中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「CHANGE!!Part2 前編」 埴輪
 騒ぎばかりが起こる町、エンフィールド。その騒ぎもまた、日常のひとこまであった。
「ねぇ、アイン!この薬飲んでよ☆」
「いやだ。」
「ぶ〜!どうしてよ!!」
「ろくな目にあわないから。」
 などと、脳みそが沸きそうな会話をしている二人は、言わずと知れた、エンフィールドのトラブルメーカーコンビ、アインとマリアである。最も、コンビと言うよりは、発生源とブースターと言ったほうがいいだろうか。アインは大抵、トラブルを起こす側ではなく、拡大する側である。
「どう言う意味よ!!」
「そのまんまの意味。女の子にされたり、女難にあったりしてれば、十分ろくな目にあっていないっていっていいと思うけど?」
 正論である。他にも、小人にされたり、蛙になったまま1週間すごしたりと言う者もいる。アインの反応を誰も責める事はできないだろう。
「そもそも、僕は普通の魔法薬とは相性が悪いんだ。まず間違いなく効果が出ないか普通の作用が起こらないかのどちらかだ。」
「じゃあ、いいじゃないの☆」
「あっそう。また女の子になったり、巨大化したり、目からビームが出っ放しになってもいいんだ。」
「うっ・・・。」
 記憶が戻ってからこっち、アインに対しては極度に魔法の効果が出にくくなっている。どうも、記憶とともに封じられていた種族特性とでも言うべきものが出たらしく、魔法関係の実験台としては、はなはだ不適格な状態になっている。しかも、マリアが作る魔法薬は、大抵がとんでもない威力と効果を持った『普通の』魔法薬である。彼の特性とあいまって、とんでもないことが起こることもよくある。
「いいもん!だったらマリアが飲むから!!」
 このとき、アインがあきらめて薬を飲んでいたら、この後のトラブルは確実に避けることができた。だが、少々投げやりになっていたアインは、たまにはいい薬だと放っておいたのだ。


 薬の効果は、劇的だった。
「ア、アイン・・・・。体が・・・おかしいの・・・・。」
 苦しそうにあえぎながら、マリアが体の不調を訴える。さすがに無視できないと思ったのか、アインが様子を見る。
「マリア・・・。いったい何を作ったんだ・・・?」
 マリアの体を見たアインが、さすがに引きつりながら質問する。
「アイン・・・。なんだか服がきついんだけど・・・。特に胸とお尻のあたりが・・・。」
「そりゃそうだろう・・・。」
「ど、どうして・・・・?」
 苦しそうにしているマリアに、どう答えていいか迷うアイン。オーラを見る限りでは薬の効果はもう消えている。持続時間は一瞬だったようだ。とりあえず、この後の結果の予想がついたアインは、先手を打つことにした。
「アイン・・・。タオルなんか持ってきて、どうしたの・・・・?」
「いいから、これに包まっておくように。」
 そういって、有無を言わさずマリアをタオルでくるむアイン。数秒後、タオルの下から、不吉な音が聞えた。
 びりっ。びりびりびりっ。
「何か破れたみたいだけど・・・。」
「やっぱり・・・。」
「ねぇ、アイン!マリアどうなっちゃったの!?」
「そうだな・・・。百聞は、一見にしかず・・・だな。」
 そう言って、すぐに全身を見ることができるくらい、大きな鏡を持ってくる。
「はい、これの前に立って。」
「え・・・?」
 立ちあがったマリアは、いつもと視点の高さが違うことに気がつく。鏡の前に立って、思わず絶句する。鏡には、17歳前後の金髪のややあどけなさの残る美女が映っていたのだ。
「この人・・・誰・・・?」
「マリア。」
 とっさに理解できなかったマリアに、きっぱりと答えを返すアイン。
「どう言うこと!?」
「多分、成長誘発剤を飲んだんだろう。」
「なにそれ!?」
 そのまんまである。要するに、そうと知らずに、体の成長を急激に促進させる薬を作り、それを飲んでしまったのだ。結局、アインに対してはどの道効果が出なかったことになる。
「じゃあ、さっきの音は・・・。」
「多分、マリアの服が破れた音だと思う。」
 さすがに、体格的には5歳くらい一気に成長したのだ。服が破れても不思議はない。タオルの下を恐る恐る覗くと、とても男の人には見せられないような惨状になっていた。
「とりあえず、僕の服を貸すから、着替えてきなよ。」
「うん。」
 どうやら、相当混乱していたのだろう。そういったマリアは、その場で着替え出す。慌ててアインが止めるが、マリアが状況を把握したときには既に遅かった。マリアは、たっぷりと悲惨な格好を見せ付けてしまったのだ。
 目の前にいた男性が、理性的で女性関係に対しては甲斐性なしでかつ、おくてで鈍いことに、マリアは感謝しなければならなかったかもしれない。


「アイン!!金髪のすごい美女を連れて歩いていたって言うのは、本当か!?」
「しかも服をプレゼントしてたって言うじゃないか!」
 珍しく、血相を変えたティグスと、全身で驚愕を示すトーヤが、さくら亭の前に立っているアインに詰め寄った。
「・・・そんなに、噂になってるの?」
「ああ。」
 次の日、噂は予想以上に広まっていた。大体、あまり噂とは縁がないティグスやゴシップには興味を示さないトーヤにまで伝わっているのだからすさまじい。
「そうか・・・。でもなんでパティに殴られなきゃいけないんだ?」
「逆に俺には、何でお前がそのことを理解できないのか聞きたいんだが・・・。」
「まぁいい。詳しい話をしたいから、なんとかパティをなだめてくれないか?僕の手には負えない・・・。」
「まったく、本気で色事に向かない奴だな。」
 そういいながら、死ぬ覚悟を決めて中に入る二人だった。


「そう言うことか・・・。」
「アインのような朴念仁が、そんなに女に対して積極的に動いたことが信じられなかったが、案の定だったな。」
 あちらこちらに傷を作ったトーヤとティグスが、脱力したように言う。まったく色気のない話だ。
「それならそうと、早く言いなさいよ・・・。」
「聞こうともしなかったくせに。」
 つかれきった表情のパティ。彼女の怒りの深さは、あれにあれた室内が物語っている。トーヤが年の功でなだめたが、なだめ終わった頃には全身で脱力していた。
「なんにせよ、あまりいい事態じゃないんだよ。もともと、あの薬はキメラの実験なんかに使うための、外道の薬だ。それに、マリアの体がなかなか成長しないのは、あの成長スピードが一番自然だからだし。」
 実際、マリアの体は、早熟な子供と大して変わらない上に、もう成長もほとんど止まる時期なのに、まだ大き目の変化を起こしている。
「どう言うことだ?」
 その場の人間を代表して、トーヤが聞く。そこでアインが、魔力と成長・老化のスピード、それに対する精神の影響、その他寿命などに関する関連性を簡単に説明する。
「要するに、今のマリアは、生き物として不自然なわけだ。」
 そう説明を終えて、一息つきながらお茶をすするアイン。
「で、成長誘発剤は、肉体の成長が終わったものには効果が現れない。肉体が成長できるところまで大きくするものだから。」
「それじゃあ、マリアが普通に17だった場合、ほとんど効果は出なかったはずなんだ。」
「そう言うこと。」
 真剣な顔で聞いてくるリサに、困った顔で答えを返すアイン。
「それはそうと、どうして服なんかプレゼントしたんだ?」
「無理やり買わされたんだ。アインが飲んでたら、こんなことにはならなかった、とか、あの服お気に入りだったんだから弁償して、とか言われて。」
 心底困惑してアインが言う。
「とことん、間抜けな話だな。」
「放っといてくれ」
「この分だったら、責任とって、とか言われたりして・・・。」
「ショート財閥会長、アイン・クリシードを見る日も近いかもな。」
『冗談じゃない!!』
 なぜか、アインとパティ、シーラの声が重なる。最も語尾は微妙に違うが。
「それはおいといて、薬の効果を消す方法はないのか?」
 トーヤがまじめな顔をして聞いてくる。さすがに、事態が意外と深刻なことに気がついているようだ。
「あれは、持続一瞬、効果永続の魔法薬だから、普通の方法じゃもとには戻らない。」
 トーヤ以外の顔に、クエスチョンマークが浮く。
「怪我を治す魔法なんかと同じで、影響が出てしまったら、それを取り除く方法がないんだ。とりあえず、戻せない事はないけど・・・。」
 トーヤには、簡単にその先の言葉が予想できた。
「今更、誰もお前に禁呪文云々は、言わんと思うぞ。何せ長に言わせれば、おまえは存在そのものが禁呪文の塊らしいからな。」
「まあ、そうなんだけどね・・・。ただ、普段使っているようなレベルのものじゃないんだよ、これが・・・。」
 アインの口ぶりからすると、相当厄介なことらしい。
「無理やり戻すのもあれだし、しばらく様子を見ようと思う。マリア次第では今のままでもいいと思うし。」
 最後は、優しい兄貴の顔でそうアインは言った。

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