中央改札 悠久鉄道 交響曲

「青年、狼を追う」 埴輪
「どうしたんだよ、アイン。こんな夜中に。」
 アインがある程度警戒した姿で現れたので、アレフがびっくりして目を丸くする。
「ちょっとな、ピートの付き合いで。」
 そういって苦笑するアイン。どうやら、ピート探検隊の副隊長としての役目らしい。
「例の狼男か?」
「そういうこと。まあ、人狼族ってのは、たいがいおとなしいから必要ないんだけどね。」
 どうやら、狼男について、いくらか知識を持っているらしい。
「でも、街の連中も、自警団もあんまりよくは思っていないみたいだぞ。」
 アレフが、顔をしかめながら言う。ちなみに、こんな夜中に、といったほうもかっちりと決めた服装をしている。どうやら、デート帰りらしい。
「だから、僕が出しゃばってるんだよ。」
 少し寂しそうに言うアイン。彼の場合、もしかしたら、自分が人狼だという可能性もあるのだ。
「なるほどな。じゃあ、俺も付き合うよ。」
「助かるよ。」
 しばらく雑談しながら、歩き回る二人。ふと、アレフが気になってアインに聞く。
「そういえば、ピートは?」
「手分けして探すことになった。今は多分、教会のあたりだと思う。」
 少し複雑な顔をして、アインが言う。
「じゃあ、とりあえず今のところの経過を、隊長殿に報告に行こうじゃないか、副隊長殿。」
 アインの様子に気が付かず、アレフはおどけて言う。アインは苦笑しながら頷く。
「そうだな。もしかしたら、今日は何も起こらないかもしれない。」
 運が良ければ、とつぶやくアイン。アレフは、何が運が良ければなのか、聞かないことにした。


「そういえば、狼男は、何であんな風に跳び回ってるんだ?」
「さあ。変身すると、跳び回りたくなるんじゃないか?」
 そういって、アインは教会のほうに足を進める。
「しかし、ピートもいろいろと首を突っ込みたがるよなぁ。」
「いっそ、冒険者として、鍛えてやろうか?」
 そんなことを言っているうちに、教会の近くまで来る。今日の夜回りは、これで終わりだろう。
 その時
「ワオォォォォン!」
 何かの吼える声が聞こえる。
「狼男か!?」
「どうやら、教会の屋根みたいだな。」
 そういって、アインは駆け出す。
「アレフ、とりあえずこれ、預かっておいてくれ。」
 そういって、アレフに剣を渡す。
「おい、武器なしでどうするんだ!?」
「持ってると、追い掛けっこができない。」
 そういって、アレフが呆然としているうちに、教会の敷地内にはいる。


「少し高いな。」
 狼男は、教会の最も高い位置に立っている。垂直で5メートル。普通の人間には、飛び上がれない。アインとて、魔法を併用しても3メートル半が限界だ。シルフィード・フェザーの詠唱を、途中で変化させたものを唱え始める。
「シルフィード・ウィング。」
 飛行魔法を発動させ、飛び上がる。屋根の上に降りると、今度はシルフィード・フェザーを発動させる。あまり高速では飛べないシルフィード・ウィングでは、追い掛けっこには不向きだからだ。
「グルルルル。」
 狼男は、アインに対してうなり声を向けると、跳び上がって近くの家の屋根に飛び移る。それを追うアイン。
「まだ自我がないみたいだ。」
 次々と、屋根から屋根へと渡りながら、狼男を追うアイン。次の屋根に飛び移ろうとしたときに、突如竜巻が起こる。
「うわぁ!」
 巻き上げられ、地面にたたきつけられるアイン。とっさに受け身をとったので大したダメージはないが、狼男を完全に見失ってしまった。
「皆さん!狼男を捕まえるのです!」
 そういって、ほかの男達に命令を下したのは、仮面にスーツ姿の男だった。
「ハメットか。」
 どうやら、先ほどのヴォーテックスもこいつが放ったものらしい。
「狼男を捕まえて、どうするつもりだ?」
 アインの問いに対して、
「あれは、街の平和を乱すものです。当然、処分するに決まっています。」
 彼は、アインがあることに気が付いたことを知らないようだ。
「別に、今のところ、何したというわけでもないと思うが?」
 そういって、何かの詠唱に入るアイン。
「狼など、存在そのものが街を脅かすのです!」
 そういって、アインに襲いかかるハメット。あっさりかわすアイン。
「エリアル・ブレッシング!」
何かの魔法が発動すると、散開して追い掛けていた男達が3つの小竜巻に巻き上げられる。先ほどのものと違い、せいぜい転倒させる程度の威力しかないが、その分長く続いている。
「何ですと!」
 詠唱内容といい、効果といい、どうやらヴォーテックスの変形ではなく、シルフィード・フェザーの変形のようだ。
「何もしていないものを、勝手に退治されるのは困る。」
 そういって、狼男が逃げ切ったのを確認すると、ハメットに対して文句を言う。
「しかし、あなたのおかげで、確かめたかったことが、確かめられなかった。」
「あなたは、また私の邪魔をするのですね。」
 そういって、もう一度攻撃をかけるが、あっさりカウンターでしとめられる。
「そろそろ引いた方がいいぞ。自警団が来る。」
 暗闇から現れたシャドウが、ハメットとアインに対してそういう。
「シャドウ、おまえから忠告を受けるとは思わなかった。」
「おまえはどうでもいいが、そっちの御仁が自警団と悶着を起こすのは困るんでね。」
 そういって、また闇に消えるシャドウ。
「確かに、今日の所は潮時だな。」
 そういって、その場を立ち去ったアインは、とりあえず、狼男が走り去った方向に行く。


 アレフが、ピートを担いだアインを見つけたのは、教会に取り残されてから30分後だった。
「おいアイン、ピートはいったいどこにいたんだ?」
 アインの背中で眠っているピートを見て、アレフが首を傾げる。
「ムーンリバーの河原で寝てた。」
「狼男は?」
「邪魔が入って、見失った。」
 そういって、ピートを起こさないように肩をすくめる。
「ただ、借金はチャラに出来るかもしれない。」
「どうして?」
「まだ、確証はないが、少しばかり思うところができてね。」
 そういって、謎な笑みを浮かべるアインを、不思議そうに見つめるアレフだった。

中央改札 悠久鉄道 交響曲