中央改札 悠久鉄道 交響曲

「青年、宴会をする」 埴輪
 その日、アインはトリーシャとアレフに呼び止められた。
「何だよ、二人して。」
「あのね、アインさんにつきあってほしいことがあるんだ。」
 トリーシャが切り出す。
「ちょっとな、クリスを、元気付けてやりたくて。」
 アレフがトリーシャの言葉を継ぐ。
「クリスを?」
 最近は、アインの影響かそれともアレフのせいか、ずいぶん女の子ともうまくやっていけるようになったクリスだが、未だに由羅は苦手らしい。
「由羅がまたクリスに何か?」
「いや、今回は由羅じゃない。」
 まあ、由羅がクリスを傷つけたりはしない。ただ、行動が強引なだけである。
「でも、どうせ女の子がらみなんだろ。」
 こういうと、ずいぶんいかがわしく聞こえるが、言葉自体は間違ってはいない。
「で、どうしようって言うんだ?」
「宴会でも開こうかと思ってね。」
 少々いやな予感がするが、クリスを元気付けると言うこと自体には賛成なので、黙って続きを聞く。
「でね、やっぱり何か悩んでるシェリルに、イヴとボクで相談に乗るって話をアレフさんにしたら・・・。」
「せっかくだから、みんなでぱーっと盛り上がろうって事になってね。もちろん、由羅も呼んでるぜ。」
 なんか、いやな予感が増す。が、断れそうもない。アインは一応釘を差す。
「それはそうとおまえら。お酒は二十歳になってからって言葉、知ってるか?」
 どうやら、エンフィールドでも、飲酒は二十歳かららしい。
「まあ、気にするなよ。」


「で、偉く豪勢にするんだな。」
 とりあえず、クリスの部屋で準備をしながら、アインが皮肉る。
「まあまあ、ボクが腕によりをかけて作ったんだ。ちゃんと味わってよ。」
 そういって、持ってきたバスケットから、大量に料理を取り出すトリーシャ。どれも酒の肴だ。
「あら、トリーシャちゃん。ずいぶんがんばったのねぇ。アタシも負けられないわ。」
 そういって、由羅もどこからともなく大量に料理を取り出す。やはり酒のつまみばかりだ。
「トリーシャ、あんまり飲むなよ。」
 妙に張り切っているトリーシャを見て、不安になったアインは再度釘を差す。
「どうして、私までこんな事をしているのかしら。」
 イヴが無表情のまま、自問する。アインも気持ちは同じなのだが、彼の場合、たいていここまでくると開き直って適応する。


「で、結局クリス、おまえは何を悩んでるんだ?」
 皆に適度に酒が入ったあたりで、アインが聞く。周囲はすでによくわからなくなり出している。
「う、うん、今はちょっと、言い辛いんだ。」
 確かに、由羅に絡まれ続けている今の状況で、何かを聞くのは間違いだろう。
「あーらクリス君、何を悩んでるの?お姉さんにオ・シ・エ・テ☆」
 聞くタイミングを間違ったな、と考えながらグラスに口を付ける。周りほどではないが、彼も結構な量を飲んでいる。だが、鍛え方の違いか、それとも体質か、ほとんど酔ってはいない。無表情のままぱかぱか飲んでいるイヴと同様、素面と変わっていない。
「しかし、クリスもずいぶん図太くなったな。前ならもっと必死になって逃げてたのに。」
 どうやら、前と違って、いやがっているのではなく、とまどっているらしい。そんなことを観察していると、後ろから誰かに抱きつかれる。
「アインさん、ひどいです。」
 どうやら、シェリルのようだ。
「シェリル?」
 ずいぶん酒が入っている。どうやら、彼女は絡み酒のようだ。
「アインさん、私の気持ち、知ってるんでしょ?なのにシーラさんやパティちゃんばかり気にして。」
 いきなりそんなことを言われても、対処に困る。酔っぱらいの言うことだ、どこまで本気にすればいいかわからない。
「あの、シェリル?ちょっとは落ち着かない?」
「いつも私はあなたのことを見てたのに・・・・。どうして振り向いてくれないんですか?」
 かなり出来上がっている。普段の彼女とは思えないほど、大胆な発言である。アインは、さらに対処に困る。振り向くも何も、彼的には、自分は彼女いない歴もうすぐ5年+αである。自分に言い寄ってくる人間なんているとは、全然思っていなかった。
「アインさ〜ん、もっと呑まなきゃぁ。」
 トリーシャの乱入で、とりあえず救われるアイン。だが、状況は変わらない。愚痴られる相手が、シェリルからトリーシャに変わっただけだ。
「父さんてっばひどいんだよ、アインさん。」
 結局、延々愚痴られるアイン。
「やっぱり、来るんじゃなかったかなぁ。」
 結局、完全に素面なのは、アイン一人だけのようだ。
「とっとと酔っぱらうんだった。」
 酒に強い自分が恨めしい。結局その後、イヴが突然倒れたり、シェリルとトリーシャに迫られたり、アレフに愚痴られたりと、素面だったために大変な目にあったアインであった。

中央改札 悠久鉄道 交響曲