中央改札 悠久鉄道 交響曲

「青年と影」 埴輪
「さてと、みんな返したし、これでやっと人外魔境な戦いか他が出来るな・・・シャドウ?」
「そうだな。」
 案の定というか何というか、やはりシャドウは火山制御装置の部屋にいた。
「でも、このまま暴れたらまず間違いなく壊れると思うけど?」
「心配するな。ちゃんと結界は張ってあるぜ。俺だって、街が無くなっちまったら困るからな。」
 そう言って、どこからともなく、剣を取り出すシャドウ。背中には漆黒の翼が生えている。
「さて、始める前に聞いておく。俺のことが憎いか?」
「別に。憎いって言ったら憎いけど、おまえだけを憎んでるわけじゃない。おまえを含めた僕個人、その弱さに対しての憎しみはあるよ。」
 そう言った彼の表情は、驚くほど静かだった。
「けっ、それじゃあ他の連中とかわんねぇじゃねえか。」
 少し、シャドウの顔に焦りが見える。どうやら、彼の思惑通りには行かなかったらしい。
「もう、聞くことはないのか?」
 そう言って、アインも力を解放する。手のひらに大きな力が集まり、一本の剣を形作る。背中には、例のごとく大きな翼が生え、服装が今までのものから変わる。
「それなら、始めようか。」


 ほとんどダイブするように突っ込んできたシャドウをはじくアイン。そこに切り込んでいってはじかれる。
「その程度か!?」
「人のことは言えないくせに!」
 お互いの攻撃がぶつかり合う度に、周囲に余波が飛び散る。危なくてとても他人は割り込めない。お互い、決め手に欠けるままもう10分以上やり合っている。
「さすがに、このまま千日手を続けるのもめんどくさい。一か八かでやるか・・・。」
 アインがそう考えた瞬間、シャドウも同じことを考えたらしい。お互い、部屋の端から端まで、一気に間合いを広げる。
「勝負だ、シャドウ!」
「おう!」
 そう言って、神速で突撃する二人。勝負は、一瞬で決まった。


「さてと、言い残すことはないか?」
 切り落とされた左腕を拾いながら、アインが言う。
「別に・・・。」
 上半身と下半身が切り離されたシャドウは、ふてくされたように言い放つ。お互いの捨て身の攻撃は、紙一重でアインの方に軍配が上がった。攻撃が来た瞬間、アインは左腕で相手の攻撃をはじいたのだった。
「ただ、忘れるんじゃねぇぞ・・・。また、一つになるだけだってことをな・・・・。」
「分かってるよ。」
「いつまでも、ガキのことなんざひきずってっと、またオレ様がでてくるぜ・・・。ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ。」
 笑い声を残して、シャドウは消えた。
「まあ、努力はするよ・・・・。」
 そうつぶやいたとき、背後からリカルドが入ってきた。
「終わったようだな。」
「ああ。とりあえず、自分の蒔いた種から出た芽は刈り取ったよ。」
 そう言って、左腕をつなぐ。軽く動かして調子を確かめて、そのまま何かの術を発動させる。
「とりあえず、応急処置はしておいたから、早く修理してくれ。」
 見ると、ちぎれていた制御装置のチューブが半分つながっている。
「じゃあ、僕はいったん戻るよ。」
 そう言った後、彼の姿は虚空に消えた。


「アイン!!」
「とりあえず、全部けりは付いたよ。」
 駆け寄ってきたアレフに対して、それだけを告げるアイン。相変わらず、周囲の目は、非友好的だ。
「後は、約束通りここから出て行くだけだな。」
 シャドウと戦ったときの姿のまま、アインがそうつぶやく。
「アインクン!!」
 アリサが駆け寄ってくる。
「ごめんなさい、アリサさん。恩返しのつもりで、いっぱい迷惑をかけたみたいだ。」
 そう言いながら彼は何かの術の準備をする。
「てめぇ、終わったんだったらとっとと出て行け!!」
 誰かが叫ぶ。その台詞に呼応して、何人かが声をあげる。だが、半分くらいの人はどうしようか態度を決めかねているようだ。
「分かった。それじゃあ、僕の用も済んだことだし、ここから出て行くよ・・・。」
 その台詞を聞いたアレフは、思わずアインに飛びつこうとする。
「アイン・クリシードの名において命ずる・・・・。」
「待てよ!」
「具現せよ・・・」
「行くんじゃない!アイン!!」
「転移の回廊・・・・。」
 アレフの手が、アインに届いた瞬間、アインの術が完成する。そのまま、姿を消すアイン。
「アイン君!」
 シーラが悲鳴を上げる。その後の行動は早かった。速攻で教会を飛び出したのだ。シーラだけではない。クリスも、ピートも、メロディも、パティも、彼の仲間みんながである。


「この景色も、見納めか・・・・。」
 普通の姿に戻ったアインは、雷鳴山の一角にある花畑の崖に腰掛けて、夕日に染まるエンフィールドを見つめていた。どうやら、ここは彼のお気に入りの場所らしい。
「情けないな、僕も・・・。」
 エンフィールドに対する執着を断ち切れない自分に嫌気が指す。
「日が沈んだら、ここから離れないとな・・・・。」
 そう呟いたっきり、そこを動かない。まだ日が沈むまでには時間がある。だが、気配をきっちり消したため、魔法などで探知することは不可能である。また、この場所は誰にも教えていない。誰かに探し当てられる可能性は極端に低かった。

「ここにいたのか・・・。」
 アレフが、夕日を見つめるアインに声をかける。
「いい場所だな。おまえ、こんないいとこ隠してたのか。」
 そう言って、アインの隣りに腰掛ける。

「綺麗な夕日ね・・・。」
 シーラが、アインの隣りに腰をかける。それっきり、アレフと同じく何も言わない。

「アイン、あんた昼御飯食べてないでしょ。」
 バスケットを持ったパティが、アインの側にたつ。アインは、何も言わない。ただ、黙って夕日を見続ける。

 その後、他のみんなも集まるが、アインは無言のままである。夕日が沈みきったあたりで、アインがぽつりと呟く。
「みんな、僕が怖くないのか?」
「どうして?」
「別に、髪の色が変わっただけじゃないか。あ、目の色もか。」
「とにかく、まだおまえにはどっかに行って欲しくないんだよ。」
 その台詞を聞いて、ふっと微笑む。
「そうだな、よく考えたら、明日のこともあるし・・・。せめて、借金だけはチャラにするか。」
「そうしてもらわないと、我々としても困るんだが?」
「リカルドおじさま!?」
「何時の間に!?」
「ついさっき、大体どうして?ってシーラが聞いたあたりから、だろ?」
「まあ、そう言うことだ。」
 その台詞を聞いたアインは、その場から立ち上がって、こういった。
「そうだな、とりあえず、アリサさんに怒られてくるよ・・・。」

中央改札 悠久鉄道 交響曲