中央改札 悠久鉄道 交響曲

「青年のお悩み相談室」 埴輪
 その日、アインはクリスと一緒に、街をぶらついていた。
「しかし、クリスから誘ってくるとは思わなかったな。」
「そう言えば、僕から誘ったのって、初めてだよね。」
 そう、今回は、クリスから誘ったのだ。クリスも、会った頃とはずいぶん変わったな、などとアインが考えていると、
「今日は、少し相談に乗って欲しいんだ。」
 と言ってきた。
「アレフやティグスじゃ、駄目なのか?」
「アイン君なら、まじめに考えてくれそうだから。それに、ティグス君って、結構怖いから。」
 確かに、武人タイプのティグスは、クリスにとっては取っつきにくいかもしれない。だが、そんなことを言っていたら、他の騎士などとは、話もできないだろう。ティグスはかなり軽い方だ。
「まあ、その前に、買い物があるんだろ?」
「うん。」


「で、クリス、いつの間に占いなんか始めたんだ?」
「授業であったからね。」
 どんな授業だ、と内心で突っ込みつつ、クリスが買ったタロットを見ているアイン。
「で、何を占うんだ?」
「いろいろと。でも、術者のことは普通占えないけどね。」
「ああ、あれは、自分のことは客観的に判断できないからだ。決して結果がでてこないわけじゃない。」
 まあ、そんなことはどうでもいいんだけどね、と苦笑しながら答えるアイン。
「で、買い物は終わりか?」
「うん、これだけ。」
「じゃあ、相談はジョートショップで聞くよ。」


「で、前にも聞いたけど、何を悩んでるんだ?」
「うん。すごく平凡なことなんだけどね。」
 そう言って、アインにとって最も苦手な一言を吐き出す。
「女の子を好きになるって、どういうことなんだろう?」
「クリス、聞く相手を間違ってるぞ。」
 思春期にありがちな悩みだが、クリスには今まで無縁な悩みでもあった。
「そう言うことは、やっぱりアレフに聞くべきだと思う。」
「でも、アレフ君の答えじゃあ、当てになんないよ。」
 一瞬、思わず納得してしまうアイン。
「たしかに。それに、肝心の、本当に好きな相手に気が付かなかったりするしね。」
 つい最近起こった出来事の顛末を思い出し、苦笑しながら答える。
「でも、やっぱり僕に聞くことじゃないような気がするぞ。」
 こういう真面目な相談事に対しては、惚けて逃げるわけにも行かない。大体、クリスに通用するとも思えない。
「まあ、人を好きになることに、理屈なんて無いとは思うけど。そんなことを悩むって事は、誰か気になる相手でもできたのか?」
「・・・・・・・うん。」
 しばらく沈黙した後、顔を真っ赤にして蚊の鳴くような声で返事をする。
「まあ、誰とは聞かないけど。で、質問の答えとしては、こればっかりは、自分で一度、本気でとことん誰かを好きになってみないと分からない。」
 他にどういえばいいんだ、と内心で舌打ちしながら、アインは答える。
「そんなぁ!」
 ほとんど悲鳴のような声をあげるクリス。
「だから、僕に聞いたのが間違いだって。どっちかって言うと、僕の方が聞きたいくらいだし。」
 困ったように頭をかくアイン。
「どうしても知りたいんだったら、ピートに聞いた方がまだましだよ。何せ、春頃に初恋をして、まだ現在進行形だもんなぁ。」
 最も、相手は幽霊だけど、などと内心でつぶやく。
「しかし、何でみんな僕に相談に来るんだ?」
 自分では、そんなに頼りになる人間だとは思えない。
「まあ、一度当たって砕けてみたらいいんじゃないか?ピートみたいにさ。」
 とりあえず、ピートのときにも言ったことを、そのまま言う。
「何はともあれ、何か行動しないと始まらない。いつまでも考えて沈み込むのは、クリスのあまり良くないところだ。」
 そう言って、優しく背中を叩く。まだ、少し考えていたクリスだが、とりあえず、結論はでたようだ。
「分かった。うまく行くか分からないけど、やれるだけはやってみるよ。」
「実践編は、アレフに相談したらいいよ。それと、できたら次はもっと別の相談を持ってくること!」
「うん。ありがとう、付き合ってくれて。」
 少し吹っ切れたような顔をしてクリスは、ジョートショップを出ていった。

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