中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「Change!!Part2 後編」 埴輪
 マリアが大人になってから一週間が過ぎた。最も、大人になったのは外側だけで、中身はまったく変わってはいないが・・・。
「なぁ、アイン・・・。」
「なんだ、アレフ?」
「あれ、本当にマリアか?」
「そうだよ。他の誰でもない。大体、行動がマリアそのものじゃないか。」
「そうだけど・・・。」
 どうしても、楚々とした外見と態度や行動とのギャップが大きく、いまいち対応に困る。最も、アインは平然と、前と変わらぬ付き合いかたをしているが・・・。
「それはそうとアイン・・・。」
「なに、パティ?」
「ああいう風に動き回るなら、もっとそれ向けの服を着るように言ってあげてくれない?」
 そう、マリアは今までと同じデザインのスカイブルーのワンピースを好んで身につけている。さすがに、サイズは今のマリアに合わせてはいるが。
「うーん・・・。子供だと思って、気にしなきゃいいんじゃない?」
「それができたら苦労はしないよ・・・。」
 前の幼児体型のままなら、確かにまったく問題にはならなかっただろう。少々胸元や脇の当りが開放的でも、それを喜ぶような変態はエンフィールドにはいない。だが、メロディ、シーラ、女バージョンのアインなどと肩を並べるほど素晴らしいプロポーションになった今、はっきりいって昔と同じ服装でいる事は罪作りですらある。
「まぁ確かに、他の気がかりにばかり頭がいって、今、あの服装がどうまずいかまでは頭が回らなかったな。」
 実際のところ、肉体の急激な変化が、彼女にどれだけの影響を及ぼしているか分からない。さすがに精神が幼児に後退したりはしないが・・・。
「とりあえず似合いそうな服でも見繕って、それ以外はだめって言い聞かせるか。」
 そう言う怖いことができるのは、多分彼だけであろう。
「それはそうと・・・。」
「なに?」
「あんなにいい女になるんだったら、もっときっちり相手をしておけばよかった・・・。」
「馬鹿なことを・・・。」
 大体、将来が有望なことなど、見ていれば分かることである。最も、アインの見立てでは、普通に今の姿になるには、最低でも後10年はかかるだろう、ということではあるが。


「ねぇ、マリア・・・。」
「なに☆」
「いったい何があったのさ・・・。」
 1週間ぶりに学校に来たマリアに、クラスメイトたちが質問をぶつける。なんだかんだ言っても明るく元気な彼女は人気者である。ある意味マスコットとも言える彼女が、急に大人になったのだ。噂で知ってはいても、当然気になる。
「ふふ〜ん、女の子って言うのはねぇ、ある日突然大人になるものなの☆」
「そういうレベルじゃないと思うんだけど・・・。」
「で、どんな魔法を使ったの?」
「それとも薬?」
「何さ、マリアはそう言うのを使わないと美人になれないわけ?」
 そう言われても困る。別に美人の素質がなかったとは言わないが、いくらなんでも目を疑いたくなるのも事実だ。
「おっはよ〜、マリア!」
 そこへ、トリーシャが教室に入ってくる。
「あ、おはよ〜、トリーシャ☆」
「そうだ、マリア!これつけてみてよ!」
 そう言って、挨拶もそこそこに、謎の髪飾りを取り出す。それは星をかたどった、シンプルなデザインのものである。興味を引かれたマリアは、おずおずとその髪飾りをつけてみる。
「やっぱり!さすがは噂の美女!」
「すごくよく似合うよ!」
 もともと、デザイン的にやはり、黒や茶色よりも、金や銀の髪のほうに映えるものである。今のマリアには、確かによく似合った。
「ふふん、当たり前よ☆」
 子供そのもののしぐさで威張って見せるマリア。思わず周囲からため息が漏れる。
「着けた瞬間は美女だったのに・・・。」
 トリーシャも同感である。どうもマリアの中身は、外見に比例していたふしがある。大体、この年になって、まだ一人称がマリアなのだ。
(折角のアインさんのプレゼントも、これじゃああんまり意味がないなぁ・・・。)
 内心でトリーシャがため息をついていたことも知らずに、マリアははしゃいでいた。どうやら、髪飾りは気に入ったらしい。最も、アインがわざわざ用意したのだから、ただの髪飾りではないが。


「パーティ?」
「ああ。アイン君にも是非とも来てほしくてね。」
「何のために?」
 モーリスの言葉に、怪訝な顔をして答えるアイン。なぜかこの会長は、事ある毎にアインをパーティだのレセプションだのに引っ張り出そうとする。同じぐらい頻繁にシェフィールド夫妻にも引っ張りまわされているが・・・。
「ああ。マリアに対して結婚を申し込んできたものがかなりいてね。品定めもかねて、パーティを開こうと思うんだ。」
「いや、パーティの理由じゃなくて、僕を引っ張り出す理由。」
「マリアの外見と私の財産だけで求婚してきた馬鹿者を追い払いたいのだよ。君ほどの適任者は他にいないからね。」
「僕は案山子か?」
 シーラのときもそうだが、なぜかこう言う役目はアインに回ってくる。最も、自分のことに鈍い彼には、ショート家およびシェフィールド家の目論見と、それによる静かな駆け引きには気がついてはいないが。
「案山子とは人聞きの悪い。せめて護衛と言ったらどうだね?」
「マリアに護衛がいるもんか。」
「1週間前ならね。」
 どうも、台詞の意味が違うようだ。一応納得するアイン。
「さて、頼めないかね?」
「はいはい。仕事料は・・・。」
 これも、陰謀の一貫だと知るまでは、かなりかかりそうである。


「わーい、パーティだ☆」
「こらこら、その格好ではしゃがない。」
 パーティ用のドレスではしゃぐマリアをとりあえずたしなめるアイン。パーティごときではしゃげるのだから、このお嬢様は庶民的である。シーラもそうだが、もし親が破産して貧乏になっても、立派に生きていけそうである。
「さて、外見につられた馬鹿が、どれくらいいるかな?」
「それって、マリアが外見だけって事?」
「いや、外見以外の魅力に気がつかない奴が多いって事。」
「それならいいけど・・。」
 世の中には、外見しか見えない人間は結構いる。だが、初対面では外見と雰囲気以外は手がかりがないのも事実である。
「さて、行きましょうか、お嬢様。」
 おどけて言うアイン。うなずくマリア。


 パーティはつつがなく進み、ダンスの時間に入る。
「いつも思うんだけど・・・。」
「なにかね?」
「何で、大規模なパーティって奴は、必ずダンスがついてるんだ?」
「ないと納得しない人たちがいるからだろう?」
「そうなんだ。」
 そう言って、周囲を見渡す。ハメットがパーティの幹事をやっているだけあって、妙に抜かりのない構成になっている。どうやら、あの仮面男は、こう言ったことには十分過ぎるほど有能らしい。
「さて、まずみんな不合格だし、案山子役をやってくるよ。」
 モーリスの後ろについて、一応の品定めをしていたアインは、あっさりそう評価を下す。苦笑してうなずくモーリス。彼も同じ意見だったらしい。
「さてお嬢様、僕と一曲踊っていただけますか?」
「もちろん喜んで☆」
 何人もの求婚者に囲まれ、辟易していたマリアは、上品にかつ嬉しそうにそう言ってアインのもとへ来る。その顔はまさに、恋する乙女のものである。
「あいつ、何者だ?」
「あの物腰、あの身のこなし・・・。只者じゃないな。」
「くそ、お嬢様はあんな奴が好みなのか!?」
 反応は人それぞれだが、ほとんどは、彼らの間に割って入れないものを感じたようだ。最も、実際の関係は妹を優しく見守る兄貴分と、それに恋をする妹分と言う、色気があるのかないのか微妙なものだが。
(くそ、正攻法で無理なら、力ずくで手に入れてやる。)
 やはりと言うかなんというか、よからぬことを考える輩はどこにでもいるらしい。モーリスの言うとおり、1週間前なら、まずこう言う考えを起こす奴はいなかっただろう。パーティは、急激にきな臭くなり始めたが、そのことに気がついているのは一人だけだった。


「モーリスさん、マリアは?」
「さっき誰かに誘われて、庭に出ていったが・・・。」
「誰と出ていったんだ?」
「アイキューブ氏のご子息とだが・・・。」
「まずいな・・・。探してくる。」
「何がまずいんだね?」
「アイキューブ氏の息子には目をつけてたんだ。多分そいつ、狼になる。」
 そう言って、テラスに出て直接飛び降りる。


 一方その頃、そんな事は知らないマリアと男は、
「ちょっと、何するのよ!!」
「ふん、外見はいい女になっても、やっぱり中身はあばずれか。」
 アインの心配通りになっていた。普段なら魔法で吹き飛ばすのだが、状況が悪すぎる。
「大人しくしてな!すぐ気持ちよくしてやる!!」
「いや、マリアに何する気!?」
「へ、なにも知らないふりをしても無駄だぜ。どうせあの男と何度も楽しんでるんだろ?」
 典型的な上、頭の悪そうな台詞を散々のたまわっている。マリアは、心のそこから恐怖を感じ、とっさに魔法を使おうとする。
「無駄なあがきはよしな。」
 そう言って口をふさぐ男。この状況で魔法が使えるのは、相当なレベルである。マリアにそれほどのレベルはない。あれば成長促進剤などなくても、とっくに大人になっていたであろう。
「むぐぐ!むぐむぐ!!」
 必死にもがくが、マリアの力ではどうしようもない。あっという間に押さえ込まれる。胸元の開いた、パーティ用のドレスがあだになる。動きにくいくせに、肝心なところを露出させるのはたやすい。両腕を封じ、スカートの中に手を突っ込んだあたりで、背後から突如、男は何者かに殴られる。
「そこまでにしておくんだな。」
「てめぇは!」
「紳士ぶっても、やっぱり内面はごまかせないもんだ。アイキューブさんも頭を抱えてたぞ。」
「ケ、野暮な男には退場してもらおうか!」
 といって、思いっきりよく、隠し持ったナイフを振りかぶり、切りつけてくる。そこそこの腕はあるようだが、所詮プロというほどではないレベルだ。正確にのどを狙ってきたが、あっさり叩き落される。
「さてと、僕はそれほど寛大じゃない。降伏か死か、お前の運命は二つに一つだ。」
 圧倒的な力量差を見せ付けて、アインがそう言う。その殺気は、十分に人を殺せるものである。多分、アルベルトやリサでも、この殺気に耐えられないだろう。
「ひ、ひゃ、ひゃふ・・・。」
 まともに言葉を発することもできない。直後に、もらしながら失神する。
「チンピラなんぞ、所詮この程度か。」
 そう言って、ひどい惨状のマリアを助け出す。アインでなければ、ミイラ取りがミイラになっていたかもしれない。震えながらしがみついてくるマリアを、アインはしっかり抱きしめてやる。
「アイン・・・。」
「ん?」
「大人になったら、こんなことばかりされるの?」
「そう言うわけじゃない。だけど、子供の頃は縁のないことなのも確かだね。」
 しばらく、マリアのすすり泣く声だけが当りに響く。アインが、ぽつりと言う。
「マリア。やっぱり早く大人になりたい?」
「・・・・・。」
「これは僕の勝手なたわごとだけど、マリアは、マリアのペースで大人になればいい。」
 そう言って、黄金色の髪を優しく慈しむようになでる。やがて、少し落ち着いたマリアが、アインに対してポツリと言葉を投げかける。
「アイン・・・。」
「なに?」
「マリア、もとに戻れるの?」
「ああ。戻りたい?」
「うん。」
 その返事を聞いたアインは、マリアの頭をぽんとたたくと、翼を広げた。


「結局もとに戻ったんだ。」
「うん☆急いで大人になってもいいことなんてなかったし。」
 パティの質問にそう答えるマリア。目の前にはでっかいパフェが置かれている。
「それはそうと、どうやって戻したんだ?」
「薬が効果を及ぼす前に、マリアの体の時間を戻したんだ。中身が子供のまま大人になっても、ろくな事はないしね。」
 トーヤの質問に答えて、マリアの頭をぽんとたたくアイン。その行動に対しマリアは、
「ぶ〜!子供扱いしないでよ!!」
 さっきまでと矛盾した反応を示す。
「微妙なお年頃って事か・・・。」
 そう言って苦笑して、アインはお茶をすする。エンフィールドではよくある光景であった。

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