中央改札 悠久鉄道 交響曲

「青年、狼男を守る」 埴輪
「満月か・・・。」
 空を見上げて、アインがつぶやく。
「今日も狼男を捜すのか?」
「まあね。ほっとくと、本当に殺されかねないし。」
 前は、邪魔が入ったため、正体を調べ損なったが、今日こそはうまく行かせないといけない。
「しかし、おまえ、ドクターと何をこそこそやってたんだ?」
「確証が出たら言うよ。」
 まだ、答えられないらしい。だが、何かに気が付いているのは間違いない。
「とりあえず、アレフは別の所を探してくれ。僕はピートと一緒にいるから。」
「確かに、また迷子になられちゃ困るからな。」


「狼男か。」
 街の住民にもれず、アレフも狼男については気味が悪いと思っている。最も、狼だから危険、とまでは考えていないが。
「おい、貴様、こんな時間にこんなところで何をしている!」
「げ、アルベルト!」
 狼男について考えているうちに、アルベルト他数名の自警団員に出くわしてしまった。
「さっさと質問に答えろ!」
「狼男を捜してるんだよ。アインの奴がかなり執着してるんでな。」
 わざわざ喧嘩することもないと判断したアレフが、あっさりと答えを返す。
「ほう、貴様がか。」
「悪いか?最も、おまえらの格好からすると、目的は同じみたいだが?」
 そう、アルベルト達は、完全武装をしたあげくに、クロスボウまで用意している。しかも、矢はすでに装填されている。
「アインに言わせると、人狼ってのはおとなしいそうだが?」
「そうとはかぎらんじゃろう?」
 一人混じっていた魔術師ギルドの人間が、横から口を挟む。
「アインが、こんなことでうそを言うとは思えないが?」
 そんなことをいいながら、陽の当たる丘公園までやってくる。まだ、狼男は現れない。
「もしかしたら、今日は空振りかもしれない。」
 アレフがそんなことを考えていると、
「ワォォォォン!」
 狼の鳴き声が聞こえてきた。


「予想が当たっても、全然うれしくないな。」
 例によって、跳び回る狼男を追い掛けながら、アインがつぶやく。
「しかし、そうなると早く自我を取り戻してもらわないと。」
 こんなことまで予想通りだったから、よけいにアインのやることが増えたようだ。
「トーヤが上手く自警団を抑えてくれればいいけど。」
 アルベルトの性格から考えて、無理そうだという結論を下す。狼は、陽の当たる丘公園に向かっているようだ。


「来るぞ!クロスボウ用意!」
 アルベルトが指示を出す。もはや、戦う準備は万全らしい。
「待てよ、アルベルト。せめてアインの言ったことの裏付けぐらいは取ったらどうだ?」
「必要ねぇよ。どうせ狼なんだ。肉食に決まってる!」
 アルベルトがアレフの制止を無視する。そこへ飛び込んでくる狼男とアイン。
「撃て!」
 クロスボウから矢が放たれる。
「まずい!」
 アレフがそう思うより早く、アインは魔法でいくつかをたたき落としていた。だが、一本は落としきれない。
「くそ!」
 アインは、舌打ちしながら一気に踏み込む。たたき落とすひまはない。体で受け止める。矢が、アインの太股を深く貫く。
「グルルルルルルル!ワォォォン!!」
 攻撃されたことに気が付いた狼男は、彼らに向かって跳躍しようとする。
「やめろ!ピート!!」
 アインが足の怪我を無視して飛びつく。
「思い出せ、ピート!おまえが何者なのか!」
 自分の声が届かないことを知りつつ、しがみついたまま呼びかけるアイン。だが、自我を失い、本能のみになっているピートは、アインを敵と判断したようだ。
 アインの方を、食いちぎったのだ。思わず力を緩めるアイン。飛び出すピート。魔法をかけようとする魔術師。
「やめろ!」
 アレフが、ピートと魔術師の間に割り込む。呪文が発動する。
「ばかもん!!」
 思わず魔術師が叫んだ。地面に縫い止めるはずが、アレフに縫い止めてしまった。混乱し、跳び回るピート。
「全く、人の話を聞かない奴らだ。」
 そこへ、アリサを伴って、トーヤが現れた。
「どういう意味だよ、ドクター。」
「どういう意味も何も、そのままだ。」
 どこからか、ティグスが現れる。どうやら、アリサ達の後ろにいたらしい。暗くて気が付かなかったようだ。
「全く、確認も何もせんうちに退治するなんて、短絡的もいいところだ。」
 トーヤが非難の目を向ける。
「うるさい!とっとと始末を付けるぞ!」
「聞けといっているだろう!」
 再び攻撃させようとしたアルベルトを、トーヤの怒声が押しとどめる。
「ピートの自我は取り戻せる。いや、取り戻せるようになるのが普通だ。」
「え?」
 自警団員達が頭に疑問符を浮かべながらこちらを向く。
「満月の光の中で、自我を取り戻した人狼は、変身をコントロールできる。」
 アインが言う。さらにトーヤが言葉を継ぐ。
「そして、本来はそういう儀式があって、それを行えばよかったのだが・・・。」
「人間が、勝手に危険だと決めつけて、彼らを滅ぼした。そのせいで、儀式の内容も分からなくなっている。まあ、ただ呼びかけるだけなんだろうが。」
 ティグスも、アインから聞いた話を付け加える。
「ただ、僕やティグスでは無理だろう。そういう匂いがでてる。」
 殺気とかそういう意味ではなく、雰囲気の問題のようだ。
「どうでもいいから、何とかしてくれ!!」
 アレフが悲鳴を上げる。混乱したピートが、その場を何度も何度も跳躍しながら往復し、そのたびに、逆バンジー状態を味合わされるのだ。アレフにとってはたまらない。
「さっきから、何の悲鳴かと思ったら、アレフ殿か。」
 苦笑しながらティグスが言う。
「何にせよ、じっとしてもらわないと、アリサさんが近づけない。」
 そういって、もう一度体を張って、捕まえるアイン。
「怪我人が無茶をするな!」
 怒鳴りつけながら、手を貸すティグス。アインがピートをなだめ、何とかその場に制止させる。
「アリサさん、お願いします。」
 疲れ切った格好のアインが、アリサに頼む。
「ピート君、聞こえる?」
 アリサが語りかけ始める。


「で、ピートをどうするつもりだって?」
 応急処置をすましたアインが、アルベルト達に聞く。
「だから言ってるだろう!やはり狼男なんか退治するべきだって!」
 自警団員の一人が、興奮しながら言う。アルベルトは、何も言わない。だが、その表情はずいぶんと悩んでいるようだ。
「俺を退治するって、どういう意味だよ。」
 弱々しく、ピートが聞く。アリサは、トーヤに連れられてすでに帰っている。ピート達のためにピザを焼くと言って。
「本当にコントロールできるのか怪しすぎる。街に被害がでてからじゃ、遅すぎるんだ!」
 別の自警団員が声を張り上げると、いきなりクロスボウを構える。どうやら、アルベルト以上に直情的な性格らしい。
「ピート、逃げろ。ジョートショップまで、思いっきりな。」
 そういって、その自警団員の前に立ちふさがるアイン。その横を、ティグスとアレフが固める。
「怪我人が粋がってるんじゃねぇよ!」
 その態度に切れたらしい彼は、ためらいもなく矢を撃ち出す。矢をたたき落とすアイン。
「やめないか!」
 アルベルトがその自警団員を制止する。
「どうしてですか、アルベルトさん!」
「こうなった以上、勝てねぇよ。」
 珍しく、あっさり負けを認めるアルベルト。
「でも、アインがいくら強いって言っても、怪我人ですよ!」
「あれより酷い状態で、モンスターを山ほどなぎ倒した男だ。それにティグスとアレフもいる。悔しいが、俺達のかなう相手じゃねぇ。」
 そういって、退却するアルベルト。だが、その顔は別段悔しそうでも何でもない。どうやら、撤退するための口実が欲しかったようだ。
「しかし、何で逃げなかったんだ、ピート?」
 アインの問いかけに対してピートは、
「恩人をほって、逃げられるとでも思ってるのか!」
 と、怒りながら言う。
「そういえば、ピートのことをいつから知ってたんだ?」
 アレフの質問に、
「最初から、薄々感付いてはいたんだ。気の流れが少しおかしかったから。」
 でも、今まで確証はなかったと答える。
「じゃあ、何で言ってくれなかったのさ。」
「必要なかったからだ。どうせ、ピートはピートだし、それに、言っても混乱するだけだし。」
 アインが言う。最も、確証がなかったというのが一番大きかったようだが。
 その後、アリサやトーヤの努力のおかげで、結局ピートのことを、街の人間は受け入れた。

中央改札 悠久鉄道 交響曲