中央改札 悠久鉄道 交響曲

「青年、地震を調べる」 埴輪
「おい、起きやがれ。」
 アインは、謎の声によって起こされた。アリサやテディでもまだ寝ている時間である。
「何だよ、うるさいなぁ。」
 もぞもぞと体を起こすアイン。最近、妙な夢をよく見るため、いまいち調子が良くない。妙でも楽しい夢もあるが、大抵は無味乾燥した、知識の断片である。はっきり言って、そんな夢を延々見ていれば、調子も狂う。
「やっと起きたか。ねぼすけな野郎だな。」
「この時間だったら、普通は寝てるよ。別に冒険中じゃないんだから。」
 シャドウに対して、そう返すアイン。
「まあ、そんなことはいい。おまえ、俺のことをちゃんと憎んでるか?」
「何で?」
 シャドウの質問に対して、間髪入れずに聞き返すアイン。どうやら、それが返事になったようだ。
「そう言うことか。なら、これから、俺のことをとびっきり憎みたくなるようにしてやるよ!」
 そう言って、シャドウは出て行った。
「何だったんだ、いったい。」
 シャドウについて、いろいろと考える。どうも何かがおかしい。シャドウの行動が今ひとつつながらない。
「まあいい。そろそろ何か分かるだろう。」
 そんな気がするという、はなはだ根拠にかける理由でそう思いこむことにして、とりあえず少し早い朝の準備をすることにした。


「どういうことです?」
 怪訝な顔で、アリサのいったことを聞き返すアイン。
「だから、地震の原因を調べて欲しいの。」
 確かに、ここしばらくは不自然に地震が多い。だが、最近異常なまでに感覚が鋭くなったアインの見立てでは、取り立て不自然なところはないようだ。
「アリササン。地震は多分、自然に起きたものですよ。その手の呪文の波動もないし。」
 アインが、分かっていることをそう言う。
「確かに、地震そのものは自然なものだと思うの。でも、その背後に何か、人為的な悪意を感じるの。」
「うーん、それは僕も気になってたけど。」
 特に、今朝はシャドウのこともあり、何か見落としているような気がするのだ。
「アイン、悩むことはねぇぜ。こういうことは、とっとと調べちまうにかぎる。」
 アレフが言う。その意見を聞いて、彼の態度が決まった。
「そうだな。とりあえず、調べられるだけ、調べてみようか。」
 そう言って、書類をまとめて立ち上がる。
「で、どこから手を付けるんだい?」
 リサの台詞に対して、
「ショート科学技研じゃあ、僕が分かったこと以上は分からないと思う。多分、こういうことは純粋な知識が必要だろう。」
 と答える。
「ということは、図書館かしら。」
 シーラが尋ねる。
「いや、まずはカッセルの所に行こうと思う。この街の地理的なことは、あの爺さんが一番よく知ってるからね。」
 そう言って、扉をくぐって出て行く。


「何、地震についてじゃと?」
「ああ。アリサさん曰く、何か背後に人為的なものを感じるそうだ。」
 端的に、用件を言う。
「しかし、アインよ。どうやって魔法の波動なんぞを調べた?」
「別に、ただ地震が起こったときに意識を向けただけだけど。」
 普通、それだけでは分からない。地震の大きな力にかき消されるからだ。
「アイン、あんたいったいどうしたのよ。」
「何にせよ、邪竜の件以来、なんか体がおかしいんだ。別に調子が悪いとかそんなんじゃないんだけどね。」
 何でもなさそうにパティに答えるアイン。だが、とてもなんでもないようには見えない。
「とにかく、今は地震のことだ。カッセル、この街の近くに火山とかはないのか?」
「火山か・・・。確かに一つあるにはあるが。」
「どこに?」
「雷鳴山じゃよ。」
 その台詞を聞いたアインは、雷鳴山に意識を向ける。
「なるほど、確かに火山だ。それもだいぶん活発な・・・。」
「なんじゃと!!」
 この距離でそんなことが分かることもそうだが、それよりも雷鳴山が活発に活動していることの方にカッセルは驚きの声をあげる。
「雷鳴山は既に死火山のはずじゃ!!」
「でも、あそこの地下からは、強い火の力と大地の力を感じる。それも、火山特有のパターンでだ。」
 そう言って、首をひねる。
「でもおかしいな。前はこんなに強くなかった。水とかの精霊魔法が使えたのに。」
 今の状態では、発動自体がおぼつかない。
「他に、何か知らないのか?」
 首をひねっているアインに変わって、リサがカッセルに聞く。どうも、アインがいつもに比べて今ひとつ頼りない。
「そう言えば、あくまで噂じゃが、100年前の科学者達が火山制御装置を開発して雷鳴山に取り付けたとか・・・。」
「それなんじゃないの?」
 パティが聞く。だが、カッセルは首を横に振る。
「あくまで噂じゃ。それもかなり眉唾のな。」
「確かに、結論を出すのは早いけど・・・。どうも、それのような気がする。」
 そこに、首をひねっていたアインが口を挟む。
「たわけ!お主がそんなことを言い出してどうするのじゃ!!」
「そう言っても、雷鳴山の地下に不自然な空間を感じるんだ。魔法力までは分からないけど。」
 うそを言っているようには見えないが、信用するには少し頼りない。とりあえず、その意見を却下する。
「そんなことを言っておるから、おかしな噂が立つんじゃ!」
「噂?」
「ここのところの地震は破滅の前触れで、それを呼び寄せているのはおまえじゃというな・・・。」
「確かに、このままほっといたら破滅って言うのは確かだけどね。」
 火山の様子をはっきりと知ってしまったアインは、肩をすくめてそう言う。
「とにかく、おかしなことは言わぬことじゃ。」
「ちょっと待ってくれ爺さん。その噂って、どこで聞いたんだ?」
「儂の所にはトーヤが持ってきたのじゃが、噂自体は怪しげな予言者が教会の前で流しておるそうな。」


「怪しげな予言者って、あいつのこと?」
 パティが指さす。教会の前には人だかりがあり、その中央では怪しげな老人が声高に話をしている。
「この地震は雷鳴山の山の神の怒りじゃ!アインという男をこの街から追放せん限り、この街には、いや世界中全てに破滅が待ち受けておるぞ!」
「いいの、アイン君?あんなことを勝手に言わせて・・・。」
 台詞を聞いたシーラの言葉に、何も答えないアイン。見ると、額を抑えて何かに耐えている。
「どうしたの、アイン君!?」
 さらによく見ると、アインの髪と瞳が、普段の黒と見たこともない深い青色との二つを交互に変わっている。それに合わせて、はっきりと彼の体の中から不自然なまでに大きな力がわき上がってくる。
「そうか、そう言うことか・・・。」
 そう言って、額を抑えるのをやめるアイン。髪と瞳はまだ、どちらの色にも安定していない。
「言ってくれるじゃないか、シャドウ。」
 群衆の中に割って入り、そう言い放つアイン。徐々に、青色が支配する時間が長くなっていく。
「え!!」
 その台詞を聞いた一同は、思わず耳を疑う。
「確かに、今回のことは僕が招いてしまったようだ。だが、世界中が破滅するとはまた、言ってくれるじゃないか。雷鳴山の噴火ではそこまでの火山灰はでないと思うぞ。」
 そろそろ青い色で安定し始める。
「事実は事実じゃ。しかしシャドウとは何のことかな?」
「しらばっくれるのはやめたらどうだ?いくら何でももう一人の自分を間違えるほど、今は間抜けに離れないぞ。」
 その台詞を聞き、観念したかのように姿を変える予言者。案の定シャドウであった。
「ちょっとアイン!シャドウがもう一人のあんたって、どういうことだい!?」
 リサが、慌てて質問する。
「今まで確信が持てなかったから言わなかったけど、こいつは僕の攻撃的な部分が分離、実体化したやつだ。だから、こいつはもう一人の僕だ。」
「そういうことだぜ、お嬢さん!どうやら記憶の封印も解けたみたいだなぁ。」
 すっかり髪も瞳も蒼くなったアインがそれに答える。
「ああ、全部思い出したよ。奥義も、秘術も、全部な・・・。」
 そう言って、左手に気を集め始めるアイン。
「まあ、待て。おまえとの決着は後だ。相応しい場を用意してあるぜ。」
 捨て台詞を残して、シャドウは姿を消した。
「さて、シャドウの奴、やっかいな置きみやげを残してくれたもんだ。」
 そう言って、思わずため息をつく。彼の耳には、「アインを追い出せ!」とか「生ぬるい!処刑しちまえ!!」とか、「こんな奴が居るからこの街がえらい目に遭うんだ!」とか言う住民達の声が届いていた。言い返そうにも、非は彼の方にあるという自覚を持っているため、何も言えない。
「ちょっと待ってよ!お兄ちゃんは何もしてないでしょ!!」
 どうしようか考えあぐねていると、ローラが割って入ってくる。
「何もしてないだと!こいつはシャドウとか言う化け物を生み出してるじゃねえか!」
「じゃあ、あんたからは出てこないとでも言いきれるのかしら?」
 そこに、別の声が割って入ってくる。
「ローラ・・・、由羅・・・・。」
 予想もしなかった展開に、しばし呆然とするアイン。よもや、援護してくれる人間が居るとは思わなかったのだ。
「聞いてなかったの?シャドウはアイン君の破壊衝動が分離したって。つまり、そう言う心を持っている人間からなら、誰からでも生まれるってことよ。」
「そいつが人間じゃないから生まれたんじゃないのか?」
 確かに、アインが人間だというのは、もはやかなり根拠が薄い。石をぶつけられてできた傷は、できた瞬間に消えた。
「ふーん、だったらあなたはそう言う心が全然ないのかしら?」
 その台詞に、思わず詰まる住民達。
「由羅、もうそのへんでいい。それよりここから離れてくれ。」
 妙に真剣なアインの表情に思わず引きながら言い返す由羅。
「何言ってるのよ!こいつら理不尽な理由であんたに石を投げつけたのよ!一年間みんなのために一生懸命やって来たあんたに!!」
「別に、みんなのためだけにやってきたわけじゃない。それに石を投げつけられるのに、十分な理由だと分かってる。」
「そんな!!」
 その台詞を聞いた住民達は、我が意を得たりという顔をし、仲間達が悲鳴を上げる。
「今回のことが終わったら、言われなくても出て行くよ。だけど、今はみんなここから離れて欲しい。シャドウの奴、まだ置きみやげをして行きやがった!!」
 そう言うと、寮の手に魔力を集中させる。その瞬間、教会から巨大な悪霊が躍り出る。
「いでよ!浄化の鳳凰よ!!メギドフェニックス!!!」
 手のひらに、小さなフェニックスを呼び出す。その不死の鳥は一瞬にして教会よりも巨大になると、相手をその身の炎で焼き尽くす。
「ば、化け物!!」
 その様子を見た住民達が、アインを恐怖の混ざった目で見る。その様子を見たアインは、悲しそうな、だが明らかに納得したような顔で、硬直した仲間達の方に振り向く。
「さて、一度ジョートショップに戻ろうか・・・。」
「そうしてくれるとありがたい。」
 アインの台詞に、リカルドが口を挟む。
「分かってるよ、リカルド。見つかったんだろう?火山制御装置の部屋につながる通路が。」
「そう言うことだ。準備が出来次第、そちらに向かう。」
「ああ、待ってるよ。」


「アリサさん、ただいま。」
 一応そう声をかけ、こう言ってジョートショップに戻るのは、これが最後かもしれないなとふと思う。
「お帰りなさい。」
「とりあえず、調べた結果は・・・ってその様子じゃ言うまでもないか。」
 そう、ジョートショップの中にはマーシャル、トーヤ、雑貨店とローレライの主人、占い師、トリーシャ、そして他の仲間達が集まっていたのだ。
「なーんだ、みんなここに来てたんだ。」
 由羅が拍子抜けしたような顔で言う。
「そりゃあそうアルね。私、アインが心配だったアル。あんなこと言われて自暴自棄になってないか。」
 マーシャルの台詞を聞いて、内心苦笑するアイン。どうやら、さっきまでの自分は相当不安定に見えたらしい。それと共に、やはりマーシャルも自分より年上だということを実感する。
「アインクン。みんなあなたのことを心配して、ここに集まってくれたのよ。」
 ちょっと手狭になっちゃったけどね、といって苦笑するアリサ。確かに総勢で20人を超えるのだ。いくら住むには広めとは言ってもこの人数が座れるほどは広くない。
「とにかく、いらん雑音に気を取られるな。最後に痛い目を見るのはおまえに石を投げた連中だ。」
 トーヤのクールな台詞に苦笑を浮かべるアイン。
「どうやら、今の僕は相当頼りなく見えるみたいだね。まあ、何があっても、この街だけは守ってみせるよ。」
 そう言って、まじめな顔をして、一言付け加える。
「ただ、みんな出来れば教会に行って欲しい。多分あそこが一番安全になるだろうから。」
 その時、扉が開いて、一人の自警団員が入ってきた。
「アインさんはいらっしゃいますか!?」
「ああ。こっちの準備は出来てるよ。」
 そう言って、いつの間にか準備をしていた道具類を身につける。
「さあ、行こうか。」
 そう言って、アインは店を出た。

中央改札 悠久鉄道 交響曲