだが?」
「努力はするよ。」
 アインがバットを持って打席に入る。ヒロの目の色が変わる。本気の目だ。
「行くぜ!!」
 先ほどを更に上回る豪速球。今にもボールが発火しそうだ。アインは短く持ったバットではじき落とす。見事にショートのアルザとセカンドの朋樹の間にボールが転がる。それも虚をつくような位置にである。
「くそ!!」
 朋樹が慌ててボールを拾い、一塁に送球しようとする。が、その時点でアインは既に二塁を回っていた。泡を食って三塁に送球するが、その時点でアインはホームベースに向かっている。恐ろしいほどの俊足である。
「ほい、一点。」
 バックホームもむなしく、アインは既にゴールしていた。
「なるほど、あれならアウトにはならないな。」
「向こうが反則してるんだ。こっちも多少はいいだろう。」
 しれっとアインが言う。アインは自分の仕事は終ったとばかりにベンチに座ってお茶をすすり出す。余裕である。
「じゃ、俺も仕事をしてくるか。」
 ルシアが、バッターボックスに入る。先ほどのランニングホームランで、ヒロにも動揺があったらしい。投げた球は、見事なまでの棒球であった。
「あまい!!」
 ボールを真芯で捕らえる。急激な加速により、ボールが音の壁を超える。さすがに紅蓮でも、これはキャッチできない。
「もう一点、と。」
 お茶をすすりながらアインが言う。そろそろ、ボールが燃え尽きた頃であろう。新しいボールを用意する。
 結局この回は、禅鎧が塁に出たところで終った。


 その後、せいぜいヒロがホームランを叩き込んで一点を取り返した以外は、さして進展がないまま、五回の裏に突入した。
「さて、今度は簡単には討ち取られないよ!!」
 エルが気合を入れる。ヒロも比較的本気の球を投げ込んでくる。ストライクが二つにボールが三つ。勝負時である。予想通りにヒロはストレートを投げ込んでくる。エルのバットがボールを捕らえた瞬間、不吉な言葉が聞えた。
「カーマイン・スプレッド☆」
 ボールが打ち返されると同時にエルにカーマイン・スプレッドがヒットする。吹っ飛ばされてている内に、あっさりアウトを取られる。
「マ〜リ〜ア〜!!」
「やーい、ヘタッピ☆」
 試合そっちのけで県下を始める観客のマリアと選手のエル。二人を無視してピートがバッターボックスに立つ。さすがに三回目ともなると、ボールが目になじんでいる。危なげなくヒットを放ち、塁に出る。
「任せといて!!」
 ピートが出塁したのを受け、パティが張りきる。言葉通り長打を打ち、ワンアウト二塁三塁のチャンスに持ちこむ。
「アイン!」
「ま、頑張るよ。」
 けだるそうに言ってバッターボックスに立つ。第一球を見送り、第二球にバットを合わせたその時、
「アイン!!」
 ベンチから声がかかる。思わずそちらを向いたのがいけなかった。その反動で、バットを思いっきり振りかぶってしまったのだ。バットがボールを真芯で捉える。極端な加速度を受け、ボールが掻き消える。着た方向にまっすぐ戻っていったボールは、予想外の結果を引き起こした。
「ぐはぁ!!」
 ヒロの鳩尾に、思いっきり突き刺さるボール。ちなみに、打ったバットも只ではすんでいない。アインの手からすっぽ抜けて、魔法を放とうとしていたマリアのもとに一直線に飛んでいったのであった。放った魔法が勢いをそらしたものの、それでも十分な運動エネルギーを持ってバットがマリアのドタマを捕らえた。
「きゅう〜。」
 目を回すマリア。自業自得である。
「ま、いいや。今のうちに回ってしまおう。」
 さらっともらすアイン。ひどい男である。この回、ピッチャーが代わったためにルシアと禅鎧からもあっさり長打をもらい、合計五点の大量得点を許してしまった。


「ゲームセット!!」
 結果は7対6でパティチームの勝利であった。最も、ゲームセットになった理由は両方のチームのメンバーが9人を割ったからであるが・・・。
「やっぱりろくな結果にならなかった。」
 ヒロを始末した張本人があっさり言う。
「ま、当然といえば当然だな。」
 アレフをしとめた紅蓮がこともなげに言う。
「やっぱり、この面子で野球なんぞするもんじゃないな。」
 ショートに対して鋭い打撃を叩き込んだ禅鎧が言う。この一撃でアルザはリタイアしたのだ。
「これの、どこが野球だって言うのよ・・・?」
 パティがあきれて言う。死屍累々と横たわるメンバーを見て深いため息をつくルシア。
「約束は守れよ・・・。」
 結局、ランチセット三人前三食はちゃんと支払われたのであった。

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