中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「ジョートショップ、海へ その2」 埴輪
 アインは忙しかった。旅費の問題はすぐに片付いたがそれとは別に人数の問題が出てきた。
 何の事はない、増えたのだ。増えたのは二人、だが普段から仕事やなんやと忙しいアイン、二人増えただけでも結構負担が増える。
「しかしトーヤ、いいのか?」
 ディアーナに、連絡事項としおりを渡し、ついでにトーヤに質問する。
「ディアーナのことか?あいつには息抜きをさせんとな。それこそこっちの身が持たん。」
「でも、旅費は結構なものなんだけど・・・。」
「心配いらん。俺とてその程度の蓄えはある。それにな、ディアーナの場合、世界が狭すぎる。たまには年の近い連中と旅行にでも行かせないとな。」
「まあ、確かにそうだけど。」
「ついでだからアイン、ディアーナに魔法医療の手ほどきをしてやってくれないか?」
「それはいや。」
 そっけなく言うアイン。トーヤが魔法治療について言うのはディアーナとアインに対してだけである。
「それじゃあ、僕はこれで。」


「でも、泳ぎに行くのなんて、何年振りかしら。」
「まあ、海の場合は泳ぐのにはあんまり向いてないけど。」
 ヴァネッサの言葉に、苦笑しながら突っ込みを入れるアイン。
「でも、見事なまでに女の子ばかりね。」
「あんまり誘って大丈夫な男の知り合いっていないから。」
 さすがにアッシュやクランクを誘うのには問題がありすぎる。
「で、ルーは誘ってもこないって言うし。結局、男はいつも顔つき合わせる面子しかいなくなるわけだ。」
「まぁ、ね。」
 それじゃあ、といってヴァネッサのアパートを後にするアイン。まだ回るところはいくらでも有る。


「しかし、アインも大変だな。」
「いつものことだし、大人数で旅行も悪くない。」
 ティグスに対してそう言うアイン。
「しかし、これがアルバレオビーチじゃなかったらとっとと適当なやつといってたんだろ?」
「まぁね。逆に、誰かに譲るとしても問題はなかったわけだし。」
 そう言いながら、アルベルトに対してしおりを渡すアイン。
「わざわざしおりまで作るとは、結構な余裕じゃねぇか。」
「いや、トリーシャが悪乗りしてね。気がついたら作らされていた。」
 変なところで押しの弱いアイン。
「ただ、リカルドを引っ張り出すのはかなりの力技が必要だったけどね。」
「まあ、あの御仁のことだ。今の自警団の状態では、そう休もうという気にはならんだろうな。」
 十六夜によって、物言わぬ柱の活動が明るみに出てから、自警団の人材は一気に外に流出した。結局、その尻拭いがジョートショップや第三部隊にのしかかってきており、また、第三部隊の助っ人は基本的に一年間だけという約束のため深刻な人手不足に陥っているのだった。
「結局、リカルド自身も悪いんだけどね。後に続く人材を育てなかったから。」
「そういうお前はどうするんだ?ジョートショップも、アリサさんかお前かのどちらかがかけるとやばいぞ。」
「少なくとも、アリサさんの変わりは作れない。あそこまで人徳のある人なんて、そう簡単にはいないよ。」
「お前の後継者は?」
「さぁ。少なくとも、後10年は立たないと後継者を作る意味がない。」
 確かに、まだ20代の男が考える問題ではない。
「何にしても、自警団もジョートショップも、強力な助っ人がいるから、何とかなるよ。」
 最も、どちらの助っ人も、当然のごとくひと悶着はあったのだが。


「すまないね、留守番なんか頼んで。」
「まったく、アインさんは変なところで強引なんでございますね。」
「まぁまぁハメット、アリサさんに恩返しすると思って。」
 不承不承といった感じのハメットをなだめすかし、ジョートショップを任せたのだ。
「ジョートショップは留守中に仕事に穴があかない。ハメットの信頼も回復できるし一石二鳥じゃないか。」
 自分がそのハメットにひどい目に合わされたことなど、はっきり忘れていると分かる口調である。
「ぐ、それを言われると・・・・。」
 ハメットが詰まったあたりで、仕事の段取り等を説明するアイン。


「無理言ってごめん、ジュディ、ミッキー君。」
「いえ、かまいませんわ。」
「ボク、オテツダイデキテ、ウレシイデース。」
 そう、アインは第三部隊の手伝いを、ジュディやミッキー君にまで頼んでいたのだ。ミッキー君については、はっきり言っていろいろ言われたが、本人はまったく聞く耳を持っていなかったりする。
「しかし、ミッキー君はともかく、私やジュディさんやルーさんまで駆り出さないといけないほどなのかしら?」
「まぁね。ジョートショップはまだなんとでもなる。けど第三部隊はそうも行かない。何せ、十六夜一人で切り盛りしてたから、仕事が結構たまってる。」
「で、もしおれやイヴが誘いに乗ったらどうするつもりだったんだ?」
「そのときはまた別の人間に手を借りるつもりだったからね。」
 答えを聞いて怪訝な顔をする。ほかに手伝ってくれそうな相手に、心当たりがないのだ。
「とりあえず、後チャックとヤスミンには協力してもらえるんだけどね。」
「本気でいろいろ駆り出してるな。」
「実際足りないのは優秀な人手だ。もともと、あまり有能でない僕が色々な所にでしゃばっている時点で問題なんだ。」
「誰があまり有能でないですって?」
 思わず聞き返すイヴ。
「だから僕。シーラやシェリルのように、何かに対して突出した才能はないし、分析や整理に対してはイヴにかなり劣る。戦闘技術ではリカルドに届かないし情報収集についてはトリーシャに負ける。人よりかなり頑丈な分、踏ん張りが利くだけで、せいぜい分野分野に分けてみれば『無能ではない』っていう程度でしかないよ。」
「それだけたくさんの分野に対して『無能ではない』なら、十分有能ですわ、アインさま。」
「だといいけど。じゃ、留守中は頼んだよ。」
 そう言って出て行くアイン。後には、仕事の量を見て、これは頻繁に手伝いにくるべきかと、真剣に考えるイヴとルーが残されたのであった。

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