中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「ロスト・レクイエム」 埴輪  (MAIL)
「今日も色々仕事が入ってるなぁ。」
「ま、それで私達も食事にありつけてるんだけどね。」
 そう言いながら、依頼票の束をめくるアインとリサ。
「あ、今日はこれにしよう。」
「何々?」
 アインが手に取ったのは、絵本の挿絵と書かれた紙であった。珍しい依頼である。
「でもこれじゃあ、1日手を取られないかい?」
「かも知れないけどね。たまには趣味で仕事を選んでもいいじゃないか。」
「そうだけどね。」
 そう言いながら、リサも二つほど仕事を選ぶ。残りの大部分は自警団のほうで、その他の分は急ぎではないので明日以降、ということになる。収入が少なくなりそうに見えるが、アインが給料として取っている分が少ないのと、従業員の給料が歩合制なので、基本的に赤字にはならない。
「それじゃあ、いってくるよ。」
「ああ、頼むよ。」


「で、絵本の挿絵といっても、色々方向性があるんだけど・・・。」
「そうですね。まずはお話を読んでみてください。」
 そういって依頼人が原稿を差し出す。それを読むアイン。翼を持つ女のこと魔族の男の子の物語。比較的物悲しい終り方をする話である。
「これだと・・・、ちょっと重めの、頭身数の高い絵にしたほうがいいね。」
「ですね。」
 そういって、最初のページのラフ画を大雑把に描いて見せる。本人が言ったとおり、少し重めの、美麗な絵。だが、迫力で圧倒するたぐいのものではない幻想的な物。
「素晴らしい絵ですね・・・。」
「そう?本職じゃないから、これが限界だけど。」
 そう言いながら、次々と構図を描いていく。
「こんなところでどうだろう?」
「・・・結構です。これなら問題ないでしょう。」
「じゃあ、このまま絵にしてみる。」
 そういって、依頼人の仕事場を後にする。折角だから、店ではなく公園あたりで仕上げまで進めることにする。


「ねぇ、見てないで出てきたら?」
 約半分の5枚目を仕上げ、次のイラストに手をつけたあたりで、なにもいないはずの空間に声をかけるアイン。
「ばれちゃった?」
「うん。脅かすんだったら、他の人にしてくれないかなぁ。今、仕事中なんだ。」
 目の前にふわふわ浮いている相手に一切動じず、アインがそう言葉を綴る。主線を書き終わり、彩色に入る。
「絵、上手なんだね。」
「さすがに本職にはなれないけどね。」
 そう少女に苦笑しながら返すアイン。
「悲しい絵だね。」
「そう言うお話だからね。」
 7枚目のラフ画に線を入れる。まるで魔法のような動きだが、本当に一流とやばれている人から見れば、まだまだ甘いのだろう。
「本当にお兄さん、画家じゃないの?」
「うん。僕は何でも屋。画家でも音楽家でも彫刻家でも兵隊さんでもない。」
 ひたすら絵を書いている青年と、浮かびながらそれを見る少女。傍目には奇妙な光景である。
「とりあえず、もう少し待って。後3枚描いたら付き合ってあげるから。」
「うん。楽しみにしてるね。」
 そういって、両手を顎に当てたポーズでまじまじとアインの手元を見る。


「待たせてごめん。折角だからお昼ご飯でも食べにいこう。」
「そう言うこと、私に対して言うの?」
「大丈夫大丈夫。ちゃんとサービスするから。」
 そう言って、少女の腕をつかむアイン。捕まれたことに思わず驚く少女。
「やっぱり、こう言うときはさくら亭だろう。」
 少女の驚愕などどこ吹く風、アインはさっさとさくら亭に移動してしまう。
「ちょっとちょっとちょっと!!!」


「パティ。今日のお勧め2人前。」
「あの・・・アイン・・・。その子に食べさせるわけ?」
「うん。別に問題ないだろ?」
「人の店で勝手にお供えしないでよ。」
 アインが動じていないのと、少女にあまりにも邪気がないのであまり怖いとは思わないが、これが別の状況だったら大騒ぎしていたことだろう。
「さて、さめないうちにどうぞ。」
 出てきた料理の内一人前に、何かよくわからない行動を取ってからアインが言う。
「それじゃあ、いただきます。」
 内心、本当にいいのだろうかと思いながら、とりあえず食器に手を出す。
「!?」
 そんな様子を見ながらニコニコと食事をつつくアイン。なぜかつかむことが出来た食器を手に、恐る恐る料理をつつく。
「美味しい!!」
「でしょう?」
 思わず笑顔になってそう言ってしまうパティ。いってしまってからはたと気がつく。
「アイン、なにやったの?」
「定食一人前分、幽霊の世界に位相をずらしたんだ。食器は終ったら元に戻しておくから。」
「あの、食べた分はどこにいくの?」
「さあ?減った分の欠損を埋めるんじゃないの?」
「埋めていいの?」
 あきれて言うパティ。
「いいのいいの。どうせ何らかの形で欠損は埋めてあるんだから。大した影響は出てないよ。」
「お兄さん、大雑把なんだね。」
「それで誰かが困ったわけじゃないから、いいと思うけど?」
「確かに困りはしないわよ、困りはね・・・。」
 その代わり、思いっきり振りまわされてしまうのだ。


「さて、最後の観光名所はここ。」
「月光魚なら、何度も見てるけど・・・。」
「だろうね。」
 そういいながら、草笛を作るアイン。
「あ・・・。」
 少女の周りに光が集まる。
「この曲・・・。」
 失われし鎮魂歌。稀代の音楽家が、亡国の姫君の魂を慰めた曲。優しき神の歌。


「心残りはない?」
 少しずつ、少女の姿が薄れていく。
「うん。でも、最後に一つだけ教えて。」
 優しい光るが彼女の周りに集まっていく。
「なに?」
 今ならば、アインの背中に隠された物が見えるような気がする。
「お兄さん・・・何者なの?」
 優しい微笑を浮かべながら、青年が答える。
「アイン・クリシード。アレス・クリシードの息子でジョートショップ勤務の何でも屋。」
 少女の姿がほとんど消える。
「ありがとう。短い間だったけどとても楽しかった。」
 少女を包んだ光が天に昇る。
「さいごにあなたにあえてよかった・・・。」


「結局、昨日の女の子、どうなったの?」
「さあ?幸せになったんじゃないの?」
 そういったアインの手からは、かすかに花の匂いがした。

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