中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「Change!!」 埴輪
「あら、何で自警団事務所にアイン君がいるの?」
「ヴァネッサ、もしかして知らないのか?」
 驚いたように言うヴァネッサに対し、げっそりした顔でアインが答える。
「今おまえの目の前にいる人間はな、外見はアインだけど中身は十六夜なんだよ。」
 こちらも疲れた顔でヘキサが言う。
「いったい何があったの?」
「ちょっとばかしマジックアイテム関連でな。」
「って言うとマリアちゃん?」
「いや、トリーシャのほうだ。で、ヴァネッサこそ何のようだ?」
「ああ、公安維持局の代表として、こっちに抗議することがあったから、そのついでによってみたんだけど・・・。」
 困惑した顔で言うヴァネッサに、片手を軽く降るアイン、いや十六夜。
「なら、妙なことに巻き込まれる前に出てったほうがいいぞ。何せ、俺この体使いこなせない。」
 どうもただ事ではないらしいが、珍しく嫌な予感がしたヴァネッサはそのまま彼の前から立ち去る。
「で、今日はどうすんだよ、十六夜。」
「どうするって言われてもおまえ、今のままじゃ危なっかしくて外も歩けないぞ。」
「結局は解呪待ちか。」
 げっそりした顔で言うヘキサ。十六夜も、頷くしかなかった。


 事の起こりは前日、トリーシャがマジックアイテムの実習で、妙な棒を作ったことに始まる。当然の如く、効果を試すために十六夜同伴でジョートショップに行ったトリーシャは、これまた当然の如くアインで試したのだった。
「アインがちょっと待てって言ってたのにのに、どうして試すかなぁ、この娘は・・・。」
 学校から帰ってきたトリーシャは、顔を出した瞬間にそう言われる。
「あはは・・・。まだ怒ってるの、十六夜さん?」
「ああ。トリーシャのせいで、缶詰を3個も無駄にした。」
「へ?」
 訳が分からないトリーシャは、疑問符を顔中に浮かべてしまう。そのまま淡々と十六夜は状況を説明する。
「朝起きて飯を食おうと缶詰を手に取ったら・・・。」
「十六夜さん・・・いつもそんなの食べてたの?」
「俺は貧乏だからな。」
 すねたように答える十六夜。アインの顔でそんな風に言うものだから、思わず笑ってしまいそうになる。
「何がおかしいんだよ、トリーシャ。」
「だっ、だって十六夜さん、アインさんはそんな顔しないもん!!」
 結局こらえきれずに笑ってしまうトリーシャ。アインのすねた顔が珍しいわけではないが、十六夜のようなすねかたはしない。そのへんの違和感が、思わず笑いを誘う。
「で、缶詰を手に取ったらどうなったの?」
 笑いすぎて目元に浮かんだ涙を拭いながら聞くトリーシャ。
「缶詰が潰れた。」
「へ?」
「普通につかんだつもりなのに、中身ごと缶詰が潰れた。」
「そ、それは・・・。」
「その後力加減が分かるまでに2個潰れた。」
 淡々と語る十六夜に、どう反応していいか分からないトリーシャ。
「しかもよ、トリーシャ。その後こいつ、掃除しようとして床、ぶち抜きかけたんだぜ。」
 ますます何も言えなくなるトリーシャ。そこにとどめとばかりに言う十六夜。
「その上、ちょっと油断したら寮にいる人間全員の声を拾っちまうし、扉は外れそうになるし、ちょっと走っただけで壁にぶつかりそうになるしもう散々だ。」
「トリーシャ、責任とって向こう一週間、飯作れ・・・。」
「アインさんが何も言わなかったから、十六夜さんのほうも大丈夫だと思ってた・・・・。」
 思わず絶句しながら言うトリーシャに、十六夜が答える。
「そりゃあっちはそうだろうさ。ここまで癖の強くない体だ。まず問題は起こらない。」
 恨めしそうな十六夜を見ていると、とても何も言えそうにないトリーシャ。
「全く、同じ年なのに、何でここまで体に性能差があるんだ?」
「ぼやくな十六夜。それとも、そんな無駄に性能の高い体が欲しいのか?」
「まさか・・・。」
 何やら、悟りきった様子で会話を続ける二人。そこにクレアが入ってくる。
「十六夜様、お体のほう、大丈夫ですか?」
「それはアインのほうに聞いてくれ。俺の方は日常生活に支障がある以外、何も問題ない。」
 はっきり言って、それは大問題である。どういうことか分からなかったクレアは、助けを求めるようにトリーシャに顔を向ける。トリーシャが説明していると、そこへリカルドが入ってくる。
「慣れん体で申し訳ないが、崖崩れが起こった!緊急出動だ!!」
「分かりました!」
 そう言って、とりあえず手元に置いていたディヴァイン・ブレード(アインのお土産)をもって立ち上がる。
「トリーシャ、ついてこい。」
「OK。」
 そう言って出て行く二人を、呆然として見つめるクレアだった。


「来たか!」
 先に到着していたアルベルトが、待ちかねたというように十六夜に声をかける。
「状況は!?」
「何人かが生き埋めにされてる!」
 相当まずい状況のようだ。向こうでは、ヴァネッサと公安維持局の一人とが口論している。そこへ、十六夜の姿をしたアインが来る。
「救助の進行具合は!?」
「埋まってる場所がわからんからどうしようもない!!今、必死になって岩をどけているが・・・。」
「それじゃ、間に合わないな・・・。」
 そう言って、少し考えるアイン。すぐに十六夜のほうを向いてこういう。
「十六夜、耳を澄ましてみてくれ。大体の位置が分かるはずだ。」
 そう言われて、怪訝な顔をしながら言われたとおり耳を澄ます十六夜。
(だから、そんな方法だったら要救助者を助けられないでしょ!!)
(あんな所に埋まってるんだ!!どっちみち助からないわよ!!)
(くそ!!重いな!!これじゃあ間に合わない!!)
 等々、いろいろな声を拾う。思わず驚いて音をシャットダウンしかけるが、すぐに思いとどまる。そんなことをしている暇はないのだ。
「聞こえた!!」
「どこだ!?」
「くそ!!よりによって、一番やっかいな位置に!!」
 以上に岩や瓦礫が積み重なっている位置である。生きているのは奇跡に近い。
「アイン!どうにかならないのか!!」
「駄目だ。十六夜の体じゃ、奥義も秘術もほとんど使えない。」
 首を左右に振るアイン。
「多少体が壊れても構わないのなら別だけど、そうでないんだったら破砕点をつくか透しをするくらいしかできない。」
「透し?」
「そう言う技術があるんだ。本来は鎧の内側だけに衝撃をたたき込む技なんだけど、応用すれば岩を内側から砕ける。」
 問題は、数である。一個一個砕いていては時間が足りない。かといって、まとめて瓦礫を吹き飛ばして、なおかつ要救助者を無事に助けるような術は誰も使えない。
「十六夜、アルベルト。」
「なんだ?」
 真剣な顔をしてアインに向き直る二人。同じくらい真剣な顔で聞くアイン。
「爆発呼吸を伴うたぐいの技、使えるか?」
「ああ。俺はちゃんと使える。」
「俺も、なんとかな。」
 それを聞いて、今度は十六夜に問いをぶつける。
「十六夜、三日ぐらい、腕が使えなくなってもいいか?」
 数秒ほど考えて頷く十六夜。
「そうか、済まない。それじゃ、瓦礫を砕いて跳ね上げるから、合図したらファイナルストライク系の技で吹き飛ばしてくれ。」
 どうやら、奥義を使うことにしたらしい。どっしりと構えて長く深く息を吸い、吐き出す。
「龍撃破!!」
 全身に行き渡った闘気を、両手に集め一気に放つ。その力に耐えきれず、両腕の血管がいくつか切れて、血があふれ出す。
「今だ!!」
 ベクトルを考えて打ち出された闘気の弾丸は、見事に瓦礫のみを粉々に砕き、跳ね上げる。
『ジ・エンド・オブ・スレッド!!』
 アルベルトと十六夜が、大きく息を吸い込んで一気に技を解き放つ。彼らの手にある神の武器が、その力を増幅し、拡散させる。凄まじい衝撃波と共に砕けた瓦礫を塵にする。
「おい・・・。」
「ちょっと待て・・・・。」
 あまりの破壊力に呆然としている二人を無視し、両腕に包帯を器用に巻くアイン。
「今の破壊力はいったい何なんだ!?」
「後で話す。今はまず救助活動だ。」
 そう言って、生き埋めになった人たちを引きずり出すアイン。慌てて手伝う二人。


「で、結局どういうことだったんだ?」
「二人にあげた武器、だてに神の武器を名乗ってるわけじゃないってこと。」
 確かにアルベルトが貰った棒は器用に姿をころころ変えていたが、十六夜のほうはただひたすら頑丈で、切れ味のいい刀程度の認識しかなかった。
「あの能力のおかげで、一般人でも霊体を斬ることができる。」
「しかし、それにしても凄まじすぎるぞ・・・。」
「十六夜のほうは、僕の体だってのもあるからね。後、気が付いてないから教えておくけど、あの刀、太刀から脇差し、小太刀にも化けるし、二つに分けることもできる。当然、二つに分けた場合は能力は半分になるけどね。」
 全く物騒な武器である。
「そんなもん、俺達に渡していいのか?」
「もってても使わないからね。何せ、手加減がやりにくい。」
 分かるような分からないような返事である。
「さて、とりあえず、明日までに治せるだけ腕を治しておくか。」
 そう言って、ジョートショップのほうに帰っていくアイン。
「あ、怪我のほう、ただ血管と皮膚の一部が切れただけだから。絆創膏でも貼っておけばすぐ治ると思うけど。ただ、場所が多いから・・・。」
 要するに、怪我のひどさではなく、範囲の問題で三日は腕が使えないわけである。
 次の日、二人は元の体に戻ったが、十六夜のほうは細かい痛みに悩まされてその日は仕事にならなかったという。

中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲