中央改札 悠久鉄道 交響曲

「親指王子の苦難 その2」 埴輪
「ちょっと待て!ネズミ退治を何故俺にふる!!」
「お前くらいのサイズだと丁度小さいところに潜り込めるんだよ。」
 十六夜の抗議をあっさり切り捨てる同僚のレヴィ。確かに、最近大鼠の被害は深刻化していた。特に、食糧倉庫の被害は甚大である。
「いくら何でも、小さくなった俺に勝てる相手とは思えないぞ!!」
 なおも文句を言う彼に対して、レヴィは言う。
「どうやら、引き受けてくれたら、解呪は自警団持ちになるらしいぞ。」
 その言葉を聞いて、思わず考え込む十六夜。彼の懐具合では、はっきり言って3000はきつい。だが、解呪しないことには働くこともできない。
「分かったよ、やりゃあいいんだろやりゃあ。」
 ふてくされたように言った十六夜は、とりあえず武装をどうしようか考えることにした。


「なぁ、マーシャル。今の俺に使えそうなもん、無いか?」
 アルベルトに、マーシャル武器点まで連れてきて貰った十六夜は、そう切り出す。
「さすがに、小人サイズの武器はないアル。でも、妖精サイズの武器なら一つあるね。」
「金がないから借りることになるけど、良いか?」
「構わないアル。どうせ、売れ残りね。」
 そう言って、小さな剣(と言っても今の十六夜のサイズでは両手持ちの大剣と変わらないが)を渡す。
「ちょっと待て、何か魔法が掛かってるだろ。」
 アルベルトがそう言う。十六夜も持ってみて気が付いた。
「妖精でも戦力になるように、切れ味を大幅に強化してあるね。その気になれば、人間の手首くらいは斬れるアル。」
 その台詞を聞いて、思わずぞっとする二人。そんなもんが、何故こんな田舎の武器屋にあるのかは、気にしない方がいいだろう。
「さて、とりあえず武器はこれでよし。防具は・・・。まあ、鉄板でも仕込むことにするか。」
 ちなみに、今の彼の服はアリサが作った自警団員の制服・小人バージョンである。
「鉄板って、そんなもんでいいのか?」
 思わずあきれるアルベルト。まあ、確かにきっちりした鎧など、作りようもないので鉄板を仕込むのがせいぜいなのだが。


「じゃ、がんばってこいよ!」
 ここは、もっとも被害のあった倉庫の中である。アルベルトは、十六夜をおろすと、そう声をかけて出ていった。薄情という無かれ。下手にこんな図体のでかい奴が居たら、小人サイズの十六夜は踏みつぶされかねない。
「しかし、世の中ってのは不公平だ。なんで俺みたいな貧乏人にこんな役目をふる?」
 そうこぼしながら、食い破られた跡の穴にはいる。しばらく下りながら歩いていくと、やっかいなものに出くわした。蟻である。
「げ、やべ!!」
 そう、手のひらに乗れるサイズの彼だ。蟻より大きいと言っても、比率的には子猫と大人だ。子猫にならかまれても問題ないが、蟻の場合、まず手傷を負う。
「逃げるが勝ちだな。」
 そう言いながら、相手の進路から外れ、一気に逃げる十六夜。1匹2匹なら問題なくとも、数が数だ。無謀なことはしないに限る。
「しかし、考えてみたら、鼠退治くらい、煙でいぶすだけですむんじゃないのか?」
 ふとわき上がった疑問をつぶやくと、それを否定する声が現れた。
「我々が、そんなに甘いと思っていたのかね、ベイビー!」
 ふと、そちらを見ると、十六夜の倍よりでかい鼠が5匹、サングラスをかけて彼を囲んでいた。
「ちょっと待て、お前ら!鼠のくせに何故グラサンかけてるんだ?」
「それはだね、ベイビー。」
「我々が、世界初の、鼠のロックバンド『ラッティーズ』だからだぜ、ベイベー。」
 一瞬、その台詞を聞いて思考停止する十六夜。よもや、鼠退治に来て、鼠のロックバンドなんぞに遭遇する羽目になるとは思わなかったようだ。
「ちょっと待て!!そもそもなんで鼠が喋ってるんだ!?」
「失礼な!鼠が人語を喋ってはいかんと言う法律が、どこにあるというのだ!!」
 思わず、頭を抱える十六夜。これが、ジョートショップの青年なら、納得しかねない。だが、十六夜はそこまで非常識にはなじんでいない。
「だぁ、もういい!!お前らみんなまとめて、叩き斬ってやる!!!」
 十六夜がキレた。剣を抜くと、前髪(?)をメッシュにしている鼠に斬りかかる。
「おおう、暴力反対!!」
「俺達の音楽は、Love&Peaceがモットーなんだぁ!!」
 妙なことを口走りながら逃げ回る鼠達。と、その後ろからひときわでかい鼠が現れる。
「おう、兄ちゃんよ。これ以上乱暴はさせねぇぜ。」
 向こう傷があり、妙に迫力のある鼠である。まとっている雰囲気に至っては、まるでやくざである。
「俺の仕事は鼠退治だ!!お前らなんぞに怯んでて自警団員なんかやってられるかってんだ!!」
 だが、ぶちぎれた十六夜は聞いちゃいない。一気に突っ込んでいって、剣をたたき込む。がきん!!
「なに!?」
 あっさり受け止めるヤクザ鼠。
「フッフッフ、踏み込みがあめぇぜ兄ちゃん。今度はこっちの番だぜ、そらよ!!」
 そう言うと、爪をたたき込んでくる。何とか受け流した十六夜だが、その瞬間、しっぽにはじき飛ばされる。この衝撃、鉄板があろうが無かろうが余り関係がない。
「ぐはぁ!!」
 壁にたたきつけられる十六夜。どうやら、肋骨がやられたようである。異様に強力な攻撃だ。
「てぇめ!!」
 思わず叫んで魔法を唱える。正面から戦って勝てないなら魔法をぶつけようと考えたらしい。ここで彼は一つ、勘違いをしていたのだ。
 そう、体が小さくなったからと言って、魔力まで落ちているわけではないのだ。
「ルーン・バレット!!!!!!!!」
 アイシクル・スピアで無いのは、単に、ルーン・バレットを大量に作って、6匹全部をしとめようと考えたからに過ぎない。そのもくろみは、半分は成功した。
「げ!!」
 ちゅっっっっっっっっどおおおおおおおおおおんん!!!!


「なんで、あんなでかいのが21個も出来るんだ?」
 崩れたがれきの間から這い出した十六夜は、そうつぶやく。すぐそばで、何かが潰れる音がしたので、まず鼠は助かってはいないだろう。世界初の鼠のロックバンドも、どうやらろくに活動せずに解散(?)する羽目になったようだ。
「くそう、魔力は落ちてねぇのか。それならそうと、早く教えてくれりゃあよかったのに。」
 いくら何でも、通常サイズ、つまり十六夜よりもでかいサイズのルーン・バレットが出てくるとは思わなかったのだ。普通のルーンバレットなら、壁を崩すくらいの威力はある。あんな狭い場所でそんな数を作ったのだ。当然と言えば当然である。
「ああ、怖かった。」
 彼が助かった理由は簡単。崩れだしたときに、自分の上にふってくるがれきにルーン・バレットをぶつけたのだ。小人一人分程度の隙間を作るのには十分である。
「よう、十六夜!派手にやったな。」
 通報を受けたアルベルトが、十六夜を拾い上げる。
「全く、ひどい目にあった。」
 肋骨を押さえながらこぼす十六夜。事が起こったのが、舗装されてない小さな道だったから大した問題ではないが、表通りだったりしたら大騒ぎである。
「まあまあ、とりあえずドクターの所によってからかえるか。」
 十六夜の怪我に気が付いたらしいアルベルトが、そう言って橋を渡り始めたとき、
「暴れ馬だぁ!!危ないぞ!!」
 と言う声とともに、馬が突っ込んできた。十六夜を肩に乗せていることを忘れ、大きく飛び退くアルベルト。捕まろうにも、髪の毛に手が届かなかった十六夜は、バランスを崩してムーンリバーに落ちる。不幸なことに、この日は崖崩れの影響で、地下数が大量に流れ込んでおり、川はかなり増水していたりする。
「十六夜!!」
「うわぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・。」
 どんどん遠くなっていく悲鳴。さすがにアルベルトと言えども、飛び込んで助けるのは難しい水量である。こうして、十六夜は流されたのであった。

中央改札 悠久鉄道 交響曲