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「青年のお仕事 導入編」 埴輪
「エンフィールドへ行こうと思うの。」
 行きつけの店で、十数人のクラスメイトと食事をしていたとき、フィリアが突如言い出した。
「エンフィールド?」
「例の、シーラの彼?」
 クラスメイト達が口々に言う。ちなみにシーラはここにはいない。自室で、缶詰になって課題を詰めている。
「まあ、それも在るんだけど、シーラの育った環境って言うのも見てみたいと思ってね。」
 そう言って微笑むフィリア。だが、内心では全く別のことを考えていた。
(あのオルゴール、どう考えても今の技術で出来る代物じゃなかった。)
 シーラを落とした男だからではない。別の方向でその青年に興味がある。
「あ、そうだフィリア。これでその人写してきて。」
「フォート?でもこれ、3日しか持たないんじゃなかったかしら。」
「改良版だって。ただ、やっぱりせいぜい3年くらいしか持たないらしいけど。」
 そんなものをなぜ彼女が持っていたのかはともかく、撮ってくること自体は同意する。
「というわけで、一月半程度は留守にするから。」


 十数日後。フィリアはエンフィールドに到着していた。
「ここがエンフィールドか。」
 居心地の良さそうな街である。田舎というイメージがあったが、少なくとも街と呼ばれる程度の規模はある。それなりに文化的な場所である。
「彼女、一人?この街は初めて?」
 さて、今日は宿でも探して、と考えていると、一人の青年が声を掛けてきた。どうやらナンパらしい。まあ、フィリアは十分美女のカテゴリーに入る女性なので、仕方がないといえば仕方がないのだが。
「まあね。これから宿を探そうかと思ってるの。」
「今から?なら俺がいいところへ案内するよ。」
 少し考え込む。目の前の青年はハンサムだ。かつ人は悪くなさそうだ。この軽薄そうな空気がなければ信用するには十分なのだが。
「変なところじゃ、ないでしょうね。」
「初対面の相手を、そんなところに連れ込んだりはしないって。」
「じゃあ、お言葉に甘えることにするわ。」


「いらっしゃい!って何だアレフか。」
「いつも思うんだがパティ、一応俺は客だぞ。その扱い、何とかならないのかよ。」
 その台詞を無視して、パティはフィリアに声を掛ける。
「お客さん、この街の人じゃない見たいね。食事だけ?それとも部屋も?」
「部屋もお願いするわ。一週間ほど泊まるから。」
 そう言って、宿帳にサインをするフィリア。
「そう言えば、フィリアさんてどこから来たの?」
「ローレンシュタインよ。ついでに言うと、この街には人捜しに来たの。」
「ローレンシュタイン?じゃあ、シーラのこと知ってる?」
 手続きをしながらパティとフィリア、それからアレフが話を続ける。
「もちろん。あそこで彼女を知らない人なんていないわ。最も、私はルームメイトだからよく知ってるけどね。」
「へぇ、元気にしてるかい?」
「ええ。もうじき帰れるって、張り切ってるわ。」
 うそっ、という顔を思わずしてしまう二人。何せ、留学は最低四年はかかると聞いていたからだ。
「まあ、向こうでも前代未聞のことだけどね。」
「で、探してる人って言うのは?」
 気になったアレフがたずねる。
「名前は知らないけど、シーラの想い人をね。向こうでも話題になってて。」
 思わず顔を見合わせてしまうアレフとパティ。
「そいつなら、もうじきここに来るよ。」
 突如話に乱入してきた女性が、フィリアにそう声を掛ける。
「あ、リサ、いらっしゃい。」
「で、わざわざ会いに来るなんて、シーラはあいつのこと、なんて言ってたんだ?」
 アレフが、フィリアに質問する。だが、フィリアはあっさりと
「ただ、凄い人だとしか聞いてないわ。具体的にどう凄いかなんて全く知らないし。」
 と答えになっていない答えを返す。
「まあ、そうとしか言いようがないけどね。ただ、一応一とくけど、シーラの恋人じゃないから。」
 一応、リサが注釈を加える。
「へぇ、あんな美人に言い寄られてなびかないなんて、相当変わった男なんだ。それとも他に恋人がいるとか・・・。」
「どちらかって言ったら変わり者のほうかな。浮いた話だけはいっぱいあるんだが、一つとして本当だったためしがないからなぁ。」
 あきれたように言うアレフ。
「ちなみに今、シーラを含めて八人くらいで取り合いをしてるんだけど、これが見事に膠着状態なんだ。」
「周りがモーション掛けても、本人が鬼のように鈍いから全くけりが付かない。ちなみにここにいるパティは八人の一人ね。」
 リサとアレフが、彼を取り巻く環境をフィリアに説明していると、そこに、青い髪の青年が入ってきた。
「三人して、何の話だ?」
「あ、丁度良かった、フィリア。こいつはアイン。今話題のシーラの想い人。」
 フィリアの第一印象は、なんか頼りないであった。確かに美形である。容姿だけで言えば、街で十人とすれ違えば、九人は振り向く程度には整っている。だが、そののほほんとした雰囲気が全てをぶちこわしている。その上、何となく鈍そうと来ればシーラのような女性がなぜ惚れたのか不思議にすらなってくる。
「あれ、この人誰?アレフの台詞から考えて、フィリアって名前でシーラの関係者なんだろうけど。」
 その台詞を聞いて鈍そうと言う第一印象は撤回する。案外、抜け目がないのかもしれない。
「そうよ。私はフィリア。シーラのルームメイト。あなたに聞きたいことがあってここに来たの。」
「何?」
 フィリアの前の席に座って、あっさり聞き返すアイン。ちなみに左右にはリサとアレフがいる。
「あのオルゴール、あなたが作ったの?」
「うん。初めて作ったからかなり苦労したけどね。」
 あっさり言う。だが、オルゴールといっただけでちゃんと察しているのだから、嘘ではないだろう。
「でも、今の技術であんなもの、作れはしないはずよ。」
「そりゃ、こっちの技術で作った物じゃないからね。多分ばらしても、中身はブラックボックス化しててしばらくは解析できないと思うよ。」
 そう言って、いつの間にかパティが運んできた料理に手を付ける。アインが注文したのは、他の三人と同じ今日のディナーだが、内容は確実に一ランクは上だ。パティがこいつにモーションを掛けているという話は、どうやら本当らしい。


「彼、いったい何者なの?」
 アインが帰った後、少々ぐったりした様子で、アレフにたずねるフィリア。人と話してこれほど疲れたのは初めてだ。警戒しなければ、あっさり振り回されてしまう。
「さあ?」
 首を傾げるアレフ。一応知っていることを教える。
「俺が知ってるのは六人兄妹の長男だってことと、双子の妹がいるってこと、それから鬼のように強い両親がいることと、ベルファールでロイヤルナイトにされかけたらしいってことくらいだな。」
 それを聞いて、思わず固まるフィリア。
「ベルファールの、ロイヤルナイト?」
「ああ。あいつが十六くらいの時らしい。」
「そんなに強いの?」
「その当時は知らないが、今はガーゴイルクラスなら指一本でひねりつぶせるくらいには強い。」
 化け物である。
「とてもそうは見えないけど。」
「アインほど強そうに見えない人間も珍しいからね。」
 リサが言う。アレフと並べてどちらが強そう?と聞かれたら大概はアレフという答えが返って来るであろう。普段のアインにはそう言う雰囲気がある。
「とりあえず、あんたの今の印象はどうなんだい?」
「何とも言えないわね。馬鹿なのか切れるのか、鈍いのか鋭いのか、全く印象が定まらないわね。ただ、見た目通りの相手じゃないのは分かったけど。」
 そう言って、考え込む。
「まあ、一週間はこっちにいるんだろ?ならその間アインの仕事を見ていけばいい。」
「そうするわ。このまま帰っても、他のクラスメイトに報告のしようがないから。」
 そう言って、一週間、ジョートショップの仕事を見学することにしたフィリアだった。

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