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「青年達の一日」 埴輪  (MAIL)
 自警団第三部隊隊長、十六夜・ランカートの朝は早い。
「大分、様になってきたかな・・・。」
 エンフィールドにくる前から日課となっている刀の稽古を終え、汗をぬぐいながらひとりごちる。
「だが、まだまだ2本同時は厳しいな。逆腕の太刀筋が定まらない。」
 そう言って、2本に分けていた太刀を、一本に戻す。ここしばらく、何度も何度も分解しては元に戻していたので、それ自体は職人技の領域に達している。
「明日はもう少し、逆腕のほうを訓練しよう。」
 そう言って、そろそろ朝の活気が出てきた寮へ戻る。
「おはようございます、十六夜様。」
「おはよう、クレア。相変わらず早いな。」
「十六夜様ほどではありませんわ。」
 最近、十六夜の食糧事情を心配して、朝食まで作りに来るようになったクレアと、他愛のないやり取りをする。


 ジョートショップの従業員、アイン・クリシードの朝は早い。
「ふう、今日もいい朝だ。」
 旅から戻ってきてからの日課、ローズレイク20周、腹筋腕立てスクワット各100回10セットetc・・・を2時間ほどかけて終え、開店準備をはじめながらさわやかにつぶやく。
「おはよう、アイン!」
「おはよう、パティ。今日も早いね。」
「そんな事ないって。これで普通くらいよ。」
 ずいぶん前から朝食を作りに来るようになったパティと、他愛のないやり取りをする。


「さて、今日の仕事は・・・。」
「探し物が二件、警備が一件、後はジョートショップからの依頼よ。」
「内容は?」
「家出人探し。こう言うのは自警団の仕事だそうよ。」
「分かった。」
 イヴとのやり取りを終え、協力者たちに仕事を割り振る。自分は警備につくことにする。
「それじゃあ、今日も頼む。」


「さて、今日の仕事は・・・。」
「あ、俺これとこれやる。」
「じゃあ、私はこのお仕事とこのお仕事。」
「それなら僕はこの書類を作っておくね。」
 口を挟む前に、あっという間に分担が決まる。今日手伝いに来てくれたのは、アレフ、クリス、シーラのようだ。
「いつもすまないね。すごく助かるよ。」
「なにいってんのさ、アイン君。困ったときはお互い様だよ。」
「ま、友達の手伝いして金が稼げるんだ。暇人にゃ最高の時間の使い方だよ。」
 そう言って、残った仕事−全部細工物だったりする−の依頼票を渡すアレフ。
「さて、今日も一日、頑張るか。」


 そして、その日の昼下がり。いつものように昼食を取りに、さくら亭に集まる彼ら。
「ふーん、それじゃあ、アレフとクリスの仕事は終ったんだ。」
「うん。今日の仕事は単に統計を表とグラフにまとめるだけだったからね。」
「もともと、ジョートショップの勤務時間って、決まってないも同然だからな。」
 ちなみに、シーラのほうはもう少しかかるようだ。アインにいたっては、他の人間ではさばききれない量を既に仕上げている。
「それに比べて、こっちは大変だよ。」
「何せ、一応公的機関だからな。定時前に終る事は出来ない。」
「氏かも、給料は歩合制だから、残業しても手当てもつかん。」
「公務員と、民間の個人経営との違いね。」
 その代わり、各種保障は自警団のほうがましである。
「なんにせよ、手伝いに頼ってる状況は何とかしないとね。」
「まったくだ・・・。」
 ちなみに、ティグスは両方に対して手伝いをしている。だが、彼にしたって、本来の仕事があるため、あまり頻繁に手出しは出来ない。
「あ、アイン、ここにいたんだ☆」
「なに、マリア?」
「パパがねぇ、アインを呼んでるの。」
「モーリスさんが?」
 怪訝な顔をしながら、席を立つ。どの道、仕事は後三つほど。図面は朝のうちにすべて上がっている。期限も今日中という訳ではないので、少々別の事をしてもかまわないだろう。
「でも、どっちとしての用件なんだろう?」


「マリアちゃんに、新しいアクセサリーをプレゼントしたいんだが・・・。」
 どうやら、今日は父親としての用件らしい。パパもーどに入っている彼は、はっきり言って単なる親ばかである。普段の威厳や思慮深さなど、微塵も感じる事は出来ない。
「はいはい、分かったよ。でもどう言う風の吹き回しだい?」
「最近、あまりかまってやれなくてな。そろそろここいらで機嫌を取っておきたいのだよ。」
 やはり親ばかである。まぁ、どうせもう一つ余分に作るだけなので、二つ返事で引き受ける。
「こう言う事してるから、なかなか暇が出来ないんだろうな・・・。」
 自業自得である。


「十六夜!!大至急出動だ!!」
「分かった!!」
 どうやら、モンスターが出たらしい。少し前までは平穏だったのだが、最近また増え出した。警備を他の部隊の人間に任せ、駆け出す。
「何が出た!?」
「ゴブリンがダース単位で!!」
 そういいながら、現場の誕生の森のほうへ走る。特訓の成果か、かなりの健脚だ。新記録をはじき出して、現場に駆け付ける。
「はやいな!!」
「鍛えてるからな!!」
 見ると、アルベルトが数匹まとめてなぎ倒している。慌てる必要はなかったようだが、それでも油断は出来ない。何せ、一部隊が相手取るには少々数が多い。
「よし、今手伝う!」
 仕事は、それから10分ほどで終った。


 アインの仕事は、遅くまで続く。
「じゃあみんな、ご苦労様。」
「それじゃあ、お先に。」
「あまり無理すんなよ。」
「あまり手伝えなくてごめんなさい。」
 そう言って出て行く仲間たちを送り出し、終らなかった分の仕事に手をつける。
「アインクン、ご飯よ。」
「はい、今行きます。」
 子一時間ほどして、残った仕事が片付いた頃に、アリサから夕食が告げられる。
「アインクン、悪いけど、食べ終わったらこれを届けてくれないかしら。」
「わかりました。」
 アリサから差し出されたショールを簡単に包み、届け先を聞いてから食事にうつる。やはり、ご飯は温かいうちに食べるのが一番である。


 十六夜の仕事は、遅くまで続く。
「まず、今日の収入が・・・。」
「十六夜様、差し入れを持ってまいりました。」
「ああ、すまない。」
「少し、お手伝いしますわ。」
 二人して書類の整理を終え、食事にうつる。
「しかし・・・。」
「どうしました?」
「いや、やはり誰かと食事をするのは、楽しいなと思って。」
「にぎやかなのが一番ですからね。」
 にぎやかといって、一番にぎやかな存在がいないことに気がつく。
「そう言えば、ヘキサは?」
「トリーシャ様に付いて行かれましたわ。どうもラ・ルナのお食事に釣られたようですわ。」
「あいつらしい。」
 そう言って、苦笑する。穏やかな時間が流れる。実際のところ、ヘキサはラ・ルナの食事に釣られただけではなかったのだ。誰が好き好んで、こんなはた迷惑な甘い空間に居座りたいものか。


「やぁ、十六夜。遅くまで精が出るね。」
「お前こそな。」
「こんばんは、アイン様。」
「こんばんは、クレア。」
 そう挨拶を交わして、ふと夜空を見上げる。つられて見上げる十六夜とクレア。
「明日も、いい天気になりそうだ。」
「最も、俺達の仕事は天気に関係ないからなぁ。」
「いいお天気でも、どこにも出かけられないのは少々つまらないですわね。」
「まぁ、仕事があるって事は、いいことじゃないか。」
 そうのんきに会話をしたあと、挨拶をして別れる。こうして、彼らの一日は終わりを告げるのであった。

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