中央改札 悠久鉄道 交響曲

「青年、武闘会に出場する!後編」 埴輪
「さて、結局、後何人だっけ?」
「残ってる人間は6人。だからおまえは後3試合だ。」
 しびれ薬の影響で、大幅に人数が減り、また、その後の試合に勝ったものの、体が思うように動かずリタイア、という参加者もいて、かなり数も減ってきている。
「シードになってる人間もいるんだな。」
「どうやら、強さで決めてるみたいだ。」
 そういいながら整理運動をするアイン。参加者の中で、数少ないしびれ薬の影響がゼロの参加者なのだが、さすがに残った顔ぶれを考えるとあまり意味がない。
「さて、次は強敵だ。しびれ薬もあんまりハンデにはなって無いみたいだし。」
「まあ、負けても誰も恥だとは思わないさ。思いっきりやってこい。」
 剣の状態を確認してから(最も、これは主催者側が用意した、刃の落としてある競技用だが)、試合場に向かうアイン。その顔には、思ったよりも緊張はないようだ。


「第4試合!リカルド・フォスターvsアイン!」
 アナウンスが入り、エンフィールドの英雄、リカルドが入場してくる。
「リカルド、あんたとはもっと先で当たると思ってたんだけど。」
「組み合わせの妙だ。仕方があるまい。」
 そういって、二人とも剣を構える。
「いよいよだな。」
「でも、リカルドもしびれ薬を飲んだんだろ?坊やのほうが有利じゃ・・・。」
「リサ殿。このレベルになると、それはあまり意味がない。影響が残っていても私よりはるかに強い方だからな。」
 会場全体に、ある種の緊張感が走る。慎重に間合いを計っていたリカルドが、突如、アインに斬りかかる。
「くっ!」
 フェイントを見切って全ての攻撃を防ぐアイン。手加減の全くない攻撃だ。常人には何があったのかすらも分からない。
(さすがリカルド!しびれ薬の影響で鈍ってこれか。)
(凄まじい防御技術だ。あれだけやって、一発もはいらんとは!)
 お互いに、相手の技術に対して賞賛する。
「全く、初っぱなから飛ばしてるな。」
 ティグスがうなるように言う。彼にはどう防いだのか、全く分からなかったのだ。
「あんなに強いの!?」
 パティが息をのむ。フィールドでは、人間離れした戦いが繰り広げられていた。


(まるで弾性の高い鋼の壁だ!全く防御に隙がない!)
 一見隙だらけに見えるが、どこにどう攻撃をかけても防がれる。いくつか入った攻撃も、完全にダメージを殺されている。
(かなりの実力とは思っていたが、これほどとは!)
 防御の技術に隠れて分かりにくいが、攻撃もかなりきつい。素直な剣筋の攻撃が、同時にいくつも来る。どれが本命かは、防いでみなければ分からない。どれもストレートに来る分、非常に防ぎにくい。
「しかし、長い試合だ。」
 ため息を付きながら、リサが言う。もう、15分は続いている。普通の試合なら、ここまではもつれない。
(このままじゃじり貧だ。やるだけやってみるか。)
 アインは、賭にでることにした。
「どりゃぁ!」
 リカルドの攻撃を、アインが迎撃する。
「ファイナルストライク!」
 アインは、リカルドの斬撃に、ファイナルストライクをぶつけたのだ。澄んだ音を立てて、二人の剣の刀身が砕ける。
「さすがに、リカルド相手にこの手は無理か!」
 彼のもくろみとしては、相手の剣を砕きながら本人に攻撃、だったのだが。
「仕方がない。最後の賭だな。」
 お互いに、示し合わせたように同じ魔法を唱える。
『イフリータ・キッス!』
 彼らの剣の柄から、紅い刃が生える。イフリータ・キッスの変形のようだ。会場が大いに盛り上がる。
「行くぞ!」
 ほぼ同時に、仕掛け合うアインとリカルド。勝負は、一瞬のうちに決まった。

「勝者!アイン!」

 アインの斬撃は、リカルドの胴を大きくないでいた。最後の最後に、しびれ薬の影響がでたリカルドは、ほんの一瞬、攻撃が遅れたのだ。
「今回は、引き分けだな。」
 息を弾ませながら言うアイン。
「いや、アイン君の勝ちだよ。」
 こちらも、息を切らせたリカルド。周囲も、大きな歓声を上げ、二人の勇者をたたえる。
「ちょっと、休ませてもらうよ。」
 控え室でアインは、そういって倒れるように眠った。


「何、棄権してくれだって!?」
 アレフの叫び声で目を覚ますアイン。ぐっすり眠ったので、さっきの試合の疲労は抜けている。
「どうしたんだ?」
「こいつが、おまえに棄権してくれだとさ。」
「ケビンがか?」
 その時になって、初めてアインは次の対戦相手を知った。
「ケビン、何でこんな大会に?」
「ちょっと色々あってさ。」
「知り合いか?」
 アレフの問いに、アインは簡単に、教会の孤児院に住んでる、と答えた。
「みんなに棄権してくれ、って頼んで勝ってきたのか?」
「ああ。みんな親切だったからね。アイン兄ちゃんも頼むよ。」
 少し何かを考えるアイン。だが、すぐに口を開く。
「悪いけど、それはできない。」
「なんでだよ!」
「僕には、この大会で戦った相手を侮辱するようなことは、できない。」
 そういって、その後何も言わずに、試合場に歩いていった。


「勝者!アイン!」
 アインは、容赦なくケビンを倒した。
「非道い。」
 観客の誰かがつぶやく。ケビンは、特に怪我をしているようには見えない。だが、容赦なく攻撃されたのも確かだ。一時彼をたたえていた観客は、全て彼を非難し始める。
「私には、アインは間違ってはいなかったと思うが・・・。」
 ティグスには、観客の反応のほうが理不尽だと思っていた。
「大丈夫か、ケビン。」
「ひでぇなぁ、兄ちゃん。」
 苦笑いしながら言うケビン。本人は、この結果も覚悟していたようだ。
「文句が言えるなら問題はないな。なら、この後の試合、そこの通路で見ると良い。」
 そういって、自分が通ってきた通路を指さすと、開催者に言う。
「僕の方はいつでもいい。あまり彼を待たすのも悪いから、とっとと試合を始めよう。」
 その言葉に反応し、アナウンスも待たず最後の選手がでてくる。その選手を見て、全ての人間が、アインの行動の意味を理解した。


「さて、始めようか。」
 アインが言う。マスクマン、この戦いに人生をかけた相手に、ケビンをぶつけるわけには行かない。
「私は待っていた。新たな強者を。」
 彼にとっては、勝つ、負けるは意味のないことである。全てをかけた戦い、それだけが彼の人生なのだ。
「あんたにケビンが挑んだら、まず無事じゃ済まないからな。」
 そういって、武器を捨てるアイン。この男とは、素手で戦うのが礼儀、ということらしい。お互いに突進し、最初の一撃をぶつけ合う。

 肉体と肉体がぶつかり合う。2メートルを超え、肉の量ではアインの倍はあろうかというマスクマン相手に、175センチ程度のアインは一歩も引かない。
「ぬう!」
 アインを捕まえたマスクマンは、フェンス際まで彼を投げ飛ばす。砂煙を立てながら着地するアイン。壮絶な戦いである。
「先ほどの戦いが技の芸術なら、この戦いは力の芸術だな。」
 純粋な力で劣るアインは、力を伝える技術で互角に持ち込んでいるのだ。

「勝者!アイン!」
 凄まじい肉弾戦の末、立っていたのはアインだった。
「見事だ、さすがリカルドに勝った男だ。」
 満足そうな表情でアインをたたえるマスクマン。お互い素手で、拮抗した戦いなど、全盛期のマーシャル以来、ということらしい。
「この戦いのことは、一生忘れない。」
 笑顔でアインも答える。すでに、さっきのケビンとのことは、完全に消えていた。
「さて、帰るか。」
 賞金を受け取ったアインは、コロシアムをでた。
「で、その賞金はどうする気だ?」
 アレフの問いかけに対して、アインは
「秘密。」
 といって答えなかった。翌日、孤児院に謎の寄付があった。
 その寄付の額は、大武闘会の賞金と同額だったという。

中央改札 悠久鉄道 交響曲