中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「青年のお仕事 エピローグ」 埴輪
「それでは、お嬢様をお願いいたします。」
 ジュディがフィリアにそういって頭を下げる。フィリアも軽く微笑んで答える。
「O.K。そっちも、アイン君がこれ以上浮気しないよう、ちゃんと見張っておいてね。」
「承知しております。お嬢様の未来の旦那様ですから。」
 そんな(男にとっては)物騒な会話をしている時に、突然部屋がノックされる。開けると話題の主がいて、さすがの二人も多少慌てる。二人の妙な態度に怪訝な顔をするアイン。
「あの、アイン様、何のご用でしょうか?」
 慌てて取り繕うようにたずねるジュディ。とりあえずそれ以上突っ込まずに用件を言うアイン。
「下で送迎会の準備が出来たから、呼びに来たんだけど。」
「分かったわ。それじゃあ、いこう、ジュディ。」
 そういって、二人仲良くそそくさと降りていく。
「うーん、二人してどうしたんだ?」
 さすがに、これだけの手がかりで二人の会話内容を完全に予測できるはずもない。分かるやつは、よっぽど後ろ暗い生活を送ってきたに違いない。
「まあ、いいや。僕も行くか。」


「そうだ、フィリアは楽器、何が専門?」
「フルートよ。シーラのピアノほどは凄くないけど。」
 パティの質問に、正直に答える。当然の如く聞きたいという声があがる。
「うーん、ほかに誰か楽器出来る人はいないのかしら?」
「確か、アインが出来たと思うけど。」
「おーい、アイン。楽器は何が演奏できる?」
 その台詞を聞いて、何かを描いていたアインが顔を上げる。
「へ、楽器?一応ギターとオカリナがある程度、その他の笛系とリュート、ピアノが少々って所かな?さすがにその道で食っていけるほどの腕はないよ。」
「本気でお前、いろんな事に手を出してるよな。」
 アインの答えを聞いて、あきれたように言うアレフ。
「まあ、色々あったから。」
 そんな話をしているうちに、どこからかギターとオカリナが持ち込まれる。
「いったい、どこから持ってきたんだ?」
「ギターは俺が持って来てたんだ。オカリナはなぜかマーシャルが持ってきた。」
 なぜにマーシャル?という疑問には、結局だれも答えることが出来なかった。
「さてと、折角だから、合奏と行くか。」
 やけに乗り気なアレフ。諦めたようにため息をつくアイン。仕方なしにオカリナを手に取る。
「下手でも文句を言うなよ。」
「いわねぇよ、べつに。」
 そして、一つの旋律が流れ出す。シーラがジョートショップで働いていた頃、作曲した曲である。確か、誰かが歌詞をのせていたはずだ。三つの楽器が、比較的物静かなその曲を優しく奏で出す。しばらくの間、さくら亭は、月の光を思わせるその音楽だけに満たされる。
「素敵・・・。」
 演奏が終わった後、ため息をつきながらそう呟くシェリル。不思議なもので、何となく創作意欲がわいてくる。
「何が下手でも文句を言うな、よ。十分、その道で食べていけるじゃないの。」
 楽器は違えど、一流は一流を知るらしい。多少劣るといえど、アレフもすでに素人とは言えない腕を持っていたりする。
「無理すれば、ね。でも、本気で音楽で食べて行くんだったら、作曲や編曲は出来ないと困る。だけど僕には、あんまりそのへんの才能はないみたいだ。」
 まあ、考えてみれば、何でも屋の店員である以上、この程度は当たり前なのかもしれない。
「それはそうと、さっきは何を描いてたの?」
「見る?」
 そういって、先ほど何かを描き込んでいた紙を見せる。
「え、これ私?」
 そう、2枚あった紙のうち一枚は、等身大のフィリアが描かれていた。かなり綺麗な絵である。もう一枚には、コミカルなタッチで描かれたSDのフィリアがいた。何となくほのぼのとしてしまう絵柄である。
「うん。折角の機会だから、何か描こうと思ってね。」
 余りよく知らない人間にとっては、この技術は意外らしい。思わずぽかんとしてしまうフィリア。
「とりあえず、お土産に持って帰って。それと、シーラにもお土産。」
 そういって、いくつかの物を渡す。内容は省略するが、結構いろいろな物があった。
「分かった、必ず渡すわ。」
 それからまもなく、次の日は早いからと言う理由で、送迎会はお開きになった。


「ほんとに送らなくていいの?」
「ええ。ローレンシュタインまでのんびり帰るわ。」
 乗り合い馬車の駅で、フィリアは見送りのアインと話をしていた。朝早いせいか、ほかには誰もいない。
「じゃあ、また機会があったら遊びに来るから。」
 そういって、乗り合い馬車に乗り込む。そして、出発する前にアインに対して一言こういう。
「シーラを泣かせたりしたら、ただじゃ済まさないからね。」
 思わず、えっと言う顔をしている間に馬車は行ってしまった。
「どういう意味だろう?」
 結局、朴念仁は朴念仁であった。


 十数日後。
「ねえ、フィリア、どんな人だった?」
「あ、ちゃんとフォート、撮ってきてくれたんだ。」
「見せて見せて。」
 思い思いのことを言うクラスメイト達に、どう答えていいか分からないフィリア。何せ、あればかりは実物を見ないと表現のしようがない。
「とりあえず、本当に凄い人だ、としか言えないわね。」
 当然、どう凄いの?だの、本当に?だのといった質問が飛ぶが、やはり答えようはなかった。仕方なしにこう答える。
「まあ、シーラが本気で好きになっちゃう訳が分かるくらい、凄い人だったわね。」
 後は実物を見るしかない、といって、シーラへのお土産を持って、フィリアは自室に戻ることにした。
 その後、シーラは前にもまして気合いを入れ、史上初の留学期間半減を実現させたが、それは別の話である。

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