中央改札 悠久鉄道 交響曲

「青年、帰還する 前編」 埴輪
「さて、今日の仕事分担はこんなところか・・・。」
 そう言って、名目上は部下となっている仲間−アルベルト、トリーシャ、イヴの3人を見回す十六夜。
「そう言えば、明日はトリーシャの誕生日だっけ。」
「あ、十六夜さん覚えててくれたんだ。」
「もちろん。普段から世話になってるからな。プレゼント、楽しみにしててくれよ。」
「気を付けろよ、トリーシャちゃん。こいつ、俺の時は納豆なんぞ持ってきたんだぜ。」
「後でちゃんと化粧品やっただろ!?」
 などと、仕事前の和やかな会話をしていると、第一部隊の隊員が駆け込んできた。
「十六夜さん!大変です!!」
 ただごとではない雰囲気に、マジな顔になって聞く十六夜。
「どうした!何があった!?」
「モンスターの、モンスターの大群がエンフィールドに迫ってきています!!」
「数は!?」
「200を超えています!!」
 それを聞いて、思わずぞっとする十六夜。ジョートショップの関係者が、10人掛かりで100を超えるモンスターを退治したことはあったが、あれは狭い地域だったからできたことである。ついでに言うと、あれ以上のレベルに達しているのは、自警団でもリカルドだけである。十六夜もアルベルトも、まだそこまでの腕はない。
「ジョートショップの関係者は、何人協力してくれているんだ?」
「直接戦闘には、アレフさんとティグスさん、リサさん、それにピートくんが。物資の補給にエルさんとパティさんが協力して下さっています。」
「みんな、聞いての通りだ!今日の予定は変更!モンスターの討伐に回るぞ!!」
「分かったわ。」
 イヴが冷静に言う。
「でも、その前に、少し状況を把握する必要があるわね。」
 そのイヴの言葉を聞いて、方針を決める。
「そうだな。それに、もしかして外に出てて巻き込まれた人がいるかもしれない。俺達はそっちを中心に動こう。」


「兄様、十六夜様、気を付けて下さいませ・・・。」
 クレアが青い顔をして言う。ただ、数が多いだけならこんなに心配はしない。どうやら、かなり強いモンスターの群らしく、負傷者が次々と運び込まれている。死者こそ出てはいないが戦況はかなり危険なようだ。
「分かってる。ただ、俺達の仕事は、外に出たチャックの保護だ。そんなに無茶はしないさ。」
 十六夜の言葉を聞いて、少しほっとするクレア。
「この分だと、もう一つの仕事は黙っていた方が良さそうね。」
 イヴが十六夜にささやく。もう一つのほうは結構危険である。何せ、相手の懐に飛び込む必要があるからである。
「いわれなくても分かってるよ。」
「とにかく、早く行こ!」
 じれたように言うトリーシャ。早く自分たちの役目を終わらせて、父の負担を軽くしたいらしい。
「おう。行くぞ、みんな!」


「これはまた・・・・。」
「思った以上に、きついな。」
 チャックを見つけて、魔物よけの石を渡したのは良いが、モンスターに囲まれて立ち往生する羽目になったのだ。
「くそ、このままじゃじり貧だ!」
 思わずうめく十六夜。既に彼自身が10を超える数のモンスターを切り捨てている。
「ボク、もう駄目・・・。」
 ねを上げるトリーシャ。はっきり言って、彼女の体は既にオーバーワークである。
「そろそろ私のほうも限界ね。」
 冷静に言うイヴ。もっともその言葉に嘘偽りはない。魔力切れを起こしかけている。
「しまった!」
 アルベルトが悲鳴を上げる。見ると、彼の手にした槍が、真っ二つに折れていた。
「ここまでか・・・。」
 包囲網を抜けるためには、後10は倒さなければいけない。しかも後から後からわいてくる彼らを見ていると、本当に200を超える程度できくのかどうかも怪しい。
「くそ!諦めて溜まるか!!」
 そう言って、刃こぼれを起こしている刀を振りかぶって、手近なモンスター(新種)を斬る十六夜。アルベルトも、最後の悪あがきとばかりに折れた槍の柄で同じ奴をしばく。だが、破れかぶれの行動は、ろくな結果を生まない。上から来たハーピーもどきに、アルベルトは気が付かなかった。
「アルベルトさん!」
 思わず悲鳴を上げるトリーシャ。彼女も、目の前の相手にていっぱいでアルベルトのカバーには入れない。イヴに至っては身を守るので精一杯である。
「ギャア!!」
 その場にいた全員が、覚悟を決めたその瞬間、信じられないことが起こったのだった。
 飛んできたのだ。ポールアックスが。
 回転しながら飛んできたポールアックスは、ブーメランのような軌道を描いてハーピーもどきを半分に切り裂き、飛んできた方向に帰っていく。
「何!?」
 思わず唖然とする十六夜。しかも、驚いたことにポールアックスが飛んできたのは、エンフィールド側ではなく街道側、つまりモンスターが襲ってきた方向からだった。
「全く、ちょっと留守にしてる間にずいぶんとお客さんが来るようになったもんだ。」
 その場にいた人間全て、いや1年半以上前から街に住んでいた人間全てに聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「アインさん!」
「とりあえず、こっちにこいつらが寄りつかない場所があるから、いったんそこまで行って休憩した方がいいんじゃないか?」
 そう言いながら、さっきのポールアックスで次々としとめていく。相変わらずけた違いの腕である。
「おい、おまえいつ帰ってきた!?」
 語気も荒く聞くアルベルトにアインはあっさりと答える。
「ついさっき。エンフィールドが見えるところに出たのが20分前くらいかな?」
 のんびり答えるアイン。その間も手を動かして、次々に数を減らしていく。
「あまり呑気に話をしている場合ではないのかしら。」
「そうだね。まあ、数を見ると後100くらいだから、もうそろそろこっちに来てる分は半分をきると思うけど?」
「何!!」
 アインの台詞を聞いて、心底仰天する十六夜。それでは、どう計算しても500を超える。
「とりあえず、細かいことは小屋についてからだ。」
「小屋?」
「ああ。モンスターが嫌がって近寄ろうとしない小屋がある。あそこでよっぽど思い出したくないことをされたんだろうな。」
 聞き流そうとして、ぎょっとする。
「思い出したくないことをされた・・・って、どういうことだ?」
「いや、半分以上キメラだし、なんか、無理な合成の仕方をしてるのもいるしって考えると大体想像はつくんじゃないか?」
 そう言った段階で、小屋についた。確かに、モンスターは近寄ってこない。
「そうか、それで人間に対して敵意を持ってる奴ばかりだったんだな。」
 何となく納得する十六夜。
「そうだ、珍しい果物があるけど、食べる?」
 先ほどまでの台詞と同じような気楽さで、全く関連のない台詞をはくアイン。
「ちょっと待て、何でそこで果物の話になるんだ!?」
 思わず突っ込む十六夜を無視して、イヴとトリーシャに謎の果実を渡すアイン。
「あ、これ美味しい!」
「何という果物かしら?」
「エルシファの実。エンフィールドの場合、気候的に育たないからね。」
 などと、呑気な会話を繰り広げていると、唐突に十六夜が切り出す。
「それより、武器がない。このままじゃまずいぞ。」
 十六夜の刀は既に使いものにならないし、アルベルトの槍は折れている。もしつないだとしても、穂先が行かれているため使いものにならない。
「分かった。とりあえずアルベルトはこれを使えばいい。」
 そう言って、先ほどのポールアックスを差し出す。
「俺は、あまりポールアックスは使ったことがないんだが。」
「大丈夫、ハルバートなら専門だろ。」
 そう言って、何かの操作をすると、あっさりポールアックスがハルバートに変化する。
「器用な武器だな。」
「ディヴァイン・ウェポンの一種らしいからね。大体ポールアームなら、何にでも化けるよ。」
 目の前の非常識な光景に絶句している十六夜を無視して続けるアルベルトとアイン。
「で、十六夜のほうにはっと。」
 そう言って、背負っていた袋をあさり、一本の刀を取り出す。問題は、どう見ても長さ的に袋の中には収まらないものだということだ。
「これなんかどうだ?ディヴァイン・ウェポンだから壊れない。」
 立て続けに起こる非常識な事態に硬直している十六夜に話しかけるアイン。
「ねぇ、ディヴァイン・ウェポンって何?」
 トリーシャが聞く。それに答えたのはイヴだった。
「神の武器って言う意味よ。でも、そんなもの、どこで手に入れたの?」
「後で話すよ。」
 そう言って、さらに護符を4枚取り出して全員に配る。
「後この玄武護符をつけておけば、さっきくらいの相手の攻撃なら無効かできるから。」
 そう言って、小屋のほうに移動を始める。
「何にせよ、この小屋は調べないといけないんだろ。じゃあ、さっさと済ましてしまおう。」
 結局十六夜は、その言葉に従うことにしたのだった。

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