中央改札 悠久鉄道 交響曲

「親指王子の苦難 その4」 埴輪
「ちょっと待てよ、おいカラス、俺をどこに持っていく気だ?」
 言っても無駄だと思いつつとりあえずつっこみを入れる十六夜。どうやら、宝物か何かにするつもりらしい。
「お前、気に入った。娘の婿にする。」
 意外なことに、カラスから答えが返ってきた。
「お前も人の言葉を喋るのか?」
 愕然として聞き返すと、カラスはあっさりと答えた。
「人の言葉は理解するが、口の構造の問題で発音はできん。」
 その台詞を聴いて、頭を抱える。小人になったから、カラスの言葉が理解できるようになったのだろうか?
「お前、我々の言葉を理解するとは珍しい。ますます娘婿に欲しい。」
 冗談ではない。確かに今彼には恋人どころかそこに至りそうな女性すら居ないが、カラスの相手になるつもりは更々ない。
「断る!!」
 思いっきり力を込めて言う。
「何故だ?衣食住には困らないぞ?」
 心底理解できないと言った雰囲気で言う。多分、彼は種族の違い(以前にほ乳類と鳥類の違い)など考えても居ないだろう。
「そもそも、人間と鳥が結婚して、子供が産まれるわけがないだろう!!」
「お前、妖精じゃないのか?」
 どうやら、カラスは彼のことを妖精だと思っていたらしい。
「違う!俺は魔法で小人にされただけの、ただの人間だ!!」
 拳を握りしめて力説する。
「そうか・・・・。」
 少し考え込むような仕草をするカラス。しかし、すぐに結論を出したようだ。
「まあいい。とりあえず、娘を紹介しよう。」
 何か違う。だが、彼に言っても仕方がないだろう。しょせんは鳥頭だ。


 結局、どう抵抗したところで、力では勝てずにカラスに巣に連れ込まれる十六夜。
「で、本気で俺を婿にするつもりか?」
 一体こいつは何を考えているのだろう、とあきれながら十六夜が訊く。たった一日でいろいろあったせいか、ずいぶん図太くなっている。人はこうして成長していくのだ。
「うむ。色白でかわいい、気だての良い娘だぞ。」
 色白のカラスというのも謎だが、カラスの気だての良さと人間の気だての良さが同じかどうかも気になる。
「お父さん、お帰りなさい。」
 入ってきたカラスを見て、十六夜は反応に困った。まず、一番最初に考えたのが、どこが色白なんだ、と言う疑問である。
「紹介しよう、お前の婿だ。」
 勝手な台詞を言うカラスに、抗議の声を上げようとするより先に、娘の方が反応した。
「まあ、素敵なお方・・・・。」
 うっとりとしていう。思わず絶句する十六夜。
「さて、私はごちそうでも取ってくるから、後は若い者同志で語り合ってくれ。」
 どう考えても、十六夜の方が親ガラスより年上なのだが、おとぎ話な状態の話にそう言う寿命関係のつっこみをしてはいけない。
「ちょっと待て、俺はカラスと結婚するつもりはないぞ!」
 あくまでも主張する十六夜に対して、黒く可愛いつぶらな瞳をしたカラスが、悲しそうに言う。
「そうですか・・・・。やはり私のような病的に色の白いものと結婚する気はないのですね・・・・。」
 論点が違うのだが、言っても仕方がない。十六夜はあわてつつ、頭の片隅で
(こいつのどこが病的に色白なんだ?)
 とか考えながらなだめに入った。たとえカラスと言えども、女の子を泣かせたりしたら故郷の従妹に殺されかねない。
「別にあんたが嫌いだから言うんじゃない、俺は人間だからやっぱり人間の方がいいんだ!」
 その声は以外に大きく響く。びっくりしておびえる娘。それを見て思わず謝罪する十六夜。
「あ、す、すまん。」
 頭の片隅で、一体俺は何をやっているのだろう、と考えつつ、頭を下げる十六夜。その時、
「十六夜殿の声が、ここから聞こえたと思ったのだが・・・。」
 そう言って、木の上の巣までティグスが上がってきた。
「おお、ティグス!助かった!!」
「おや、これは十六夜殿によく似た妖精だ。」
 喜ぶ十六夜に対して、無茶苦茶なことを言うティグス。
「分かっててやってるだろう。」
「当然だ。」
 ジト目で見る十六夜に、あっさり答えるティグス。
「さて、とりあえず状況はよくわからんが、台詞から察するに、そちらのお嬢さんから言い寄られているようだな?」
「そこまで分かってるんだったら、早く助けてくれよ。」
「ううむ、助けるのはかまわんが女性の誘いを断るのは感心せんな。」
 人ごとだと思って、言いたい放題言うティグス。
「お前なぁ、これで斬るぞ。」
 そう言って剣を取り出す十六夜。それを見たティグスは、そろそろ頃合いだろうと思ってこういった。
「まあいい。とりあえずエンフィールドに帰るぞ。断りの言葉は、後でじっくり考えればいい。」


「しかし、ひどい目にあった。」
 思わずぼやく十六夜、通常サイズ。手のひらサイズからアレフよりも数センチ、背が高い状態まで一気に戻ったのだ。視点の変化もかなりのものである。
「だが十六夜、お前モテモテだったみたいじゃないか。」
 カラスの話かと思って、反論しようとすると、
「あんな可愛い人魚引っかけるなんて、お前ナンパの才能があるぞ。」
 アルベルトが意地悪く言う。あの人魚は親切にも、十六夜をローズレイクからエンフィールドの西の門までとばしたことを、必死になって探していたアルベルト達に教えたのだった。
「出来れば、彼女たちのことは内密にして欲しい。」
 何故わざわざ隠れ里に住んでいるかなど、考えなくても分かる。
「彼女の好意を踏みにじりたくない。」
「言われなくても分かってるよ。俺も彼女の信頼を裏切るつもりはない。」
 そう言って、その話題はそれっきりだった。
「で、その後カラスに求婚されたんだろ?」
「いうな。」
 ちなみにカラスの言葉が分かった理由はあの剣だった。話の出来ない生き物と意志疎通が出来るようになる魔法が掛かっていたようだ。
「もう二度とマリアの魔法には付き合わないぞ!」
 固く誓う十六夜だった。

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