中央改札 悠久鉄道 交響曲

「青年、火山に潜る」 埴輪
 彼が一歩教会に踏み込んだ瞬間、多くの視線が彼に集中した。ほとんどは憎悪や恐怖といった、非友好的なものだったが、中には好奇心の入り交じった、友好的なものもあった。
「さて、リカルド。どうやら、こちらから中に入れるのは、僕だけらしい。」
 その台詞に驚く一同。
「どういうことだよ!!」
 真っ先にアレフが反応する。
「シャドウのやつ、かなり手の込んだことをしてくれたみたいだ。馬鹿ほどモンスターを送り込んできてる。」
 その台詞にさらに驚く。彼に集まる憎悪の視線が、いっそうきつくなる。
「だが、もしもの時のために街全体に結界を張るから、奴らを外に放り出すこともできない。」
「わかった。私たちは、そいつらを受け持つよ。」
 アインの台詞に対してリサが請け負う。
「頼む。念のために、教会の周りにももう一つ結界をはっとくから。」
 そういって、リカルドの方に向き直る。
「そういうことだ。自警団の方は好きなようにしてくれ。で、通路はどっちだ?」
 その台詞に黙って道を指し示す。
「結構大きいな。これなら一気にいける。」
「我々は、ショート科学技術研の人たちの護衛に回る。君のバックアップには、アルベルトを向かわせよう。」
「ちょおっと待ってください!!我々も行かせてもらいますよ!」
 そういって、ハメット達が乱入してくる。そのすったもんだをアインは無視して、
「そろそろ結界を張っておくか。」
 とつぶやき、体の中に眠る力を引きずり出す。その瞬間、大きな翼が彼の背から生える。
「アイン・クリシードの名において命ずる!具現せよ、神王の盾!!」
 その瞬間、すさまじい力が街中を覆う。不可侵のドームが街と教会を覆い、守りを固める。


「さて、じゃあみんな、頼んだよ。」
 すでに翼は見えない。だが強い力で結界は張られている。
「お兄ちゃん!」
「ローラ?」
「あたしも連れてって!」
「どうして?」
「あたしの体、なんだか見つかりそうな気がするの。」
 その台詞に、少しだけ考え込む。だが、すぐに結論はでる。
「わかった。ただし、しっかりつかまっておくこと。かなり飛ばすから。」
 幽霊に対して、無茶なことを言う。その言葉にうなずくローラ。どうやら、ちゃんと捕まれるらしい。
「神龍飛翔撃!」
 闘気を集めて龍の形のバリアを張り、浮かび上がる。魔法を使っているわけではない。純粋に気の力だけで浮かんでいるのだ。その後、一気に加速し、すさまじいスピードで通路に飛び込む。
「お兄ちゃん、速いよぉ!」
 ローラの声が、ドップラー効果を伴って遠ざかっていく。それを見送った後、アルベルトたちとなぜか乱入して来たハメット達も突入する。


「さて、みんな、ここが正念場だよ!」
「アインが戻ってくるまで、街にこれっぽちも被害を出すな!」
 エルとピートが檄を飛ばす。その後、数人ずつの組み合わせに分かれて街の各所に散る。
「さて、アタシは今、最高に虫の居所が悪いんだ。覚悟してもらうよ!」
「マリアだって、アインの役に立てるんだもん!!」
 エルとマリアのヴァニシング・ノヴァが数匹のドラゴンをまとめて虚空に消し去る。普段に比べて、マリアのコントロール能力は当社比数倍以上に上がっているようだ。
「あたし、手加減なんてできないからね!」
「はぁ!」
 シーラとパティがコンビネーションでトロルをしとめる。飛びかかってきたハーピーをファーナの魔法がたたき落とす。
「私を、甘く見ていただいては困りますわ!」
 クリスが、魔法でアレフを援護する。息のあったコンビネーションで見る見るうちに数を減らすモンスター。
「俺たち、モンスターハンターとしてもやっていけるよな。」
「アレフ君、調子に乗らない!」
 ピートとメロディが、素早い動きでモンスターを翻弄する。
「うみゃ!!」
「うおぉ!!」
 どこまで行っても、彼らは獣人コンビだった。
「どりゃぁ!」
「ヴァニシング・ノヴァ!!」
 シェリルが、ティグスがうち漏らした数匹の雑魚を一掃する。
「さすがですな、シェリル殿。」
「ティグス、ぼやぼやするんじゃないよ!」
 隙をついてきたゴーストを、リサが魔法をかけたナイフで切り裂く。彼らの獅子奮迅の活躍と、何よりコントロール能力の異様なまでに高い広範囲魔法のおかげで、100を越えたモンスターは、数十分のうちに全滅した。


 時間は少しさかのぼる。
「また轢いた。」
 アインが、すさまじいスピードで移動するため、進路にいたモンスターは、さけるまもなくひきつぶされる。
「で、ローラ。どっちだ?」
「うーんと、右!」
 この調子でいくつかのレバーを見つけ、次々と操作していく。この段階で、まだ入ってから5分程度である。
「さてと、そろそろゴールだと思うけど?」
「あたしもそんな気がする。」


「全くあきれた野郎だ。」
 モンスターの死骸をまた発見したアルベルトは、思わず肩をすくめる。
「やっぱり、住民の意見は正しいかもしれませんね。」
「馬鹿いえ。それじゃあ、俺たちはただの恩知らずじゃねぇか。」
 自警団員Aの台詞を叱りつけるアルベルト。アインも、よもや彼からそんな台詞が聞けるとは思ってもいないだろう。
「どうやら、こっちに行ったらしいですね。」
「ああ、だが、こっちが近道らしい。」
 アインの通った後ははっきりわかるが、どちらが近いというのは彼の目印を見るしかない。
「とにかく急ごう。肝心なところをかっさらわれちまうぜ!」


「ガーディアンか。だけど、こんなのの相手をしてるヒマはないんだけどなぁ。」
 そういいつつ、そのままぶちかましをかますアイン。
「このままはね飛ばせれば一番楽なんだけど・・・。」
 どうも、そうはいかなかったようだ。4体まではそのままつぶせたが、5体目から後ろが、壁となって彼を押しとどめる。それでも、その勢いで8体中7体までは破壊する。
「悪いけど、後ろの扉に用があるんだ。あんまりのんびりしてられない。」
 そういって、ローラをおろしてから番人をしばきたおす。悪あがきでビームをうとうとしたガーディアンは、ビームごと腕をたたき壊される。
「さて、さっさと奥にいこうか。」
 そこに、息を切らせながらハメット一味と自警団が追いつく。
「アイン、ちょっとは加減しろ!」
「すまない、急ぎたかったもんでね。」


「さて、感触から言って、どうやらローラの体はここらしい。」
 そういって、適当な扉を開く。
「あー!あたしの体!!」
 そういって、自分の本体に飛びつくローラ。
「どうだ、戻れそうか?」
「うーん、わかんな・・あれ?」
 答えかけたローラの体が、急速に薄れていく。それと同時に、本体の顔に赤みが差していく。
「どうやら、元に戻れたらしい。」
 ローラの体を抱き上げ、そうつぶやくアイン。
「うれしいな・・・あたし今、お兄ちゃんに抱かれてるんだ。」
 そういった後、苦しそうな息づかいに変わるローラ。それを見たアインは、彼女をアルベルトに預け、こういった。
「すまない、アルベルト。ローラを頼む。」
「ちょっと待て!俺達はここでお払い箱か!?」
「どっちみち、シャドウとは一人でけりを付けるつもりだったんだ。」
「我々はお宝を探しに来たんですよ!」
「あったじゃないか、お宝が。」
 そういって、ローラの体を指すアイン。
「そんな!」
「ああ、もううるさい!アイン・クリシードの名において命ずる!具現せよ、転移の回廊!!」
 また、アインの背中に翼が見えたかと思うと、いきなり視界がゆがみ、次の瞬間彼らは教会にいた。
「アルベルトさん!!」
「くそう、アインのやつ!こっちの意見も聞かずに強制転移しやがった!!」
 その台詞を聞いたアリサの顔色が変わる。
「アインクン、一人で残ったんですか!?」
「ええ、あの馬鹿、『シャドウとの決着は、僕一人でつける』とかぬかして俺達をここに飛ばしたんですよ!」
 その台詞を聞いてざわめく一同。先ほどから、あちらこちらから細かい振動があるうえ、アインがたった一人で残ったというニュースである。いやが上にも不安は高まる。
「何にせよ、まずはローラを何とかしよう。」
 トーヤがそういって、診察道具を取り出す。
「無事に戻ってこなかったら、許さないぞアイン君!」
 神父がそうつぶやいたのに、誰も気がつかなかった。

中央改札 悠久鉄道 交響曲