中央改札 悠久鉄道 交響曲

「青年、遺跡に潜る」 埴輪
「なあなあ、クリス、シェリル!遺跡の話、聞いたか!?」
 ピートが上機嫌に二人に声をかける。嫌な予感がした彼らは、とっさに首を横に振る。
「知りません知りません!」
「知ってても付き合わない!」
 どうせピートのことだから、遺跡を探検しよう、とかほざくに決まっているので、先手を打って断っておく。
「ちぇ、二人とも付き合い悪いんだから。しょうがねぇなあ。アインとティグスを誘うよ。」
 ピートがふくれっ面で言う。諦めきれなかった彼が、矛先を向けたのは、案の定、付き合いの良いアインだったようだ。
「ちょっと待ってよピート!」
「ピート君、いくら何でもアインさんを巻き込むのはまずいと思うわ。」
 シェリルとクリスは必死になって止める。ちなみに、ティグスのことは無視らしい。まあ、彼は別段忙しすぎる身ではないからだろう。
「何でだよう。」
 二人に力尽くで止められそうになり、膨れるピート。どうやらピートに、アインの今の立場を全く考えるつもりが無いことに、二人とも気が付く。
「アインくんは今、10万ゴールドためようと必死になって働いてるんだよ。いくら何でもその邪魔は出来ないよ。」
 クリスがなだめるように言う。ただ、彼にはあまり手伝えることが無く、それが少し寂しいようだが。
「そんなの、たまには休んだらいいんじゃないか?」
 ピートがこともなげに言う。その言葉を聞いたクリス達は、付き合うのが一番良さそうだと判断するに至った。


「ルーン・バレット。」
 小さな光球をいくつか作って明かりにすると、薄暗い遺跡の中に入っていく。はっきり言って気味悪く、臆病なクリスは、早くも帰りたいと思い出していた。
「ひゅう、雰囲気でてていいねぇ。」
 ピートはいたって脳天気である。彼にとって、このくらいは何でもないらしい。鍛えれば、案外冒険者向きなのかもしれない。
「やっぱりやめましょう。勝手に入るのは良くないわ。」
 今更のごとく、シェリルはピートを止めようとする。だが、彼が聞くはずもない。
「大丈夫大丈夫!」
 ピートは自信たっぷりに言い切った。


 数時間後。そろそろ外も暗くなろうかという時間帯。
「へ、ピート達が帰ってこない?」
 めずらしく依頼が少なかったため、早く仕事が終わっていたアインは、ジョートショップでファーナ達と談笑していた。
「ピート達って、他には誰が?」
 トリーシャが答えた人物を聞いて、アインは納得する。さらに、最近見つかった遺跡の話を聞き、全てを悟る。
「全く、また考えなしにピートがのりこんでったな。仕方がない。ティグス、ちょっと付き合ってくれ。トリーシャ、自警団にも一応連絡を。」
 剣を手に取り、アインがティグスに声をかける。
「アイン様、私もお供しますわ!」
 ファーナが力一杯言うが、あっさりアインに止められる。
「ファーナは留守番。ついて来るって言うんだったら、少なくとももっと動きやすい服に着替えてくること。」
 その一言で、いくら何でも今のおめかしした服装では無理と悟る。また、着替えている暇など無いことも。
「姫様、ここにいて朗報をお待ち下され。」
 ティグスも無茶をされては困るとばかりに、言葉を重ねる。何を言っても付いていけないことを知り、ファーナはむくれながら待つこととなった。


「ここ、どこだろう?」
 目印を見失ったクリスは、思いっきり情けない口調でぼやく。はっきり言って、現在位置が全く分からない。
「ここ、さっきも通らなかったかしら?」
 不安そうにシェリルも言う。ピートが後先考えずにずんずん進んでいったため、3人ともきっかり道に迷っていた。
「大丈夫大丈夫、そのうち出られるって。」
 全く何も考えていないのが丸分かりの態度で、ピートが二人をなだめる。そうしてさらに彼は、考え無しに奥へ進んでいくのだった。


「さっき、ここを通ったみたいだな。」
 ティグスがクリスの付けた目印を見つける。アインはじっと何かに集中している。
「多分こっちだ。」
 どうやら、彼らの気を探っていたらしい。気功の達人であるからこその技だ。
「早くいった方がいいな。」
 ティグスがいうが、アインは首を横に振って、
「そっちに行ったとは限らない。こういう入り組んだ遺跡の場合、目的の方向に進めばいいって訳でもない。」
と、当たり前のことをいう。それども、気がせいていたティグスを落ち着かせることは出来たらしい。
「では、どこへ向かったと思う?」
 ティグスの問いに対しての彼の答えは、さっき指した方向とは、全く逆だった。


「もう、帰りたいよぉ。」
 クリスが情けない表情でぼやく。モンスターに襲われて、命辛々逃げてきたため、すでに自分の居場所が完全に分からなくなっていた。この遺跡は、彼の想像以上に入り組んでいたのだ。
「早く帰らないと、みんな心配するでしょうね。」
 シェリルも不安そうにいう。彼女の感覚では、もうとっくに日が沈んでいるはずだ。寮の門限に間に合うかどうか、そろそろ不安になる時間帯でもある。
「オーイ、二人とも、こっちに部屋があるぞ〜!」
 ピートが呼んでいる。二人とも、仕方なしにそちらに移動する。


 一方こちらは玄人二人組。
「今、叫び声が聞こえなかったか?」
 トロル3匹をあっさりしとめて道を探っているアインに、こちらも大蜘蛛2匹をしとめたティグスが尋ねる。
「ああ。向こうから聞こえた。今度はそのまま進めばいい。」
 どういう基準で進行方向を決めているのか、アインがこともなげにいう。ティグスは、そのことについては一切突っ込まず、そのままそちらの方向へ進んでいく。彼の勘を信頼しているらしい。


「ピィ〜トォ〜!」
 逃げ回りながら、恨みがましくクリスがいう。どうやら、遺跡の中枢部に迷い込んでしまったらしい。ガーディアン我が3人を追い回している。
「きゃぁ!」
 シェリルがバランスを崩す。そろそろピンチだ。
「シェリル!」
 ピートが叫ぶ。さすがに、こんな事態は想像していなかったらしい。さすがのピートもあきらめかけたとき、
「全く、なんで僕を誘わないんだ、ピート?」
 のんびりいいながらガーディアンの攻撃にアインが割り込んできた。
「アインさん!」
 シェリルが驚いたようにいう。さすがにこんなところまで探しに来るとは、思ってもいなかったらしい。これではまるで何かの物語のようだ。
「どうやってここに?」
 クリスが、一緒に来たティグスに尋ねる。はっきり言って自分たちですら、どうやってきたのか分からないのに、彼らが自分たちの位置を調べた方法が想像できない。
「アインに聞いてくれ。私にはどうやって道を調べたのか全くわからん。」
 ガーディアンを斬りつけながらティグスが言う。アインはすでに、ガーディアンを手玉に取っている。
「ウォー、すごいぞ、二人とも!」
 ピートが興奮して叫ぶ。二人は、見事な連携でガーディアンを確実に追いつめていく。と、そのとき、ガーディアンが起死回生の一撃を放ってきた。ビーム攻撃だ。避ければ、シェリルに当たる。
「なんとぉ!」
 素手でビームをたたき落としたアイン。何かを詠唱していたようだから、魔法を使ったのだろう。しかし、やけに短い呪文だ。
「ウソ!」
 シェリルが思わず我が目を疑う。いくら何でも、彼女はビームをたたき落とせるような魔法は知らない。どうやったのか見当も付かない。
「そろそろとどめと行こうか、ティグス。」
 相手をフェイントでからかいながらアイン。ガーディアンは面白いようにごまかされている。
「そうだな。」
 気を高めながらティグスが答えを返す。どうやら、同じ技を使うらしい。
『ファイナルストライク!』
 二人がはもりながら凄まじい気を込めた攻撃を同時にたたき込む。
「Prrrrrー」
 よく分からない音を立てながら、破壊されるガーディアン。見事に十字に斬られている。
「終わった、みたいだね。」
 クリスが脱力しながらつぶやく。よもや目の前で、ここまですごい戦いを見せつけられるとは思わなかった。
「さて、帰るか。」
 何事もなかったかのようにアインが言った。


「で、どうやって私たちの場所が分かったんですか?」
 シェリルが不思議そうに聞く。いくら何でもやり方が分からない。
「3人の気の位置を調べたんだ。道はただの勘だけど。」
 その台詞を聞いて唖然とする。いくら何でもただの勘で迷子になった連中の場所までたどり着いたなど、信じられることではない。
「こいつが非常識なのは、今に始まったことでも無かろう。」
 大コウモリをたたき落としたティグスがこともなげに言う。もうすでに、彼は悟りきっているらしい。
「じゃあ、アインくん。あのビームをたたき落とした魔法は何?」
 クリスの質問に対して、
「ああ、あれ?ただのイシュタル・ブレスだよ。」
 スライムを蹴散らしたアインがさらっと答える。その答えを聞いて、信じられないと言った顔でシェリルが聞く。
「あの魔法じゃあ、そこまでのことは出来ないんじゃありませんか?」
「そのまま使ったらね。ちょっとアレンジして、場所を限定する代わりに魔法の密度を上げたんだ。精霊魔法は他のに比べて融通が利かせ易いからね。」
 何でもないようにアインが言う。その答えを聞いて、絶句するクリスとシェリル。魔法を教えたのはクリスだが、アインのほうが遙かに使いこなしているようだ。
「あ、ただ、勘違いしないで欲しいんだけど、僕が使えるのは、今のところイシュタル・ブレスとルーン・バレット、後アイシクル・スピアだけだから。」
 その答えを聞いて、反応に困る二人。いくら何でもあそこまで使いこなせる人間が、たった3つしか魔法が使えないなど、信じられるものではない。
「そろそろ出口だぞ。」
 ティグスの台詞とともに、彼らの大冒険は終わった。


「ふーん、そんなことがあったんだ。」
 3人をつれてさくら亭に行ったアインとティグスは、事件の一部始終をパティに話す羽目になった。
「しっかし、アインさんにそんな器用なまねが出来たなんてねぇ。」
 トリーシャが半ば納得しながら感心する。魔法のアレンジなど、魔法ギルドの中でも数えるほどの人間しかできない。
「アインさん、もっと魔法を覚えてみたらどうですか?」
 子羊のシチューを食べていたシェリルが、アインにそう進めてみる。
「時間があったらね。でも、アレンジできるほどしっかり魔法を理解するのは、結構大変なんだよ。」
 言われなくても分かることをアインは言う。だが、クリスから講義を受けてから、たった数週間である。信じられない吸収力と器用さだ。
「少なくとも、しばらく何か新しい魔法を勉強する暇はなさそうだ。」
 アインが少し残念そうに行った。その日を境に、彼の魔法の才能は、町中に知れ渡ったのだった。

中央改札 悠久鉄道 交響曲