中央改札 悠久鉄道 交響曲

「青年、邪竜に挑む 前編」 埴輪
「あれ、トリーシャとエル。こんなところで何してるんだ?」
 かごを背負って、鍬を担ぎタオルを首にかけたスタイルで、ローズレイク湖畔を移動していたアインがつぶやく。
「おーい、二人とも。何やってるんだ?」
 とりあえず、声をかける。
「あ、アインさん。」
 トリーシャがこちらに気がつき、手を振ってくる。
「何深刻な顔してるんだ、二人とも?」
 のんきな声で、マイペースに聞くアイン。
「おまえには関係ない。」
 少しいらだっているらしいエルが、つっけんどんに答える。
「まあ、関係ないっちゃ関係ないけどね。」
「エル、そんな言い方ってないよ。アインさんだって、君のこと心配して、いってくれてるんだから。」
 苦笑して肩をすくめるアインと、怒ったようにいうトリーシャ。と、トリーシャが何か思いついたように言い出す。
「エル、アインさんにも聞いてもらおうよ。ボクだけじゃ、どうしていいかわからないし。」
「こいつに、はなすのか?」
 少し怪訝な顔をして、エルが言う。しかし、話すだけでもまし、と思ったのだろう。
「そうだな。最近、少しナーバスになっていたらしい。」
「大丈夫か?」
 エルの弱気な発言を聞いて、少し心配になるアイン。
「ああ、大したことはない。単に、おかしな夢を見るだけだ。」
「夢?」
「アタシが、竜になって暴れ回る夢だよ。」
 その事を聞いて、いやな予感がするアイン。
「詳しく聞かせてくれるか?」
 真剣な顔で、エルに対して尋ねるアイン。エルは、一つ頷くと、続きを話す。
「ここ2週間ほど、ずっとこの夢ばかりなんだ。」
 そういって、一つ身震いをする。
「竜になったアタシは、笑いながらこの街を壊していく。そう、マーシャルの店も、さくら亭も、ジョートショップもみんな。半分に斬られたマーシャル、心臓をえぐり出されたパティ、ほかにもみんないろんな方法で殺されてる。それをやったのはアタシなんだ。」
 そういって、苦しそうにため息をつく。
「何かの暗示かもしれないな。」
「そうだよ。エルだって、魔法が使えないって言ってもエルフだもん。そういうのを見たって、おかしくないよ。」
「じゃあ、どういう暗示なんだよ。」
 不安そうに、聞いてくるエル。
「ありがちなパターンとしては、近い未来に起こる災難を、エルが竜になるという形で見たもの。ほかには、エルの向上心が、もっとも強いもの、つまりドラゴンになる、という形で表にでたって言うのも考えられる。でも、これだと虐殺の意味までは分からないけど。」
 そういって、少し考え込む。
「で、ほかに何か変化は?」
「そういえば、左胸のあたりに、竜の形の痣が浮き上がってきた。」
 それを聞いたアインは、何かを見落としているような気がしてきた。
「いつ頃に?」
「夢を見るようになった頃だ。いっとくけど、どこかにぶつけたって事はないからな。」
「わかってる。何にせよ、痣と夢を結びつけるのは早計だ。もしかしたら、外部の変な思念を受け取って、それを夢という形で見てるだけかもしれない。エルは、そういう感覚は鋭いから。」
 とりあえず、もっともありそうなことを言っておく。
「僕も、できるだけ調べておくから、あんまり思い詰めない方がいいよ。」
 そう、優しく言うと、やっとエルも少し安心したようだ。
「ありがとう。すまなかったな、おかしな事相談して。」
「いいよ、困ったときはお互い様だ。それに、今度は僕の方が相談に乗ってもらうことになるかもしれないし。」
「それじゃあな。」
 そういって立ち去るエル。それを見てトリーシャは、ほっとすると同時に内心考え込んでしまう。
(アインさんが他の人に持ちかける相談事って、どんなことなんだろう?)
 想像がつかず、思わずうなりそうになるトリーシャ。彼が悩んでいる姿の時点で想像がつかないらしい。
「邪なるもの、目覚める・・・か。」
 そこへ、カッセルがやってくる。
「あ、爺さん。畑の手入れ、終わったよ。」
「ご苦労じゃったな。」
 と、事務的なことをやりとりし、エルの夢のこと、痣のことを簡潔に話した後、単刀直入に聞く。
「で、邪なるも乗ってのは、エルの事と関係があるのか?」
「なんと、あの子がそんな・・・。」
「やっぱり、何か知ってるんだな、カッセル。教えてくれ。」
 静かに聞くアインに対し、意を決したように話すカッセル。
「いにしえに勇者たちに滅ぼされた存在、邪竜族。彼らは森を焼き、町を破壊し、殺戮の限りを繰り返した。」
 そういって、一つ息をつくと、さらに続きを話す。
「だが、悪逆非道の限りを尽くした彼らは、勇者たちによって、一匹づつ滅ぼされた。」
「ということは、邪竜そのものは、基本的には滅んでいるわけだな。」
 話を聞いたアインは、だいたいのところがわかった。
「そうじゃ。だが、彼らの中でも特に強いものは、転生の秘技を使えた。それを知った勇者たちは、すべての力を賭けて、邪竜が目覚めぬように封印したのじゃ。」
「で、その邪竜の転生体がエルで、永いときの末、封印が弱まっている・・・と。」
 思った以上に深刻な話だ。道理で、妙な邪気が街中に漂っているわけだ。
「邪竜の復活を阻む方法は二つ。あの子が自分の精神力でやつを抑えるか、再び封印をかけるかじゃ。」
「わかった。ありがとうカッセル。」
 そういって、アインは立ち去る。
「あのこのことを、頼んだぞアイン。」
 悲しそうな表情で、カッセルはアインを見送った。


「大変だよ、アインさん!」
 いつものメンバーでミーティングをしている途中、エルを抱えたトリーシャが、血相を変えて飛び込んできた。後から、アルベルトも入ってくる。
「おい、アイン。エルのやついったい何があったんだ?橋のところで、やたらと苦しそうにしてたぞ。」
 その言葉に、表情を変えたアインは、唐突に指示を出す。
「アレフ、トリーシャ!クリスとシェリル、それからピートを呼んできてくれ!アルベルトはリカルド、パティはティグスを頼む!大至急だ!」
 アインの表情に、ただ事ではないと判断した彼らは、迅速に行動に移る。質問は、後ですればいい。
「で、アイン君はどうするの!?」
 不安そうな顔で、シーラが聞く。遊びに来ていたマリアが、エルの様子を見て顔色を変える。
「ア、アイン!いったいエルに何があったの!?」
「邪竜が目覚めかけてる。マリア、魔力を貸してくれ!みんなが戻ってくるまで、こいつを抑える!シーラは、エルの看病を頼む!」
「私はどうすればいいんだい?」
「リサは待機。後でめいっぱい働いてもらうことになる。」
「わかった。」
 そういって、マリアから力を借りて、邪竜を押さえ込む。
「アイン、アタシ、いったいどうなるんだ?」
「大丈夫だ、エル!ちゃんと僕が、邪竜からおまえを解放する!だから、邪竜なんかに負けるな!」
 そういってエルを励ましながら、アインはエルに力をそそぎ込むのだった。
[後編に続く]

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