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「青年のお仕事 本編その1」 埴輪
「おはよう。」
「あ、おはよう!朝御飯、ちょっと待ってね。」
 朝の挨拶を交わし、厨房の中へ消えるパティ。何かの準備をしていたようだが、聞くヒマもない。
「おまちどうさま。」
「ありがとう。で、考えてみたら、アイン君の仕事場って知らないんだけど。」
 とりあえず聞いてみる。と、すぐに答えが返ってくる。
「なら、それ食べたら一緒に行こうか。」
「こんな朝早くに?」
 何のようだろうといぶかしく思いながら、出された朝食を平らげる。


「おはようございます!」
「あら、パティちゃん。おはよう。」
「台所、借りますね。」
「ええ、どうぞ。」
 そのやりとりを眺めていると、眼鏡をかけた優しそうなその婦人がフィリアを見て声をかけてきた。
「あら、お客様かしら。」
「はい、フィリアともうします。今日から一週間ほど、アインさんのお仕事を見学しに来ました。」
「フィリアさんはどこからいらしたの?」
「ローレンシュタインからです。シーラから話を聞いてどんな人か興味がわいて。」
 そうにこやかに会話をする。それを聞いて優しくほほえんだアリサは、
「今、アイン君はここでお仕事をしているから、見てくるといいわ。」
 と、2階への階段を示す。軽くお辞儀をして、フィリアはその階段を上る。


「やあ、フィリア。おはよう。」
「おはよう。いつもこんな時間から仕事してるの?」
「まあ、今朝は早いほうだけどね。」
 そういいながら、木製の人形に紙ヤスリをかけている。感じからいって、マリオネットらしい。
「こんなのも作れるんだ。」
「まあね。最も、そんな出来のいいやつは無理だけど。」
 そういいながら、各パーツに色を塗り始めるアイン。見る見るうちに彩色が終わり、生き生きとした表情の少年の人形が完成する。なかなかの出来だ。と、そこへ下から声がかかる。
「ご飯できたわよ。」
「そうか、今日はパティが作りに来てくれたのか。」
 そういって、完成した人形を持って下に降りる。絵の具はもう乾いているようだ。絵の具で服が汚れていないのはさすがである。


「はい、アイン。あーんして。」
 普通の食事風景かと思いきや、いきなりパティが濃いことを始める。
「いいよ。自分で食べられるから。」
「あら、アイン君。そういうことで遠慮するのは良くないわ。」
 逃げようとするアインに対し、釘を差すアリサ。その顔は、自分で作った状況なのだから自分で何とかしろと書かれていた。当事者のアインより、彼女のほうがしっかり状況を把握しているようである。食卓でお茶を飲んでいるフィリア(さすがに朝から2食は入らない)も、唖然としている。
「でも、いつも悪いね。僕が早起きするときにばかり来てもらって。」
「いいのいいの、好きでやってることだし。さあ、たんと食べてね。」
 ここまで露骨な態度でも、アインは口説かれていることに気がついていないらしい。と、そこへ一人の金髪の少女が入ってくる。
「あぁ〜!パティずるい!!」
「何よマリア!!別にご飯作ってあげるくらいは抜け駆けじゃないはずよ!!」
「その後よ問題は!!」
 どうやら、ひっつき回って、「はい、あーんして」とやるのは立派な抜け駆け行為らしい。何となく彼女たちの関係と、だいたいのルールは把握できたフィリアだった。
「で、今日はこれからどうするの?」
 わいわいやり合っている二人を無視して、えらく幸せそうに朝食を食べていたアインは、その声で多少現実に戻ってアリサに答える。
「今日はまず、教会の屋根を修理して、それからトーヤの依頼で薬草を取りに行ってきます。あ、人形はこれですから、取りに来たら渡しておいてください。」
 そういって、さっき完成させた人形をアリサに渡す。そして、また食事に戻る。
「でも、薬草を取りに行くのは、フィリアさんにはちょっとしんどいんじゃないかしら。」
 食事が終わったあたりを見計らって、アリサがアインに尋ねる。
「別に、そんなに深いところには行きませんから。あそこはモンスターもほとんどでてこないし。」
 それを聞いて一安心するフィリア。彼女はシーラと違って、さほど強くはない。オーがのような中級モンスターがでてきた場合、どうしようもない。
「じゃあ、行って来ます。」
 そういって、店の隅からいくつかの材料と道具を持ってきたアインが、仕事にでていく。それに気がついたパティとマリアが、喧嘩を一時中断して見送る。
「行ってらっしゃい。」
「気をつけてね☆」


「さてと、じゃあ始めるか。」
 神父と簡単な打ち合わせをした後、アインは外にでて魔法の流れ弾が当たった場所を見た。
「しかし、派手にやったもんだ。まあ、修理費は自警団持ちだっていうし、教会の財政には影響はでないか。」
「そうですねぇ〜。」
 後ろから、セリーヌが相槌を打つ。フィリアの見たところ、彼女は取り合いには参加していない口のようだ。
「あの〜、梯子は〜、いらないんですか〜?」
「倒れると危ないからいらない。」
 そういって、材料と大工道具を持ったまま、無造作に飛び上がる。5メートルはあったはずなのに、あっさりと屋根の上に着地する。
「ちょっと、今の何・・・?」
 思わず絶句しているフィリアとは対象に、セリーヌは至極のんきに
「あらぁ〜、すごいですねぇ〜。」
 と感心していたりする。
「これだったら、すぐ終わるから。」
 そういって、穴があいた屋根板をひっぺがす。そのまま、板を並べて釘で固定していく。2時間ほどで作業は終わり、そのまま道具類を持ってアインは降りてきた。
「どうやったの?」
「別に、ただ普通にジャンプしただけ。」
 化け物である。これが、2年前には「剣を持ってたら、おいかけっこができない」などとほざいていたのと同一人物なのだから、進歩したものである。
「・・・・そう。」
 もはや何を見ても驚くまい、そう堅く心に誓ったフィリアだった。


「で、どこにあるの?」
「すぐそこ。」
 そんな会話をしているうちに、原っぱにでる。
「さてと、結構いっぱいあるぞ。」
 そういって、次々と、フィリアにはただの雑草に見える草を採集していく。聞くとちゃんと名前と用途が帰ってくるあたり、大した知識の持ち主である。
「さて、こんなもんかな?」
 そういって、かごいっぱいにいろいろな種類の薬草を採ったアインは、帰路に就こうとする。
「待って!」
 思わず止めるフィリア。何かがいるのである。
「ああ、多分大丈夫。別にこっちに敵意は持っていない。刺激しない限りは問題は起こらない。」
 そういって、のんきに歩き出すアイン。思わずびくびくしながら後に従うフィリア。そのとき、がさっという音と共に、一匹のイノシシが彼らの後ろに現れる。
「きゃぁ!」
 思わず悲鳴を上げるフィリアだが、イノシシはそんな彼女を無視して、悠然と立ち去っていった。
「ほらね。」
 そういって苦笑するアインを、思わず恨めしそうに見てしまう。


「さて、今日の仕事はこれでおしまい。これからどうするかな?」
 そういって、ジョートショップに戻ってきたのは2時頃であった。どうやら、それほどたくさんの仕事はないようである。なら、あんなに早起きして仕事をする必要はないと思うのだが・・・。
「そういえば、エルが新しいチェスの駒を買ったから勝負しようっていってたっけ。」
「エルって?」
「友達のエルフ。」
 そういいながら、マーシャル武器店に行くアイン。そこには、暇そうにしているエルフの女性がいた。
「よう、エル。遊びに来たよ。」
「ああ、ちょうど良かった。退屈してたんだ。」
「そう言えば、最近はトリーシャも忙しいみたいだしね。」
 などと会話をしているうちに、チェスの用意が調う。横でフィリアが観戦しているのを見て、
「フィリアもやる?」
 とアインが聞いてくる。それを首を左右に振って断るフィリア。彼女はあまりチェスは強くない。ちなみに、フィリアの見立てでは彼女も取り合いをしている口、らしい。
 結局、その日の対局は1勝1分けで、アインがやや優位であった。

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