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「台風、襲来」 埴輪  (MAIL)
「ヤバイ天気だな。」
 仕事の手を止めて、ポツリとつぶやくアイン。空模様は、特に悪くはない。
「何がヤバイって?」
 仕事を手伝っていたピートが、アインのつぶやきを聞きとがめる。
「ああ、空模様が怪しくなってきた。今日明日ぐらい、かなり危ないかもしれない。」
 とても、そんな天気には見えないが、獣人族特有の感覚で嗅ぎ取ったのか、ピートがうなずく。
「よくわかんないけど、いやな予感がするな。」
「とりあえず、自警団と役所にいって、住民に知らせてもらわないと。」
 そう言って、やりかけの壁の補修を済ませるアイン。手際よくピートも手伝う。息の合った呼吸で、かなり早く仕事が終る。


「で、その根拠は?」
 公安が解散になっても辛うじて職を失わなかったパメラが、冷ややかに対応する。もう顔見知りになって一年以上たつが、いまだに彼のことを胡散臭いよそ者としか見ていない。
「精霊の動きがね。後半日もすればかなりいい具合に天気が崩れる。」
 当然の事ながら、パメラは信用しない。だが、それを聞いていたほかの職員が、慌てて手配を開始する。
「どうしてそんな事をする必要があるの!?」
「こういうことで先手を打つのは、公務員の仕事です。」
 どうやら、モーリスやリカルドの喝が、多少はきいているらしい。自警団のほうについては、もう活動を開始しているだろう。
「さて、こっちも仕事するか。」
 そう言って、山ほどの補強材を用意し、一番危険なところに向かう。


「とりあえず、もしものときのためにもろい部分だけ補強しておくから。」
 どうやら、アインが役所でごちょごちょやっている間に、自警団から伝令が来たようだ。教会では、嵐のことが伝わっていたらしい。
「おねがいする。しかし、本当に来るのかい?」
「ああ。雷鳴山のときと同じで、非常にいやな予感がする。」
 作業をてきぱきと進めながら、神父の質問に答えるアイン。
「まぁ、君が嘘をついた事はないから信用はするが・・・。」
 珍しく、アインが比較的焦っているのが分かる。前の嵐のときは、予報とせいぜい痛んでるところの補修だけだったのだが、今回は補強までしている。さすがに、不安を覚えざるを得ない。
「とりあえず、補強できるところはやっといたから。後危なっかしいところはこれで補強しといて。」
 そう言って、教会を出る。教会はまだましだ。なんだかんだと事ある毎に補修をしている。由羅とカッセルのほうだ。


「というわけだ。補強だけはしとくけど、ここは湖に近いからね。できれば避難してほしい。」
「うむ・・・。しかし珍しいな、アイン。何をそれほど焦っておる?」
「非常にいやな予感がするんだ。もしかしたら、本気にならなきゃいけないかも。」
「あまり嬉しくないな・・・。」
「本当にねぇ。」
 そう言いながら、一応家と家財一式は残る程度までは補強を済ませるアイン。そのまま、由羅の家まで移動する。


「というわけで、由羅。危ないからメロディと一緒にさくら亭にでも行ってくれないか?ここは一応嵐に耐えられるように補強しとくけど、人がこもるにはちょっと・・・。」
「う〜ん、仕方ないわねぇ。どうせお酒はあっちでも飲めるでしょうし。」
「おねえちゃん、おさけはでめですぅ。」
「なによメロディ!そんな無茶な飲み方はしないわよ!!」
「由羅、説得力なさ過ぎ。」
 作業をはじめながら、突込みをいれるアイン。ボケのアインに突っ込まれて、思わず不満を顔に出してしまう由羅。最後の作業が終ったあたりから、風が強くなり始める。


「ほんとに来た・・・・。」
「一体あの方は、どう言う感覚をなさっているのでしょう?」
 もしものための手伝いに自警団につめていたトリーシャと、兄と恋人のために差し入れを持ってきたクレアが、顔を見合わせる。いつも思うのだが、船乗りかおまけの予報である。アインが帰ってきてから、この手の災害が無用に拡大するケースが減っているような気がする。
「しかし、いやな予感がするって、どう言うことなんだろうか?」
 十六夜の疑問に答えるように、
「かなり不吉だ。」
 ルーが、塔のカードを見ながらつぶやく。どうやら最終予想で出てきたらしい。
「こいつは、確かにな・・・。」
「で、占いの内容は?」
「過去のことが原因で、この街に悪意を持ってる奴がいる。」
 心当たりはかなりある。特に自警団ともなると、どこで恨みを買っているか分からない。
「まぁ、アインが絡んだ時点で、占いでは先が読めなくなったがな。」
「ことごとく占いの結果をはずしてくれるやつだからなぁ。」
 絶対大丈夫と言われたことを、何度覆されたか。驚くを通り越してしてあきれるしかない。
「さて、十六夜。巡回はどうする?」
「やっておくに越した事はないだろう。さすがにフォスター隊長を駆り出すわけには行かないけどな。」
「分かった。俺も付き合おう。」
「どう言う風の吹き回しだ、ルー?」
 今までの彼では、とても考えられないことである。
「単なる気まぐれだ。」
 それだけ告げて、ルーは自警団を出て行く。
「それじゃあ、巡回の連中のために、あったかいモノでも用意しといてくれ。」
 心配そうな二人にそう告げて、十六夜も巡回に出たのであった。


「しかし、不自然な嵐だ・・・。」
 コロシアムの最も高い位置で街を見渡しながら、アインがつぶやく。まだ暴風圏に入ってはいないのに、既にまともに歩けないほどの風が吹いている。
「なにか見落としてる・・・。」
 いくらアインの感覚が鋭かろうが、四六時中網を張っているわけではないのだ。今回みたいに、比較的大きくなってから気がつく場合がほとんどである。
「アインさん!」
「どうしたんだい、クラウス。」
「危険ですから、そんなところに立たないでください!」
 その台詞に、思わず苦笑する。そんなことを言われたのは、記憶を失っていた頃以来である。
「分かった。じゃあ危険がないように飛んでおくよ。」
「あの!!」
 そう言って、ローズレイクのほうに飛び去っていくアインを、クラウスは呆然とみていたのであった。


「すごい風ね!!」
「ヴァネッサはもう戻ってくれ!!」
「それは男女差別だわ!!」
「いや!!いざと言うときのために、本部に一人動ける人間を置いておきたいんだ!!」
 突風のため、かなりい大声で怒鳴りあわないと会話が成立しない。雨よけのレインコートの下も、既にずぶぬれである。危ないからと言う理由で、ヘキサは既に帰っている。
「分かったわ!!」
「帰る前にドクターから、適当に薬を預かっておいてくれ!!」
 そう言って、クラウド医院のほうに移動するヴァネッサ。かなりの強風のため、結構動くのは厳しいようだ。
「さて、嵐が去るまで、無事でいられるだろうか・・・。」


「いやな予感の正体はこれか・・・。」
 ローズレイク方面から嵐の中心のほうに移動したアインは、嵐の正体を見て思わず固まってしまう。
「しかし、こんな所にタイフーン・ビーストが来るなんて、どう言うことだ?」
 タイフーン・ビースト。嵐の巣に住むといわれる伝説の魔獣。全長40メートルをこえる。エネルギーを全身からはいて風を起こし、そのとき起こるプラズマなどを食料にするという、永久機関のような生物である。ちなみに性質は穏やかで、わざわざ他者を襲うような事はしない。
「あれが入ったら、エンフィールドは壊滅するな。」
 何せ、あの巨体をさえぎれるものは何もない。その上、本体の近くでは激しくなりすぎた分子運動がマイクロウェーブのようになり、プラズマを発生させる。強い風が音速を超え、更に衝撃波を撒き散らし、かまいたちを起こしている。
「さて、どうやってお引取りを願おうか・・・。」
 いっそ、倒してしまおうか、などと物騒な考えも起こるが、さすがにそれを実行するには理性が邪魔をする。
「しかし、何を焦っているんだ?」
「子供でも、行方不明になったんじゃないか?」
「なるほど・・・。」
 考え事に没頭していて、誰かが来たことに気がつかないアイン。声をかけた人物思わず苦笑していると、不意にアインが行動を起こす。
「アイン・クリシードの名において命ずる!具現せよ!!賢者の瞳!!」


「台風の子供を捜しに、台風の親が来たなんて・・・。」
「大山鳴動して・・・か。」
「けど、さすがにねずみ一匹って訳には行かなかったわよ。」
 結果を知って脱力しているアルベルトに対して、ヴァネッサが突っ込みをいれる。
「統計が出たわ。」
 イヴが、いつものように感情をうかがわせない声で言う。
「幸いにして、死者はゼロだったわ。でも、全壊した家が20戸、半壊は300戸、重傷8、軽傷39、事前に避難が間に合っていたからよかったけど、それでも大災害には違いないわね。」
 今ごろ、クラウド医院は空前の忙しさである。ディアーナがどじを踏む暇もないほどだ。ちなみに、原因となった台風の子供は、一抱えほどのサイズで、周囲にはそよ風程度の風が吹いていた。
「しかし、冗談で言ったことが本当だったとは・・・。」
 十六夜の疲労の原因は、なにも徹夜作業だったためだけではない。
「とりあえず十六夜、調査はしておいたほうがいいと思うぞ。」
 ルーの言葉に力なくうなずく十六夜。これから忙しくなりそうだと、思わずげんなりするのであった。

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