中央改札 悠久鉄道 交響曲

「青年、帰還する 中編」 埴輪
「しかし、見た目以上に大規模だな。まあ、500以上のモンスターを収容できるんだから、当然か。」
 アインがそうつぶやく。
「分かるのか?」
「ああ。地下に、かなり大きな空間がある。だいたい、コロシアム三つ分くらいかな。」
 その答えを聞いて、思わず考え込む十六夜。どうやら、裏で動いている組織は、かなり大規模なもののようだ。
「後、人の気配がある。一人分。力量的にはリカルドにやや劣る。」
 あっさりという。だが、それを聞いて思わず蒼くなるアルベルト。
「隊長とどっこいだって!?」
「ああ。どんな奴かまでは分からないけどね。何なら調べようか?って、必要なさそうだな。」
 そうつぶやくと、あっさりと暖炉の近くにあった隠し階段を引きずり出す。
「それで、あんなにキメラなんぞ作って、何をしたかったんだい?」
 階段を上がってきた相手に対して、そう問いかける。
「答える必要があるのか?」
 黒衣の男がそう返す。
「貴様!ランディ!」
 十六夜がいきり立つが、無視して話を進めるアイン。
「まあ、別に、答えて貰う必要はないんだけどね。ただ、一つ言いたいのはだ。」
 そう言って、一息つくと、いきなり妙なことを言い出す。
「作るんだったら、もっとましな作り方をしてくれよ。だいたい、基礎の原則を無視して作ってるからあんなに恨まれるんだよ。」
 その言葉を聞いて、顔色が変わるランディ。
「小僧、貴様どこまで知っている!?」
「うーん、そっちの事情は知らないけどね。キメラとホムンクルス位なら作れる程度の知識はあるよ。」
 その一言に対して、ランディよりも、むしろイヴとトリーシャが驚きの声を上げる。
「ま、立ち話も何だ。お茶ぐらいは出すから、テーブルで話そう。」
 はっきりきっぱり今の状況を無視した発言をするアイン。
「小僧・・・・。貴様、何者だ!?」
「うーん、難しい質問だ。そんな哲学的な質問には答えられない。」
 どこまで本気で言っているのか、しばし悩む十六夜。
「貴様、からかってるのか!?」
「まさか。自分が何者かなんて、一生が終わってみないと分からないじゃないか。」
 どうやら、100%本気らしいと悟る十六夜。その様子を見て、トリーシャが忠告する。
「アインさんのすることでいちいち悩んでたらきりがないよ。」
 思わず納得する十六夜。その間にも、ランディとアインのやりとりは続くが、聞いてる方が頭が痛くなってくるような内容になってきているので、省略する。
「相変わらずというか、磨きが掛かったというか。」
 イブがあきれたようにつぶやく。と、その時、アインの後ろに、見たこともないような魔物が現れる。誰かが警告の声を上げるより早く、魔物が飛びかかる。
「キシャァ!!」
 だが、アインは振り向きもせずに、冷静に裏拳をたたき込む。
「今、人が話をしてるんだから、じゃましないで欲しいな。」
 プロテクターのような胴体部分が割れて中の肉がのぞいている。手首のスナップだけでたたき込んだものにしては、桁違いと言っても良いような威力である。
「これあげるから、おとなしくしててくれ。」
 そう言って、鞄の中からさっきの果物を取りだして渡す。妙におとなしくなる魔物。その様子を驚いたような顔で見るランディ。
「小僧、本当に何者だ?」
「だから、答えようがないんだってば。」
 そこで、ランディもはたと気が付く。聞き方を変えることにする。
「お前の今の立場は何だ?」
「うーん、さっきまでは旅人だった。多分明日からは何でも屋の店員に戻ると思う。」
 その言葉で、ようやく相手が分かったらしい。
「貴様、アイン・クリシードか?」
「そうだよ。そう言えば名乗ってなかったな。」
 そう言って、立ち上がる。
「とりあえず、地下を調べさせて貰うよ。」
 その言葉を聞いたランディが、持っていたクロスボウでアインを撃つ。それだけなら、何の問題もなかったのだ。問題は、それに驚いた魔物が、近くの人間に飛びかかったのだ。
「トリーシャ!」
 十六夜が、トリーシャと魔物の間に割ってはいる。魔物が十六夜の脇腹をえぐるのと、十六夜がアインの攻撃した場所に刀を突き刺すのとは、ほぼ同時だった。
「十六夜さん!!」
 それを見て、舌打ちするランディ。どうやら、この結果は彼にとっても不本意だったらしい。
「どうやら、徹底的にじゃまをしたいみたいだな。なら、これ以上じゃまされると面倒だから、どこかに行ってもらうとしよう。」
 そう言って、謎の術を発動させる。姿が消えるランディ。
「どこにとばしたの?」
 淡々とイヴが聞いてくる。
「一番雑魚が密集してるとこ。」
 要するに、モンスター退治を強制的に手伝わせたらしい。彼らしいと言えば彼らしい。
「で、十六夜の傷は?」
 護符のおかげで、どうやら大したことはないようだ。だが、派手に出血したため、見た目にひどい怪我をしているように見える。
「ま、止血程度はしておいた方がいいか。」
 そう言って、簡単に止血する。
「きっちりした手当は、とりあえずおいとこう。とっとと地下を調べてしまった方がいい。」
 ランディが戻ってくる前に、である。


「だいたい、予想通りだったな。規模は大きいけど、設備のレベルは大したこと無い。」
「あら、でもほとんど最新の機器よ。」
 アインの台詞にイヴがつっこみを入れる。だが、アインも心得たもので、
「要するに、生命関係の研究施設としては、ってこと。」
 そう言って、小屋から出ていくアイン。
「十六夜の怪我のこともある。残りが50をきってることだし、一気にけりを付けて来る。」
 そう台詞を言いながら、飛び上がるアイン。
「いくら何でも、無茶じゃないのか?」
「アインさんのことだもの。ああ言った以上、多分無茶でも何でもないんじゃないかなぁ。」
「でも、あいつは平気で無茶する奴だぞ。」
 トリーシャの台詞につっこみを入れるアルベルト。その瞬間、すごい振動が来る。
「終わったよ。」
「また派手にやったね。」
 けろっとして戻ってきたアインに対して、あきれたように言うトリーシャ。出て行ってから5分と経ってない。
「簡単だったよ。一カ所に集めて、巨神の鉄槌でまとめて潰すだけだったから。」
 あっさりと、えぐいことを言う。どうやって集めたか聞いたところで真似できまい。
「巨神の鉄槌?」
「まあ、アブソリュート・ゼロの強力版みたいなもの。さ、仕事が終わったことだし、エンフィールドに帰ろう。」
 そう言って、彼らは帰路に就いたのだった。

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