中央改札 悠久鉄道 交響曲

「青年、邪竜に挑む 後編」 埴輪
 5分後、全員がそろった。
「みんな、聞いてくれ。僕はこれから、エルと邪竜を切り離そうと思う。」
 その言葉を聞いて、全員が驚きの声をあげる。
「封印すればいいんじゃないのか!?」
「それじゃあ、エルの魔力が無くなってしまう!それに、また誰かがいつか、同じ目に遭う!ならば、ここで鎖を断ち切るしかないんだ!」
 その台詞を聞いて、アインの決意の固さを知る一同。
「でも、切り離すなんて、そんなまね、できるの?」
「ああ、できる。根拠はないけど、そんな気がする。」
 クリスの問いかけに、少しアバウトな答えを返すアイン。
「切り離した後、転生させないようにする方法は?」
「そのために、クリスとシェリルを呼んだんだ。」
 その一言で、考えを理解する。どうやら、倒した瞬間に、魔力を大きく押さえ込めばいいと言うことらしい。
「封印は、失敗したときにすればいい。とにかく、まずは少しでもいい方法をとりたい!」
「分かった。私の命、アインに預けよう。」
 最初に、ティグスが賛同する。その後、全員が同じ答えを返す。


「今から切り離す。終わったらピート、エルを店に運び込んでくれ。」
「おっけー。」
 軽い返事を返すピート。その台詞を聞いてすぐに、エルの額に手を当て、何かをつかむような動作をする。
「!!」
 エルが、声にならない悲鳴を上げる。
「ちょっとの間の辛抱だ!5秒だけ我慢してくれ!!」
 そう言って、竜を引きずり出し、つながっている部分を引きちぎる。その瞬間、エルは自分の体が軽くなったような気がした。ピートが、間髪入れずにエルを抱え込み、店に飛び込む。
「そのままじゃあ、殴れないからな!」
 ピートが店に入ったのを確認したアインは、そう言って、さらに何かの動作をする。非実体だったじゃ竜の体が、実体化する。
「みんな、防御は僕がやる!とにかく思いっきり殴ってやってくれ!!」


 その後、邪竜との戦いは30分に渡って続いていた。
「えい!」
「でやぁ!」
 シーラの蹴りが炸裂した後、リサが間髪入れずに切り裂く。だが、半分精神体の邪竜には、いまいち効果が薄い。
「させるか!」
 リサに対してふるわれた爪を、アインがくい止める。クリスとシェリルは、ひたすら魔力を高め、蓄えている。
「てや!」
「絶空来迎剣!撃殺紫竜撃!」
 ピートとティグスの一撃が、邪竜の胴をえぐる。この二人の攻撃は、半精神体に対してもかなりの効果を上げるようだ。
「なかなか勝負がつかんな。」
 肩で息をしながらリカルドが言う。旗針かけたアルベルトがそれに相槌を打つ。
「大体、邪竜を倒そうって言うのが無茶なんですよ、隊長!」
 だが、アインは息一つ乱していない。先ほどから、既に数え切れないほどの打撃を防御し、縦横無尽に動き回っているはずなのに、である。
「あいつは化け物か・・・。」
 その様子を見たアルベルトが、思わずつぶやく。さすがに皆、疲労がたまっていたらしい。実際の所、それはアインとて例外ではなかった。
「貴様ら!」
 邪竜が吼えながら、パティに攻撃を仕掛ける。それを割り込んで受け流すアイン。だが、受け流しきれずに後ろに飛ばされそうになる。バランスを立て直している間に、それは起こった。
「シーラ!」
 アレフが叫ぶ。邪竜の爪が、シーラを切り裂いたのだ。華奢な体が宙を舞い、地面にたたきつけられる。切り裂かれた場所から、後から後から血が流れ出す。たたきつけられた衝撃で、首があり得ない方向に曲がる。
「シーラ!!」
 アインが駆け寄ろうとする。そこに、邪竜の尻尾が飛んでくる。その瞬間、アインのなかで、何かがはじけた。
「邪魔を、するな。」
 そうつぶやきながら尻尾を大きくはじくアイン。今まで全身で受け止めていた攻撃を、片手で軽々防ぐ。さらに爪を叩き付けようとした邪竜は、異変に気が付く。
「邪魔をするな!!」
 そう言って、振り下ろそうとした左の腕に、拳をたたき込む。今まで、彼がファイナルストライクと呼んでいた打撃、それをはるかに上回る威力である。邪竜の左腕が根本から消し飛ぶ。
「邪魔を・・・・するなぁぁぁ!!!」
 周囲に衝撃波さえまき散らしながら、無数に攻撃を加えるアイン。最初の一撃で剣は砕けたが、全く気にせずに攻撃を続ける。どんどん邪竜の体はえぐられていく。
「まずい!」
 クリスが異変に気付き、アインと邪竜を閉じこめるように結界を張る。シェリルがそれを強化する。空に逃げようとした邪竜に、アインがさらに何かを叩き付けようとする。
「逃げるなぁ!!」
 そう言って、アインは両手から巨大な蒼い竜を打ち出した。周囲に、今までに数倍する余波をばらまき、地面に大きなクレーターをうがつ。余波を受けて、結界ごと跳ね飛ばされるクリスとシェリル。蒼い竜は、一直線に空にいる邪竜を飲み込み、そのまま飛んでいく。蒼い竜が消えた後、邪竜はどこにも存在しなかった。あの技を食らっては、転生の秘術を使うこともできなかっただろう。
「シーラ!!」
 そう言って、もはや動かないシーラに駆け寄る。まだ、かろうじて命は残っているが、風前の灯火であるのは、間違いない。
「クリス、シェリル!ありったけの回復魔法を!僕は心肺蘇生法をやる!」
 そう言って、人工呼吸を始める。クリス達は、アインの声に促され、魔法をかけ始める。
「いくらやっても、間に合うとは思えない。」
 誰の目にもそのことは明らかだが、アインは続ける。ティグスは直感的に悟った。アインが行っているのは心肺蘇生法だけではないことを。
「アイン君は相変わらず無茶をするな。」
 リカルドも気が付いたらしい。アインが人工呼吸や心臓マッサージと共に、桁外れの量の生命力を送り込んでいることに。
「あれでは、アインの方が倒れると思うが。」
「とにかく、私はトーヤ先生を呼んでくる。」
 そう言って、リカルドが立ち上がる。ティグスは、アインの様子を見ておくことにした。


 シーラの心臓が、再び鼓動を打ち始めたのは、それから5分後だった。その間に、折れていた首やその他の怪我は全て癒されたが、そこまで治すために、ピートやリサの魔力まで必要だった。
「何とか、峠は越えた。だけどまだ油断はできない。」
 そう言いながら、さらに軟気功を続けるアイン。今までの彼ならば、既に限界を超えている。だがこの時のアインは、普段に比べて桁外れの力を発揮していた。
「火事場の馬鹿力とはいえ、かなり凶悪だな。」
 その様子を見ていたティグスが、その底力に戦慄しながら言う。そこに、リカルドとトーヤがやってくる。
「トーヤ、何とか峠は越した。何とかなるとは思うけど・・・。」
 そこには、大半の怪我が治されたシーラが横たわっていた。
「それと、僕はもう限界だから、後よろしく。」
 そう言った、その場に大の字に寝転がり、寝息を立て始める。
「しかし、抜けるより多い量の生命力を送り込むとは、無茶もいいところだ。」
 思わず頭を抱えるトーヤ。無茶をした本人からは、既に謎の底力は消えていた。

中央改札 悠久鉄道 交響曲