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「エンフィールドの歩き方」 埴輪  (MAIL)
「え〜っと、グラムマサラが10グラム・・・。」
 珍しく、アインが何かの調合をやっている。それを見たアレフは、思わず怪訝な顔をしてしまう。
「アイン、なにやってるんだ?」
「見たまんま。ちょっとばかり、頼まれ物をしてね。」
「マリアか?」
「マリアなら、自分で作るだろ。」
 真理である。その間も、てきぱきと材料をはかりとっていくアイン。材料から、明らかに魔法系の代物だ。
「で、なに作ってんだ?」
「企業秘密。」
 材料をはかり終えたアインは、それを手順通りに混ぜていく。
「アレフ。」
「なんだ?」
「危ないから、外に出ててた方がいいよ。」
「へ?」
 その台詞が終るか終らないかの内に、急に部屋が暑くなる。
「こいつは、変化を起こすときに、異常に発熱するんだ。爆発する可能性もある。結界を張ってるから、外にいれば安全だけど、中だと危険だ。」
 淡々と言う。それを聞いたアレフは、慌てて外に出る。1・2・3・・・。
「なにも起こらないじゃないか・・・。」
 マリアがよくやるような、街中に響き渡らんばかりの大爆発を期待してたのだが、今回はそうはならなかったらしい。
「もう、大丈夫だぞ。」
 アインが招き入れる。それを見たアレフは、期待を裏切られたと悟る。
「じゃあ、こいつを届けてくるから、アレフは自警団にこいつを届けてくれ。」
 そう言って、護符やらアクセサリーやらが大量に入った箱を示す。
「分かった。けど、何でこんなものを?」
「人材不足を物でカバーするんだってさ。まぁ、玄武護符ならずいぶん色々と使えるだろうけど。」
 まぁ、リカルドの考えなのは間違いないだろう。深く詮索せずに、荷物を運ぶアレフ。
「しかしアインの奴、前はこんなもん作らなかったのになぁ・・・。」
 どう言う心境の変化か気にはなるが、詮索するだけ無駄なので気にしないことにする。


「ただいま・・・、って誰だ、それ!?」
「あ、お帰り。彼女がさっきの薬の依頼主。」
 と言って示された相手は、気品あふれる、神秘的な印象の美少女だった。水をイメージさせる、青い髪が特徴的だ。
「はじめまして。」
 にっこりと微笑む少女。思わずドキッとしてしまい、内心で焦るアレフ。
「おい、アイン。俺、お前の修羅場に巻き込まれるつもりはないぞ。」
「大丈夫。彼女とは、絶対にそう言う関係になれないから。」
 横でうなずく少女。とことん色気がなさそうだ。
「で、依頼内容は街の案内だったよね。どこが見たい?」
「とりあえず、一通り回ってみたいんだけど・・・。」
「じゃあ、門から一回り、だな。」
 二人の関係がまったくわからず、ひたすら首を傾げるアレフ。少女の姿にもなんとなく違和感を感じる。だが、違和感の正体に気がつく前に、二人してジョートショップを出ていってしまう。
「家族・・・って感じじゃなかったしなぁ・・・?」


「ここが、グラシオコロシアム。いろんな行事に使われてるけど、一番の目玉は武術系の大会。今日は大武闘会にむけての練習試合だ。」
「大武闘会?」
「エンフィールド名物だ。まぁ、本戦はだいぶ先だし、今日はそれほどすごい組み合わせもないからおいとこう。」
 そういって、あっさりコロシアムを後にする。そのままフェニックス美術館やリヴェティス劇場のある区域へ歩いていく。30分ほど歩くと、劇場に出る。
「で、ここが世界的に有名な劇場の一つ、リヴェティス劇場。最近、新進気鋭のピアニスト、シーラ・シェフィールドのコンサートで大いににぎわった。」
 最近の演目は、演劇「人魚姫」である。思わず苦笑しながら通りすぎると、美術館のほうに歩いていく。


「ここがフェニックス美術館。僕の影が大いに迷惑をかけた場所。」
「あの冤罪事件の発端だっけ?」
「そう。」
「あ、アイン・クリシード工芸品展だって。」
「そんなのいまやってたのか・・・・。」
 アイン・クリシード工芸品展とは言うが、別にアインが作ったものだけではない。アインが持ちかえった各地や異世界の工芸品、その中でも特に珍しくて芸術的なものを展示しているのだ。
「別に、僕の名前を出す必要はないような気がする。」
 折角だから見ていきたいと駄々をこねられ、とりあえず入ることにしたアイン。内容的には、半分が各地の工芸品である。
「でも、これみんなあなたが集めたものでしょ?」
「そうだけどね。けど、僕でなくても集められるものだよ。」
 アインの作ったものには、実用一展張りのものから、遊び心あふれるものまで色々あるが、全部一貫して実用品である。
「これ、確か去年モーリスさんに頼まれたやつだ。こっちはカッセル爺さんに上げた安楽椅子・・・。」
 全部、人に頼まれたり、プレゼントとして作ったものばかりである。さすがに、シーラのオルゴールなど、かなり特殊なものはないが。ちゃんと持ち主に帰るんだろうか、などと考えながら美術館を出る。


「さて、 大体見て楽しいところは回ったし、買い物でもする?」
 公園でのんびり休みながらアインが言う。少女が返事をする前に、巡回のアルベルト、十六夜コンビと出くわす。
「アイン、また新しい女か?」
「そんな事ばかりしてると、いつか刺されるぞ。」
 と、知らない人が聞けば誤解しそうなことを言う。思わず苦笑しながら否定するアイン。
「違うって。彼女は依頼人。それはそうと十六夜、恩人の顔を忘れるなんて失礼な。」
「恩人?」
「まぁ、会った状況が状況だから、気がつかなくても仕方がないかもしれないけど。」
「ちなみに、多分アルベルトとヤン、クラウスも会ってると思う。」
 と言っても、まったく思い当たるものがない。少なくとも、知り合いの人間にはこんな人物はいない。
「思い出せない。」
「ヒントはローズレイク。」
「また幽霊だの妖精だののたぐいか?」
 あきれるアルベルト。ニコニコと人の悪い笑みを浮かべながら十六夜の様子を見ている少女。
「もう一つヒント。大顎月光魚。」
 やはり分からないらしい。まぁ、ヒントがヒントだけに、十六夜に分かれというほうが厳しいかもしれない。
「遊びに気照っていったのに、全然来てくれないとおもったら、忘れられてたなんて。」
「仕方がないよ、女王様。今は姿が違うんだし。」
 その言葉を聞いて、十六夜の中で記憶がつながった。
「もしかして、女王って、隠れ里の!?」
「やっと思い出してくれたみたいね。さて、お腹がすいちゃった。おいしいものを食べたいんだけど。」
「美味い食事なら2軒。大衆的なものか高級なのか、どっちがいい?ちなみに味のレベルはほとんど変わらない。」
「じゃあ、大衆的なほう。やっぱりよく知らない町に来たら、大衆料理を食べるのが醍醐味って物よね。」


「というわけだから、十六夜の恩人に、とびっきりおいしいものを食べさせてあげて。」
 アインの大雑把な注文に、やれやれと言った感じで答えるパティ。交友関係が広いと思っていたが、よもや人魚の女王様まで連れてくるとは・・・。
「そう言えばアイン、いつ依頼を受けたんだ?」
 行きがかり上、着いて来ざるを得なかった十六夜が、質問をとばす。
「おととい。ローズレイクのほうに薬草を取りにいったときにね。報酬を前払いで受け取っちゃったからね。」
 以前にフサの依頼を受けていたことも考えると、アインはずいぶん大雑把に依頼を受けているようである。
「依頼料もらえば、どんな仕事で設けるって訳?」
「さすがに、非合法なやつは受けないよ。何せ僕は前科もちだからね。」
 そうこういいながら、パティが運んできた料理を、和気藹々とつつく。十六夜のねずみ退治などの話で大いに盛り上がる。


「じゃあ、お休み。今度は僕達のほうから遊びに行くから。」
「分かったわ。そのときは私が里を案内してあげる。」
 上半身だけローズレイクから乗り出し、女王が微笑む。
「でも、うかつだったわね。十六夜君には、隠れ里に来る手段がなかったなんてね。」
「まぁ、今度からはそっちに行けるし、ひまが出来たら遊びに行くよ。」


 後日、シェリル・クリスティア作「親指王子の苦難」が発表され、大好評を博したのは、別の話である。

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