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「青年のお仕事 本編その2」 埴輪
「どう、アインの感想は?」
「よく、分からないわ。」
 パティの問いかけに、困惑顔で答えるフィリア。分かったことは、凄い人物だということと、結構もてるらしいこと、それから街の人間からえらく信頼されているらしいことぐらいである。問題は、凄いことをしようと、本人が全く凄く見えないことである。それが一番凄いかもしれない。
「なんか、私より2つ年上なだけっていうのが信じられないのよ。それくらいの年頃の人間に比べて、爺むさいというかなんというか・・・・。」
「確かに、アインには覇気に欠けるところがあるけどね。まあ、なれるしかないね。」
 困惑しているフィリアに対して、朝食を食べに来ていたリサがそう補足する。ちなみにパティは今日はアインの朝御飯を作りにいっていない。毎朝作りにいっているわけではないらしい。
「とりあえず、アインを怒らせないようにした方がいいぜ。寿命が縮むから。そう言えばフィリア、マジになったアインって、みたことないだろう。」
 アレフが忠告する。
「でも、彼、怒ったり本気になったりするの?」
 アレフの言葉を聞いたフィリアが、思わず疑問をぶつける。
「まあ、滅多なことではそうならないね。逆に、本気で怒ったり真剣になったりするようじゃ、本格的にやばいってことになるね。」
 リサの台詞を聞いて、思わず首を傾げるフィリアだった。


「アイン、勝負だ!!」
「はいはい・・・。」
 朝食が終わって、さあ今日はどうするかと考えたとき、アルベルトが乱入してきた。しかたがないので、めんどくさそうに応じるアイン。事実、めんどくさいのだが、とりあえず義理で付き合うことにする。
「ってアルベルト、なぜにディヴァイン・ハルバート(仮名)をもっている!!」
「てめぇが俺によこしたものだ。俺が使って何が悪い!!」
「いくら何でもハンデが大きすぎるぞ!!」
「問答無用!!」
 ごちゃごちゃ言っているアインを、アルベルトが引きずっていく。ある意味、エンフィールドでよく見られる光景である。何せ、休日ごとに行われていることなのだから。


「いったい何が始まるの?」
 ジョートショップで、アルベルトにコロシアムにつれていかれたと聞いたフィリアは、いつの間にか集まっている人を見て、いっしょにいた十六夜にたずねた。
「エンフィールド名物、自警団第一部隊の大男と、ジョートショップの化け物の手合わせだよ。」
 フィリアの問いかけに、あきれたように答える十六夜。どちらかというと、それは同僚に向けられているようだ。
「で、誰か、どっちが勝つかかけないか?」
 いきなり十六夜がいう。どうやら、彼にも相当アインが伝染ったようだ。ある意味、凄い適応力である。
「結果の見えている勝負で、誰が賭をするというんだ?」
 ルーが、あきれたように十六夜にいう。
「いや、今回はある、ディヴァイン・ハルバート(仮名)をもっているからな。もしかすると、もしかするかもしれない。」
「じゃあ、十六夜さんはどっちに賭ける気なの?」
 トリーシャの問いに、あっさりと答える十六夜。
「アイン。」
 どうやら、賭は成立しなかったようだ。それをみて、フィリアが目を丸くする。ぱっと見た目には、アインの方がアルベルトより弱そうに見える。体格差が24センチとあれば、それが普通であろう。だが、誰もアルベルトが勝つとは思っていないのだ。
「ちょっと待てい!その武器は卑怯だぞ!!」
「やかましい!!」
 闘技場では、情けない声をあげながら逃げ回るアインに、力技をたたき込み続けるアルベルトという構図が繰り広げられていた。見る者がみれば、レベルの高さに感嘆する試合だが、アインの情けない悲鳴のせいで、素人目にはただのじゃれあいにしか見えない。
「うーん、やっぱりアイン君の勝ちかしら?」
 ヴァネッサが、あっさりそう判定を下す。ほかのメンバーも、同意見のようである。ますますフィリアは困惑した。どうみても、アインの方が弱そうである。
「ジ・エンド・オブ・スレッド!」
 しびれを切らしたアルベルトが、大技をたたき込む。それを真っ正面から受け流すアイン。
「うわぁ!」
 本命の攻撃を受け流しながら、巻き起こった衝撃波を何とかたたき落とすアイン。だが、その余波は、思いっきりよく客席にまで届く。
「やはり、アインの力量は凄まじいな。」
 いつの間にか売り子から、飲み物を買っていたティグスが、そう評価する。ほかの人間は気が付いていなかったが、常にアインは攻撃と同時に、アルベルトが飛ばす衝撃波をたたき落としていたのだ。
「リドリア神剣、地の奥義、魔神戦皇剣!!」
 いきなり大技をアルベルトにたたき込むアイン。何とか受けるアルベルト。だが、凄まじい衝撃により、思いっきり地面に叩き付けられ、更に体が埋まるまでめり込まされる。
「勝負あったか。しかし、アインが大技を使うなんて、珍しいな。」
 フィールドでは、めり込んだ兄を心配したクレアが駆け寄り、兄に手を貸しながらアインにかみつく。
「アイン様、いくら何でも非道すぎます!貴方の腕ならもっと手加減は出来たはずです!」
 どうやら、彼女はフィリアとは違って、アインの実力が分かる程度の力量はあるようだ。つくづくアルベルトの妹である。
「無茶言わないでよ!ただでさえハンデが凄すぎるんだ。その上、ディヴァイン・ウェポンには武器とばしはできないし。」
「でも!」
「それに、あれ食らったら、僕でも結構痛いんだよ。怪我したら、後が困る。」
 まだ何か言おうとするクレアを、十六夜が止める。
「今回は、アルの自業自得だ。それより、お前があんな大技使うのって、珍しいよな。」
「大技って訳じゃないけどね。あれくらいの技を使わないと、上位のディヴァイン・ウェポンをもっている達人に勝つのはしんどいんだよ。」
「しかし、あれ食らって結構痛いで済むあたり、やっぱり化け物だな。」
「しみじみ言わない。」
 そろそろ頭が痛くなりそうなやりとりを遮って、フィリアが十六夜に聞く。
「あのアルベルトって人、弱いんじゃないの?」
「比べる基準にもよるが、一応一流以上には分類されるな。」
 めり込んでいる人間を語るには、少しばかり説得力に欠ける。
「とてもそうは見えないわね。」
「そりゃ、相手がこいつだからだよ。」
 そう言って、10センチは背が低い青髪の青年を小突く。
「どういう意味?」
「こいつの凄い特技としてだ、よほどの達人でない限り、どんな強い相手と戦っても、相手が並み以下に見える、っていうのがあるんだ。」
 何となく納得してしまう。どんなに強い人間であろうと、あんな風に情けない声をあげて戦っている相手に攻撃を防がれ続ければ、決して強くは見えない。
「これと戦って相応の実力に見えた人って、フォスター隊長ぐらいだな。」
「あのねぇ、戦いの場に立つって、結構怖いんだよ。情けない声の一つや二つ、上げてもいいじゃないか。」
「却下。」
 そろそろ頭が痛くなりそうである。
「で、今日はこれからどうするの?」
「どうしようか?」
「休日の予定も立ててないの?」
 思わずあきれかえるフィリア。結局、その日はフィリアに街を案内して終わるのだった。

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