中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「誕生の森と光の翼」 埴輪  (MAIL)
 アルベルトは、弱りきっていた。理由は簡単、ちょっとした怪物騒動である。
「なんで俺が・・・。」
 ぶつくさ言いながら、とりあえずいつものチームで誕生の森に入っていく。とはいえ、自分達自身余り行った経験の無いような場所なので、気が進まないことこの上なかったりする。
「それで・・・、そのモンスターってのはどこにいるんだ?」
 別に街に害をもたらしている訳ではないのだから、ほっとけばいい気もするのだが、スポンサーがうるさいのでそうもいかない。ここらへん、宮仕えの辛いところである。
「はあ、多分こちらのほうです。」
「多分ってのはなんだ、多分てのは・・・。」
 苛立ちを部下にぶつけるアルベルト。まあ、仕方が無いと言えば仕方が無いだろう。不要な気がする仕事で、こんな場所にこれば機嫌も悪くなろう。
「あ、アルベルトさん!!」
「どうした!?」
 振り向いたアルベルトだが、そこで彼の記憶は途切れる。次に意識が戻った時には、ベッドの上だった。


「アルベルトがやられたって?」
 コップを磨いていた紅蓮が、怪訝な顔をする。
「何に?」
「正体不明の魔物です。」
 ヒロが真面目な顔で言う。
「正体不明って・・・。」
 思わず呆れて突っ込むパティ。
「しょうがないだろう? アルの奴は何に吹っ飛ばされたか分らないって言ってるし、一緒に行動してた面子も全部そこらへんの記憶がないって言うんだから。」
 肩をすくめてヒロが言う。
「ただ、厄介なのが、アルが倒されてたのは森の入り口付近、だけど連中が何者かに遭遇したのが・・・。」
「森のかなり奥って言うんだろ?」
 ヒロの言いたいことを察した紅蓮が、あっさりと先回りする。
「そう。魔法で転移させられたのか、物理的に吹っ飛ばされたのか・・・。」
 ただ、確率としては後者の方が高い。理由は、周囲の草の乱れようである。また、木の枝が大量に折れた跡があったのだ。
「どっちにしても、厄介な話だな。」
 好奇心に憑かれたような顔で、紅蓮がいう。どうやら、その何者かに喧嘩を吹っかけるつもりが山盛りらしい。
「紅蓮さん、先走るのは止めといた方が。」
「分ってるって。」
 彼とて、喧嘩に走っていいとき悪い時を見分けるぐらいの分別は持っている。
「そんなの、ほっといていいの?」
 パティが真剣な顔でいう。
「別に、そいつから悪さはしてねぇんだろ?」
「第一、今回のはこっちが相手の縄張りを侵したのが原因かもしれないし。」
「ま、なんか動きがあってから考えることにするさ。」


「それで、こっちにも依頼ってか・・・。」
 依頼表を見たルシアが、呆れたように言う。
「で、そいつが何かわかるのか?」
 禅鎧の言葉に首を横に振るナターシャ。
「こちらも実働部隊を出すから。最も、数出せば勝てるとは思えないけど・・・。」
 ちなみに、彼女は今回待機組である。
「何にせよ、情報が少なすぎる。何かもう少しデータが欲しいところだな。」
「何の話?」
 外から帰ってきたアインが口を挟む。
「ちょっとばかし厄介な依頼が来てな。」
 一部始終を話す。
「ほっときゃいいんじゃないの?」
 アインが呆れたようにいう。
「無視するには、被害がでかくなりすぎたんだろう。」
「自滅したくせに?」
「まあ、気にするな。」
「はいはい。ただ、今回は僕はパス。」
 アインの言葉を予想していたので、二人とも何も言わない。
「ほい、今日の売上。」
「ああ。」


「アインのヤツ、何か知ってるか勘付いてるな。」
「いつものことだ。」
 ルシアの言葉を、禅鎧が斬り捨てる。その間も着々と準備が進んでいく。
「しかし、わかってることだけでも教えりゃいいのにな。」
「教えたところで意味がない、と判断したんだろう。不平を言っても仕方が無い。」
 ルシアのこぼした台詞に悟りきった禅鎧の返事が返ってくる。大体の準備が整った当りで来客がある。
「よ。準備できたみたいだな。」
「紅蓮か。」
 こいつが来ることぐらいは予想済みだったので、特に何も言わない。
「朋樹は?」
「待機組。前にお前らに教わった技が、いまいち上手くなじんでねぇんだと。」
 その言葉に苦笑する。アインが教えた技はともかく、自分の技は並の人間には扱えない。上手くなじんでいないですむ当り、朋樹も並の才能ではない。最も、同じ技を3分で使いこなした化け物も居るには居るのだが。
「そっちは、アインが待機組か?」
「ああ。壁が居ないのはきついが、そんな物は体捌きで何とかすればいい問題だからな。」
「それもそうだ。」
 アインとて、絶対に壊れない壁だと言うわけではないのだから。
「さて、下でヒロが待ってるぜ。」


「また、あいつか・・・。」
 ルシアがうんざりした顔でいう。目の前の木の上に、幾何学模様の仮面をつけた人物が現われたからだ。今回は龍をモチーフにした装束を身に纏っている。手甲と具足には爪状のパーツもある。
「しかし、凄い気だな。」
 禅鎧が呟く。どうやら、その装束が気を高密度に圧縮して作っている物だということに気がつく一同。つまり、純粋な気の防御壁である。謎の人物が拳を突き出してくる。とっさに散開してかわす四人。彼らがいた場所に、くっきりと拳型のへこみが出来る。
「四人も雁首並べる必要はねぇな。ルシア、禅鎧! お前らが行け!!」
 紅蓮が魔法を準備しながら二人に声をかける。
「そうさせてもらおう。」
「お前らも、できるだけ早くこいよ!」
 それだけ言って、二人は先に進む。傍観する謎の人物。
「さて、いくぜ!」
 二人が魔法の範囲外に出たのを確認すると、自分が使える最強の魔法を発動させる。
「レイヴィング・ノヴァ!!」
「・・・・・・。」
 相手の姿が消える。一瞬遅れて魔法が炸裂する。
「紅蓮さん、後ろ!!」
「なに!?」
 とっさに頭を下げる。頭の上を相手の飛びまわし蹴りが通過する。通過した先にある木が、あっさり切り倒される。
「石斬乃型か!?」
「多分違うっしょ!!」
 似たような性質だが、あちらのほうは真空波が飛んだりはしていなかったはずである。更に、切られた大木には3本の切り傷があるのだ。空振りを3発もするとは思えない。
「なんにせよ、厄介だな!」
 つまりは、素手でも人を斬り殺せるのだ。しかも、レイヴィング・ノヴァの着弾より速く動けるのだ。よほど速い魔法でないと、相手を捕らえられない。
「は!!」
 下から上に切り上げるように刀を振るう。丁度いい具合に、相手の宙返り式踵落しが降って来る。かちん、と甲高い音がして刀が叩き落される。最も、手を離すほどの衝撃ではないが。
「ち!」
 双破甲を作り出した紅蓮が相手に殴りかかる。その腕を下から絡めるようにとり、軽くひねる。どういった力の流れか、抵抗できずにあっさり転ばされる紅蓮。
「ブレイク!!」
 相手が、これぐらいの芸当をしかねないことぐらいは予想済みである。だが、その後の光景はさすがの紅蓮の予想を超えていた。
「・・・・・・。」
 炸裂したはずのエネジー・アローが、すべて紅蓮自身に降りかかってきたのだ。慌てて避ける紅蓮。いくらなんでも、当れば痛すぎる。
「手強い・・・。」
 一連の攻防から、相手が後の先を取るタイプであることはなんとか把握できた。ならば、先の先で潰してしまうのが確実だ。
「やるか・・・。」
 これで、最低限の隙は出来るだろう。
「いくぞ!!」
 ヒロが吼える。神気を可能な限り高め、純度を徹底して下げ、すべてを居合にかまえた刀に集中する。
「抜刀術! 紅蓮咆哮!!」
 大地を踏み割らんばかりの踏みこみから、一気に刀を抜こうとする。だが・・・。
「・・・・・・。」
 すでに相手が目の前にいた。あっさり柄頭を蹴りぬかれ、思いっきりバランスを崩してしまう。あれだけ集中していたのに、全く相手の動きが見えなかった。速い、だけではない。
「・・・・・・。」
 謎の人物がヒロを大きく蹴り上げる。バランスが大きく崩れているため、防ぐこともかなわない。体が浮き上がった瞬間、正中線を駆け上がるように衝撃が走る。更に衝撃が来る。
「なんちゅう非常識な!!」
 紅蓮が唖然とする。6発。最初の蹴りも含め、ヒロに叩き込まれた打撃の数である。体を竜巻のように回転させながら、正中線を昇るように肘を3発叩き込み、そのまま膝とバック転キックを連続で入れたのだ。はっきり言って、技そのものに豪快な隙がある。
「・・・・・・。」
 更に、空中を舞うヒロに、追い打ちが入る。相手は、打撃を叩き込むと、のしかかるようにヒロの体を地面にたたきつける。
「が!!」
 ヒロが衝撃にうめく。次の瞬間、凄まじいまでの雷撃が彼の体を襲う。
「があああああああああああ!!」
 意識が飛ばされる。謎の人物に、一瞬の隙が出来る。
「ち!!」
 紅蓮が拳を叩き込む。拳は、あっさりと相手の体を貫く。
「なに!?」
 次の瞬間、相手が消える。
「どうやら・・・担がれたらしいな・・・。」
 ヒロの体を軽く調べて紅蓮が呟く。どうやら、地面にたたきつけられた分以外は、ダメージはすべて幻覚らしい。次には、必ずリベンジしてやると誓いつつ、ヒロを担いでルシア達の後を追うのであった。


「どうやら、あいつらは担がれたらしい。」
 目の前に立っている相手を見て、ルシアが呟く。後ろには、繭のようなものがある。
「本物としか思えなかったが・・・。」
「それだけ、巧妙な幻覚なんだろう。もっとも・・・。」
 白銀の刃をかまえながら、ルシアが呟く。
「こっちが幻覚でないという保障はどこにもないがな・・・。」
 相手に、不自然なところは何もない。そもそも、この人物については、存在そのものが不自然とも言えるので、不自然さを探す作業がうまく行くわけがないのである。
「・・・・・・。」
 特にかまえる様子もなく立ち尽くしている。
「お前にかまってる暇は無いんでね。」
 横を通りすぎようとすると、手刀が飛んでくる。進路を邪魔され、不機嫌そうに立ち止まるルシア。
「大技で、一気にかたをつけるか。」
「だな・・・。」
 手刀の威力を目の当たりにした二人は、早期決着を志すことにする。だが、そんな二人を嘲笑うように、相手から拡散型の衝撃波が飛んでくる。広範囲に炸裂するそれを辛うじてかわす。
「簡単には使わせない、ということか・・・。」
 表情が分らないだけに、何をしてくるか予想もつかない。と、相手の姿が消えていることに気がつく。
「なに!?」
「今のが、めくらましだと!?」
 気がつくと、二人の丁度中心の位置に相手が立っていた。
「・・・・・・。」
 謎の人物は、全く拳の届かない場所で、捻り込むようなアッパーカットを放つ。その拳に、ある種の不吉さを伴った蒼白い光がともっている。
「く!!」
 まるで、何かの咆哮のような音と同時に、凄まじいまでの衝撃波が二人を襲う。今度はかわせない。衝撃波になぎ倒される。完全に不意を突かれた一撃である。
「なんだ・・・、あれは・・・?」
 全身を襲う痛みも忘れて、呆然と呟くルシア。その視線の先では、蒼い龍が悠然と天に昇っていたのだ。
「なかなか、とんでもないな・・・。」
 化け物、と呟く禅鎧。相手の足元には、クレーターが穿たれている。
「どうしたもんだ?」
「さあ・・・?」
 衝撃波の範囲を考えると、出す前に攻撃を叩き込むのは難しそうだ。また、意外と技としてのスピードが速い。下手をすると蒼い龍の直撃をくらいかねない。
「あいつ、やっぱり俺達の時は猫かぶってやがったな。」
「紅蓮か・・・。」
 紅蓮が合流して来た。ヒロに肩を貸している。
「結構、派手にやられたようだな。」
「ダメージは大半が幻覚だから、大したことはないけどな。」
 だが、痛みはあるのだ。無傷、というわけにはいかない。と、繭に変化が現れる。それを見た謎の人物は、地面に拳を一つたたきつけると、姿を消す。
「逃げられたか・・・。」


「で、結界は破れず、と・・・。」
「ああ。こっちの攻撃を受け流してくる結界なんざ、はじめてだ。」
 ダメージが大きくてまともに動けないヒロを除いた全員で、一斉に結界を攻撃したのだが、いともあっさり耐え抜かれてしまった。
「全く、奴は何者なんだか・・・。」
「焦らずとも、そのうち正体が分るだろう。」
 苛立ちを隠しきれないルシアと、達観気味の禅鎧。と、繭にひびが入る。何事かと身構える四人。ひび割れから光が溢れ出す。そして、繭がまるで卵のように割れる。
「なんだ・・・あれは・・・?」
 中から出てきた生き物は、神々しいまでの光を放つ1羽の鳥だった。
「どうやら、アインが正解だったようだな・・・。」
 その場に満ちている神聖な気を感じ、ルシアが呟く。こう言うことなら、アインが言わなかった理由もうなずけるし、謎の人物の行動の意味もわかる。
「結局、悪者は俺達だってことか・・・。」
 憮然と呟くヒロ。この話が出れば、思いっきりよくいろんな所からたたかれてしまう。
「済んでしまったことはしかたがない。とりあえず、あれが何処かに飛び立つまで待っていよう。」
 禅鎧がいう。結局、彼の予想どおり、モンスター退治から鳥の捕獲に目的を変える連中が出てきて、そいつらの対応におおわらわになってしまったのであった。

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