中央改札 悠久鉄道 交響曲

「青年、犯人にされる」 埴輪
 結局、アインはジョートショップの店員扱いになった。さすがにただでと言うわけには行かなかったらしい。彼自身はいらないと行っているが、アリサが半ば強引に給料を渡しているのだ。彼がエンフィールドの住民になってから3ヶ月、まずまずトラブルを起こさずにやってきている。まあ、のんきな彼ではわざわざ自分からトラブルを起こしはしないだろう。
普通の昼休みが終わったくらいで、アインはやっと昼食をとる時間ができたようだ。
「よう、アイン!これから昼飯か?」
「まあ、そういうこと。この時間帯は空いてるから、すぐ何かにありつけるだろう。」
 おまえもどうだ、と時間を全く考えずに誘うアインに対し、アレフは
「おいおい、この時間まで飯を食ってない人間なんてあんまりいないぜ。それに俺はまだ行くとこがあるの。」
とさらっと受け流す。考えてみれば、昼に関してはアインはかなり不規則だ。誰かと一緒に食事などあまりしたことがない。
「そういわずにたまには付き合ったらどうだ?どうせ行くとこって、シーラのとこだろ。」
「ブー、今日はキャッシーのとこだよ。でもまあ、そこまで言うんだったら付き合ってやるよ。」
 こうして男ふたりでさくら亭に行く。いくらさくら亭と言ってもこの時間帯ではさすがにがらがらだ。パティが何かの仕込みをしている。
「いらっしゃい!ってアレフとアインか。で、何にするの?あ、ランチはもう終わってるから。」
 さらっと商売モードに入るパティ。アレフはさっきも来ていたが、そんなことは突っ込まない。どうせアインに付き合わされてのことだろう。
「まあ、パンとチーズだけでもいいさ。別に腹が膨れればいいし。」
 有る意味、すごく失礼なことをいいながらアインが席に着く。彼自身、味やメニューにはこだわらない、と言うか食えれば何でもいいタイプなので何を出されても怒らないだろう。
「俺はコーヒー。もちろんBlackで。」
 わざわざブラックでの所を変に意識した発音でアレフが言う。
「はいはい、じゃあアインはサンドイッチでいいわね。ちょっと待ってね。」
 手際よく食器を用意しながらパティが言う。そのとき、
「ふみゅう〜。メロディミルクです〜。」
 突然、カウンターの中から現れたメロディが注文を出す。どうやら寝てたらしい。
「はいはい、分かったわよ。」
 特に驚いた様子もなく、パティがカップをもう一つ取り出す。数分後、
「はい、お待たせ。」
 注文した品が全てそろう。サンドイッチはいかにもあり合わせです、と言った感じだがもともとそういう料理なので気にしない。さあ、食べようと一つ手に取ったアインが、異様な物音を聞きつけた。
「もしかしてまた・・・・?」
「どうした、何か聞こえたのか?」
アレフが尋ねる。まだ彼の耳には届いてないらしい。
「いや、異様な地響きがこっちに近づいて来るんだが。」
「またあの二人かよ。」
 さしものアレフもややげんなりしていると、店内にいる人間にまで聞こえる大きさの音量になったようだ。
「ちょっとごめん、かくまって!」
店内にいる人間全ての予想どうり、入ってきたのはマリアだった。とすれば当然後に続くのは
「マァ〜リィ〜アァ〜!」
エルである。この場合、そうであることが普遍的な真理であるがごとく怒っている。何かごたごた言い合いをしているが、これもいつものことなので割愛する。
「ええ〜ん、こうなったらマリアの魔法で逃げるんだから」
 その一言を聞いて顔色を変えたアインが、印を組んで魔法を唱えようとしてるマリアに飛びついて口をふさいだ。
「し〜ん・くらムグググ」
「僕の昼飯をふいにしないでくれ!」
 人間、食べ物が絡むと思わぬ力を発揮するようだ。その様子に気勢をそがれたらしく、エルもあきれて手を出さなくなった。
「昼飯食い終わるまでじっとしてるか、外でやってくれ!」
 情けないことをえらく真剣な顔で言われ、二人ともやる気をなくしたようだ。
「分かった分かった。今日はもう許してやるよ。」
 完全にやる気を無くしたエルが、そういって帰っていく。マリアも、何となく気まずくなったのか、
「ア、アハハハハ、じゃあねぇ☆」
と言って帰っていった。そんなこんなで彼は無事に昼食を食べ終わることができた。次の仕事まではまだしばらく時間がある。
「一度ジョートショップに帰るか。すまんなアレフ、突き合わせて。」
「なあに、いいってことよ。それじゃあ俺はキャッシーの所に行ってくるわ。」


 さくら亭を出て、ジョートショップに向かう途中にピートが走ってきた。
「アイン!いったい何したんだよ!」
「おいおい、ちょっと落ち着けよ、ピート。」
「落ち着いてられるかって!ジョートショップがおまえのことで取り調べを受けてるぞ!」
「なに!ちょっと待ってくれ、僕は自警団に恨みを買うようなまねはしてないぞ!」
そういう問題でもないのだが、もちろん彼には心当たりはなかった。これは早くジョートショップに戻って確かめねばなるまい。


 ジョートショップに戻ったアインを待ちかまえていたのは、当然のごとくアルベルトとリカルドだった。
「リカルド、ちょっとばかし状況を説明してくれ。いきなり犯人扱いされてもなんのことか分からない。」
 アインのせりふに答えたのはアルベルトだった。
「何言ってやがるんだ、犯罪者!」
「アル!ちょっと黙っててくれ。アインくん、君の容疑はフェニックス美術館からの美術品の盗難だ。」
 リカルドの説明は簡潔だった。はっきり言って、理由も何もない。
「ちょっと待ってくれ、いきなりそういわれてもなぁ。どうせ僕と断定する証拠が出てきたんだろうけど、どんな物か聞くまでは納得できないぞ。」
 アインの言うことももっともだと思ったのか、リカルドは簡単に説明した。昨夜、美術館から十数個の美術品が盗まれ、それがアインの部屋から出てきたこと、盗まれたと思われる時間帯に彼らしき人影を見たという人がいたこと。
「おいおい、リカルド。あんたらしくもない。僕に変装するくらい、結構簡単だぞ。それに、瞬間転移の魔法なんか、いまのマリアでも10回に1回は成功する。」
 要するに、魔法が関わった場合、大前提が崩れると言いたいのだが、その意見はアルベルトによって無視された。
「とにかく、詰め所まで来てもらうぞ、アイン!」
「任意同行でいいのか?」
 アインが聞くとリカルドは頷く。
「じゃあ、ちょっと行ってきますね、アリサさん。」
 まるでちょっと買い物にでも行くような態度でアインは詰め所まで行った。


「ちょっと待てよアルベルト。任意同行って逮捕と同義語なのか?」
 さすがのアインも、いきなり牢に放り込まれれば文句の一つも言いたくなるらしい。
「犯罪者には、これぐらいがちょうどいい。」
 その台詞を聞いたアインは、言うだけ無駄と悟った。たぶん、誰も自分の話など聞くまい。仕方がないので壁に落書きしながら、状況が動くのを待つことにした。
「こら、壁に落書きなんかするんじゃねぇ!」
「いったい何処にそんなもん持ってたんだ?」
 見張りの言葉を無視して、極端にデフォルメされた、だが誰が見ても当人だと分かる絵を描いていく。知り合いの大半を書き終わり、アルベルトの絵を描こうとしたあたりで、彼は釈放されることになった。
「おい、出ろ!」
「もう出ていいのか?もう少しかかると思ったんだけどな。」
 そういった後、すたすたと歩いていく。彼が出ていった後には12人分の似顔絵(と言うよりはSDキャラ)が描かれた壁があった。
「しかし、なんで釈放されたんだ?」
  彼は、釈放ではなく追放されることを予想していたのだ。その理由はすぐに明らかになった。迎えに来たアリサが、保釈金10万ゴールドを払ったのだ。
「アリサさん、なんでそんな無茶なことを!?」
「だって、そのまま放っておいたらすぐに裁判で有罪にされそうだったんですもの。」
「でも、10万なんて大金何処に?僕が作っておいた蓄えはまだ5000ぐらいだったはず・・・・。」
 考え込むアインに対してテディが突っ込む。
「いつの間にそんなモン作ってたんッスか?」
「もちろん、僕の給料の半分と、仕事がうまくいったときの余剰分を3ヶ月かけて、さ。」
 そこまでされると、もはや何も言えなくなる。
「お金に関して言えば、ジョートショップの土地を担保に借りたの。親切な人で、期限は1年、無利子でいいって言って下さったわ。」
 それを聞いたアインは絶句する。確かに、自分の無罪をはらすには、それしか方法がないだろう。保釈金を払い、1年後の再審請求に賭けるという方法しか。
「なんにせよ、再審請求自体はあんまり当てになりません。」
「どうしてッスか?」
 アインの台詞に対して質問するテディ。支持を集めることは、今までのアインのしごとぶりを見てると、案外簡単そうに思えたからだ。
「容疑を覆すだけの証拠が集まりそうにないからだ。何せ、魔法を使ったって言う証拠もない。それを立証するのも難しい。」
 言われてみればである。再審請求が通っても、それで無罪になるわけではない。あくまで再審だ。
「ここは容疑を晴らすことよりも、10万ためることを考えた方がいいな。」
 そうアインは決心した。

中央改札 悠久鉄道 交響曲