中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「ジョートショップ、海へ その7」 埴輪
「さて、明日はもう、帰るだけ。」
「結局、海辺から一歩も離れなかったな。」
「それで誰一人体調を崩さないんだから、あきれた話だよ。」
 確かに、日の出から日が暮れるまで、一日中海水浴をして、誰も体調に問題が出ないのだ。化け物ぞろいである。類が友をかき集めたのかもしれない。
「で、海といえば定番、西瓜割り。」
「定番だな。」
 アインと十六夜が、コントのように話を続ける。
「折角だから、みんなでやってみよう。」
 そう言って、西瓜を一つ取り出す。シートを砂浜に引き、木の棒と目隠しを用意する。
「大体距離はこのくらいかな。」
 そう言って、大体10メートルほど離れる。そのまま目隠しをつけて、
「ホイ、十六夜。」
「O.K。」
 アインを10回ほどまわす。ここまでは普通の西瓜割りである。
「じゃあ、行くよ。」
 そう言って、おもむろに西瓜のほうに向くと、棒を振り上げる。そして、
「は!!」
 気合一閃。みごとに西瓜は真っ二つに切れる。シートには傷一つついてないのはさすがである。野次を飛ばすひまも無い。
「とまぁ、こうやるわけだ。」
 台詞と同時に、十六夜にど突き倒される。
「いたいぞ、十六夜。」
「やかましい!普通の人間に出来ることをやれ!!」
「普通、出来るだろ。気配読んでぶった切るぐらい。」
「どこのどいつが黙って転がってるだけの西瓜の気配が読める!!」
「ここのこいつ。」
 どう考えてもコントである。非常識な超人技も、西瓜割りなんぞに使われてはありがたみも薄れよう物である。
「さて、実際は目隠ししてぐるぐる回された後、大体西瓜があると思われる場所まで歩き、おもむろに棒を振り下ろして割るわけだ。」
 簡単なようだが、実際は以外と難しい。十六夜の台詞ではないが、黙って転がっているだけの西瓜の位置を、目隠しした状態で探すのは厳しい。
「ちなみに、周囲の人間は適当に野次を飛ばすわけだ。もっと右、とかね。」
 復活したアイン(いや、別に黙らされたわけではないが)が補足説明を入れる。
「まぁ、出来るんだったら今みたいに離れたところから・・・。」
「出来るか!!仮に出来たとしても、流れ弾が危ないからやるなよ。」
 言わずもがなである。


「もっと右!」
「反対反対!!」
 浜辺では、みんなが一斉に野次を飛ばしていた。野次の内容には、各人の性格がみごとに現れており、マリアやローラのように故意に間違った内容を伝えるもの、トリーシャやパティのように嘘と真実を混ぜるもの、シーラやクレアのように本当のことしか言わないもの、メロディのようになにも考えずに適当に言うものなどである。最も、本当のことしか言わない人間は、口数が少ないので、自然トリーシャあたりの言葉から取捨選択することになる。
「盛り上がってるねぇ。」
 ぼんやりと眺めながら、アイン。たまに変な野次を飛ばしては撹乱するぐらいで、特に積極的にはなにもしていない。
「いまいち、楽しくなさそうだな。」
「うん。まともに参加できないからねぇ。」
「そりゃ、西瓜の気配が読めたら、西瓜割りなんぞ成立しないだろう。」
「そうだね。こんなとき、無意味な能力持ってると寂しいもんだ。」
 苦笑しながら、十六夜に返すアイン。この二人も、ずいぶんいいコンビになってきたものである。
「でも、みんなで大騒ぎするのは、やっぱりなんだかんだいって楽しい。後、みんな結構性格がよく出てて面白い。」
「まぁな。トリーシャなんか、かなり上手いよな。」
「うん。あの野次の飛ばし方は絶妙だね。」
「さすがだな。」
 7割の真実に3割の嘘。言い方が実に本当っぽくてマリアなどは3回はだまされている。
「さて、そろそろ誰か割るかな。」
「そうだな。」
 見ると、次はアルベルトである。これは、決まったようなものだ。クレアが完全に味方につく。クレアの指示に従い、まっすぐ西瓜のほうに突撃する。そして気合を入れて、
「オラオラオラァ!!」
 棒を振り下ろす。どぐしゃ!!飛び散る赤い花、放物線を描く緑色。
「きゃあ!!」
「うわ!!」
 少々離れていたリカルド、アリサの年長組と十六夜、アイン以外の全員が、西瓜の洗礼を受ける羽目になる。
「まったく、手加減って物を知らないんだから。」
「ありゃ、どうあがいても食えないな。」
 砂浜では、アルベルトが袋叩きにされていた。
「折角だからリカルド、模範演舞やってくれない?」
「私がかね?」
「うん。アルベルトほど無様な姿はさらさないだろ?」
 そう言って、西瓜を用意してリカルドに棒と目隠しを渡す。仕方なく受け取るリカルド。結果は非常識な力量を見せ付けてくれたのであった。


「ふう、甘くておいしい。」
 全員に切り分けた西瓜を配り、美味そうに食べるアイン。シーラなどは初めてらしく、戸惑いながら食べている。
「そう言えば、シーラは案外こう言うのに疎いよな。」
「箱入りだったからな。」
 アインのつぶやきに、アレフが同意する。既に二切れ目である。
「そう言えばクリス、少しは女の子になれたか?」
 いきなり健全な青少年らしい話題に入る。
「うん。前ほど怖くは無くなったよ。だけど、今度は女の子って言うのが分からなくなっちゃったけど。」
「ま、分からないのも仕方ないよ。僕なんかいっつも戸惑ってるんだから。」
「お前の場合、その朴念仁を何とかしないとな。」
「そうそう。もしかして、アイン君も女嫌いなのかもしれないね。」
「うーん、少なくとも、一般的な青年男性くらいには、興味も欲もあるつもりだけど。」
 自分のことって一番わかってないからなぁ、というつぶやきから、多少自覚はあるらしい。この調子では、自分の恋愛が、エンフィールドの最大の関心事の一つになっているとは知らないだろう。
「その一般的な青年男性程度の欲望ってのは、一体いつになったら満たされるんだ?」
「さぁ?そう言う意味で、僕が大人になれたとき、じゃ無い?」
 アレフの突っ込みに、苦笑しながら返すアイン。
「逆に、もっと子供に戻れたら、かも知れないね。」
 そこを、今度はクリスに突っ込まれる。少々驚きながら、いい傾向だと視線で語り合うアレフとアイン。
「いっそ、僕も由羅の恋愛講座でも受けるかな。」
「別に、焦らなくてもいいんじゃない?こう言うのは理屈じゃないんだから。」
 突如、ヴァネッサが割りこむ。
「おいおいヴァネッサ。こいつのペースで物事を進めたら、みんな爺さん婆さんになっちまうぞ。」
「でもって、アイン君だけが若いままっと。」
 洒落にならない話である。しかも、そうなる可能性が非常に高い事が一番問題である。
「まぁ、そこまで行かないだろうけど。少なくとも、今までと違って考えるようにはなったんだから。」
「まあ、それはそうだけど・・・。」
 思わず考え込むクリス。アインはコメントを避け、西瓜にかぶりつく。
「それはそうとヴァネッサ。いい年なんだから、人のことに首突っ込んでないで、自分の相手を探したらどうだ?」
「そう言う言葉をさらっと言うのは、この口かしら!?」
「馬鹿な奴・・・。」
 いらんことを言ったアレフは、当然のごとく痛い目を見る。アインはフォローする気配すら見せない。結局、どこまで行っても日常からは離れないのであった。


「さてと、そろそろいい時間かな。」
 日が暮れてあたりが暗くなってから、アインが一同を集める。
「何々?」
「最後のお楽しみ、花火大会。」
「花火?」
「うん。出来るだけ、ゴミにならない奴を集めてきた。」
 そう言って、色々な種類の花火をとりだす。全部、手に持ってやるタイプか、据え付けるタイプである。
「据え付ける奴は、手に持ってやらないこと。もしそんな事をしたら・・・。」
「したら?」
「少し痛い奴、行くよ。」
 さらっと言うアイン。非常に怖い言葉である。
「そ、それよりアイン。」
「なに、パティ?」
「その花火、作ったの?」
「まさか。僕が出来る火薬の扱いは、発破とか銃弾の調合とか爆発物の解体とか、そっちの方面だよ。」
 物騒なこと、この上ない。危険物の扱いは、一通り出来るらしい。
「作ってもらったんだ。色々あるけど、まずはこの辺かな?」
 そう言って、少し離れたあたりで、かなり大きな据付型に火をつける。派手な音を立て、虚空に向かって飛んでいく花火。
「きれい・・・。」
「そう言えば、会心の出来だって、言ってたからなぁ。」
 どうやら、簡易打ち上げ装置つきの打ち上げ花火らしい。連続で5発、6発と花火があがる。赤や緑の火花が空を彩る。しばらくして、打ち上げ花火が止まる。燃え殻を水に放りこんで、全員にいくつか花火を配る。
「さて、今配ったのは、比較的正体不明だからね。くれぐれも人に向けないように。火をつけるときは、出来るだけ他の人から離れてやること。」
 言わずもがなだが、マリアあたりなら平気で他人に向けかねないので、わざわざ注意をするのである。ちなみに、破ったら以下同文らしい。
「さて、この辺に火をつけてみるか。」
 適当な奴に火をつけるアイン。手に持つタイプなので下向きにしていたが、少し考えが甘かった。といっても、彼を責めるのも酷だろう。別に、それ自体単独では、危険というほどのものではないのだから・・・。
「うわ!!」
「なに!?」
「きゃ!!」
 火をつけたとたん、あたりを真昼の太陽のごとき光が覆う。とっさにアインが光を一点に押し込んだため、光があたりを包んだのは一瞬のことであった。しかし、それでも全員、何分かは目が眩む。
「油断した・・・。」
 危ないので、火がついている花火に水をかけて回収しながら、アインがつぶやく。
「まさか、閃光花火だったとは・・・・。」
「字面でしか分からないようなねたを・・・。」
 ちなみに、普通の線香花火は別によけてある。その後、少し中断してアインが調べたが、トラップはあの一個だけだったようだ。


「じゃあ、そろそろ最後の奴、行こうか。」
 そう言って、線香花火に火をつける。何人かで組になって、ちりちりとはかなく燃える花火を見つめる。火の玉になり、極限までがんばりながら、小さな光をばら撒きつづける。やがて耐え切れずに、火の玉がぽとりと落ちる。
「終わりか・・・。」
「なんか、あっけなかったね。」
「まぁ、そんなもんじゃないの?」
 ひそひそ話をしながら、花火の名残を惜しむ。
「さてと、じゃあ後片付けして戻ろうか・・・。」
 そう言って、自分たちの分だけでなく、他のゴミまで集め出すアイン。有害かそうでないかを基準にゴミを分けて拾う。なんとなく、みんなでそれに習いゴミ拾いをはじめる。
「立つ鳥、跡を濁さずか・・・。」
「けど、結構ゴミがおちてるもんだねぇ。」
「そうだ、後で全員で、露天風呂ってのに言ってみない?もちろん水着持参で。」
「温泉に水着は邪道です!!」
「だったら、ディアーナだけ裸で入ればいいじゃない。」
「・・・やっぱり、水着で入ります・・・。」
「ちっ。」
 などと、のんびりとした会話をしながら、小一時間ほど浜辺のゴミを集める。すっかりとは言わないが、そこそこ綺麗にはなる。
「結局、露天風呂、行くの?」
『もちろん!』
 アインの質問に、なぜか全員の答えが重なる。さすがに誰も水着を持ってきてはいないので、いったん戻って再度集合ということになった。


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