中央改札 悠久鉄道 交響曲

「青年の静かな一日」 埴輪
 この日アインは、由羅のたっての願いで、一日メロディの面倒を見ることになっていた。
「で、メロディ。何をする?」
「うーんとですねぇ。メロディ、おはなしがききたいですぅ。」
 畳の部屋で、寝転がりながら、わくわくした顔で聞いてくるメロディ。端から見れば、非常にほのぼのした構図である。
「どんな話?」
「アインちゃんのおはなしがききたいですぅ。」
 どうやら、昔の話が聞きたいらしい。どの話をするか、少し考える。
「そうだなぁ。ベルファールにいた頃ティグスと探索した遺跡の話、でいいかい?」
「はいですぅ!」
 アインの問いかけに、満面の笑みを浮かべて返事をするメロディ。かなり、平穏である。


「で、結局、その頃の僕たちには、遺跡に住み着いたモンスターの退治と、罠の解除ぐらいしかできなかったんだ。」
 そういって、話を締めくくるアイン。なんやかんやでもう昼である。以外と、話に時間がかかった。
「ま、この話はこれでおしまい。その遺跡には、古代文字の石碑以外には何もなかったしね。」
「もうおしまいですかぁ?」
「ごめん。他の話がちょっと思いつかない。それより、昼御飯食べたあと、図書館にでも行こう。」
 そういって、台所に立つアイン。
「あんまり大したものは作れないけど。」
 そういいながら、材料を切り始める。
「メロディがやるですぅ。」
「いいからいいから。」
 そういって、手早く二人分の料理を作り始めるアイン。パティやアリサほどの腕前はないようだが、一人旅が長かっただけあって、なかなかの手際である。
「ほい、できたよ。」
 ムニエルにみそ汁、ほかほかご飯と、どこの国の人間だと突っ込まれそうな料理をテーブルの上に並べるアイン。
「いっただっきまーす、なのだぁ!」
 元気よく言って、料理に手を付けるメロディ。耳と手と尻尾が普通だったら、まるで仲のいい兄弟だ。

「ごちそうさま。」
「ごちそうさまでしたですぅ。」
 うれしそうに言うメロディ。どうやら、料理は気に入ってもらえたようだ。さっさと後片づけをすましたアインは、メロディに声を掛ける。
「さてと、図書館に行こうか。」


「イヴ、何かメロディにお薦めの本ってない?」
「それなら、あの棚の向こうにあるわ。メロディさん、半分ぐらいは読んでしまったみたいだけど。」
「ありがとう。」
 イヴと、事務的な会話をすましたアインは、メロディを伴って、示された本棚の元に移動する。
「これとこれは読んでるんだよな。じゃあこれなんかがいいな。」
 メロディの反応を見ながら、三冊手に取る。一冊はどうやら、メロディが帰ってから読むためのものらしい。貸し出しの手続きを終えたアインは、メロディを外に誘い出す。
「天気もいいし、公園の木陰あたりで読もう。」


「おいおい、寝ちゃってるよ。」
 自分用の本を読んでいたアインは、メロディがもたれかかってきたことに気が付く。手にした中級の魔導書から目を離し、どうするか考える。
「寝かしておくか。」
 そう結論を出した彼は、メロディをそのままにしておいて、続きを読むことにした。最も、同じ魔法の所をすでに、3回は読んでいるのだが。


「うーん、このまま平穏に終わると思ったんだけどなぁ。」
 そろそろ周囲も薄暗くなってきた頃、アインは数人の人の気配に気が付いた。気配の消し方からいって、そういった方面に対しては素人のようだ。
「で、メロディに何のようだ?」
 彼らの視線は、全て眠ったままのメロディに注がれている。
「あんまり、派手に騒ぐと、メロディが起きるしなぁ。」
 なんか間違った方向に気を配るアイン。ちなみに、まだもたれかかったままである。とりあえず、メロディを起こさないように抱え上げて、由羅の家に帰るふりをすることにした。
「まて!」
 どうやら、ものの見事に引っかかったらしい。白衣の男が声をかける。
「全く、もっと小さな声で話しかけてくれ。でないとメロディが起きる。」
 やはり、状況を無視したつっこみを入れるアイン。
「で、何の用?メロディを渡せとか、金をよこせとかだったらお断りだからね。」
「どうやら、交渉の余地はなさそうだな。」
 懐から、妙なものを取り出す白衣の男達。剣呑な雰囲気から、まっとうな代物ではなさそうだ。
「では、力ずくで、その娘をいただこう。」
 リーダー格らしい男が、アインに向かって言いながら、妙な代物から光の球を打ちだしてくる。
「だから、メロディが起きるって言ってるじゃないか。」
 そういいながら、あっさり避けるアイン。しかし、抗議は遅かったようだ。目を覚ましたメロディが、彼らを見て、パニックを起こしてしがみついてきた。
「ふみゃぁ!アインちゃん、こわいですぅ!!」


「全く、失礼な奴らだ。」
 そういったアインの回りには、先ほどの白衣の男達が倒れていた。ちなみにメロディは抱えたままである。彼らに外傷がないところを見ると、攻撃以外の手段で倒されたらしい。
「アインちゃん、すごいですぅ。ゆめとおんなじですぅ。」
「夢?」
 結局しがみついて離れないメロディを抱き上げたまま、家路につくアイン。どういう訳か、珍しく誰にも会わない。
「はいですぅ。ゆめのなかで、メロディをたすけてくれたおうじさまと、そっくりですぅ。」
 思わずつんのめりそうになるアイン。なかなかベタな夢を見ていたようだ。
「で、その結末は?」
 何とか気を取り直して、一応聞くアイン。いくら何でも、夢の中ではスタンなんて言う魔法で相手を倒したわけではあるまい。
「もちろん、メロディとむすばれるのです!」
 妙に力強く言い切ってくれたため、思わず力が抜けそうになるアイン。
「いやですか?」
 きょとんとした顔で聞くメロディに答えるのも疲れたアインは、別のことを考える。
(結局、あいつらは何のためにメロディを連れてくつもりだったんだ?)
 いくら何でもリスクが大きすぎるのが気になる。だが、考えても情報不足なので、そこで考えるのをやめる。
「さて、メロディ、晩御飯は何がいい?」
 こうして、青年の一日は静かに過ぎていった。

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