中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「ジョートショップ、海へ その1」 埴輪
「大当たり!特等、アルバレオビーチ二泊三日!!」
 その台詞を聞いて、虚を突かれたように立ちすくむアイン。
「えっと、何?」
「だから、特等が当ったんだよ。」
 きょとんとした顔のままのアインに向かって、苦笑気味に返す福引所のおじさん。そう、さくら通りでは、毎年恒例の福引が行われていた。
「当りってのは、出るときは出るもんだね。」
「まあ、一応は特等って言っても、三つくらいは入ってるからなぁ。」
 そう言って、商品の目録とチケットを渡すおじさん。目録を見て悩むアイン。
「二人一組か・・・。」
「誰を連れて行く気だ?」
 悩んでいると、横から声をかけられる。
「十六夜か。そうだ、十六夜ならこれ、どうする?」
「当然、クレアと行く。」
「何なら、譲ろうか?」
「いや、遠慮しておく。俺みたいな貧乏人は、そうそう仕事は休めない。」
「あの、それは僕も同じなんだけど・・・。」
 アインは重要なことを失念していた。そう、ここはさくら通りなのだ。近くにはさくら亭がある。そして、人通りも多い。
「あ〜!アインさんそれ当てたの!?」
 買い物に来ていたトリーシャが、目ざとく見つける。
「厄介なのに見られたな、アイン。」
 そう言いながら、せっかくだから十六夜も福引をしていく。缶詰ばかりとはいえ、ここで頻繁に買い物をするのだ。当然のごとく、福引券はたまっている。
「へぇ、こんなこともあるもんだねぇ。」
 おじさんが思わず感心して言う。そう、十六夜の手の中には、燦然と輝く特等のあたりくじが・・・。
「よかったじゃないか、十六夜。海水浴なんて、めったに行けるもんじゃないぞ。」
 とりあえず、呆然としている十六夜に向かって、そう声をかけるアイン。エンフィールドは海から結構離れている上、ローズレイクという、世界でも指折りの規模の湖があるため、わざわざ海水浴に行く人間はほとんどいない。行くにしても、費用は馬鹿にならないのだ。
「まあ、言いか。おまえと違って連れて行く相手に悩むことはないわけだし。」
 あっさり思考を切り替える十六夜。彼もまた、重要なことをひとつ忘れていた。
「ほう、十六夜。それにクレアを連れて行く気か?」
 十六夜の台詞を聞いたアルベルトが、彼の後ろで指を鳴らしながらそう言う。
「げ、アル・・・。いたのか?」
「ああ。だが今のおまえにアルと呼ばれるつもりはない・・・。」
 思いっきりよく、兄馬鹿であるところを見せるアルベルト。もう勝手にやっとけという感じのアイン。ふと、そこで一計を案じてみる。
「そうだ、アルベルト。これでアリサさんと旅行に行って来るか?行き先は十六夜と同じだから、こいつらの監視もできる。」
「魅力的な提案だがな、アイン。ひとつ重要なことを忘れている。アリサさんがそれを承服すると思うか?」
 確かにそうである。アインが当てたものでほかの人間と旅行に行くなど、彼女の性格ではできまい。
「いっそ、アレフにでもやろうかな?」
「無駄な抵抗はあきらめて、意中の女性でも誘って行ってこい!」
 半ばやけくそ気味の十六夜の台詞に、思わずずんと暗くなるアイン。前途は多難そうである。


 陽の当る丘公園で、多少ぐったりした姿のアインと、それを面白そうに見ているアレフの姿があった。
「本気で、誰と行く気だ?」
 アレフの問いかけに、面倒くさそうに答えるアイン。
「おまえにやるから、適当に誰かと行ってこい。」
「そんな事したら各方面から殺されちまう。で、結局のところ、やっぱりシーラか?それともパティ?」
「誰誘っても角がたつから、困ってるんじゃないか。」
 ちなみに、行き先のアルバレオビーチは、比較的有名なスポットである。もっとも、有名である理由が一番の問題なのも確かだが。
「よりにもよって、アルバレオだもんなぁ。なんか仕組まれてるような気がしてきた。」
「まあ、運命だと思って、あきらめろ。」
 少し考え込んだアインは、やがて意を決したようにアレフの顔を見る。
「なぁアレフ。おまえ、シーラとかトリーシャとかメロディとか、あのへんの水着姿、見てみたくないか?」
「え?そりゃ拝めるんなら一度は見てみたいけど・・・。」
「わかった。じゃぁ、温泉の時のメンバーに十六夜とクレア、それにせっかくだからリオやローラも誘うべきかな?」
 何かを決意した顔のアイン。さすがに付き合いの長いアレフには、何を考えているか、手に取るようにわかる。
「どうせ、一人だけ誘うと角が立つから、全員誘うって言うんだろ?でも旅費はどうすんだ?俺は別に出してもいいけど・・・。」
 シーラやクレアの水着姿なら、それくらいの価値はあるからな、とつぶやくアレフ。
「当然、稼ぐに決まってるだろ。僕の貯金から出してもいいけど、それだといろいろ不都合があるから。」
「稼ぐって、結構な金額だぞ?」
「大丈夫、10万稼ぐよりはよっぽど楽だから。」
 とはいえ、やはりしゃれにならない金額にはなる。それこそ、アインがくる前のジョートショップの年収の倍に匹敵する金額である。
「そうだな、まずは賭け試合で金を稼いで・・・。」
「あ、俺の分はいいぞ。自分で出すから。アルベルトのほうも出させるから。」
「そうはいかない。誘う以上は僕が出すよ。」
「無茶言うなよ。それにマリアの別荘に行くとかならともかく、こう言う場合は自分で出すのが礼儀だ。」
「そう言うこと。ちゃんと自分で出すから、アインは心配しない。」
 いつの間にきていたのか、リサがそう嘴を挟む。
「とりあえず、出してやんないといけないのはメロディとローラの分と・・・。」
「後クリス、シェリルの学生組と薄給のピートの分だな。」
 いつのまにか、勝手に話を進める二人。
「あの、何の話をしてるんだ?」
「当然、旅費を稼ぐ算段さ。」
「へ?」
「ま、当てなんていくらでもあるから気にすんな。」
「そうそう、あんたはおとなしく幹事をやってな。日程とかきっちり調整しとくんだよ。あ、私たちは基本的にいつでも大丈夫だから。」
 そう行って、公園を後にする二人。結局アインは幹事役をやる羽目になったのだったのだ。

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