中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「青年と少女」 埴輪  (MAIL)
 カーテンの隙間から漏れた朝の光が、少女のまぶたを刺す。少しうめいて、まぶたを開く。時間感覚が麻痺しているが、ずいぶん長い間寝ていたらしい事は分かる。
「ここは・・・。」
 見覚えのない風景が目に入り戸惑い、すぐに昨夜のことを思い出す。体を起こしてみる。まだ少しだるく、力がいまいち入らない。
 こんこん。
「朝食、持ってきたよ。」
 昨夜の青年の声だ。まるで、目がさめるのを待っていたかのようなタイミングである。あまり力の入らない声で、辛うじてどうぞとつぶやく。
「おはよう。とりあえずアリサさんが朝粥を作ってくれたから。昨日ほど気は使わなくてもいいけど、やっぱりあまりがっついちゃだめだよ。」
 そう言って、自分の分の朝食をとる。さすがに朝食の内容は違うが、それは仕方がない。
 ゆっくり時間をかけて食べる。それを見守る青年。相変わらずなにも聞こうとはしない。不思議な居心地のよさを感じる。
「そうだ、立てそう?立てるんだったらここの住民を紹介するよ。僕の自己紹介は、そのときいっしょにする。」
 食べ終わるのを見計らって、青年がそう声をかけてくる。とりあえず一つうなずく少女。さすがに、そこまで衰弱はしていないはずである。ただ、普段通りに歩くのは厳しいだろう。
「無理っぽかったら別に言いから。みんながここに上がってこればいいだけだし。」
 考えを読まれているような錯覚に陥る。まあ、冷静に考えれば、今の衰弱した自分の隊長を気遣ってくれているだけなのだろうが。
 少女はふらつきながら、それでもしっかりと自分の足で立ちあがる。どうやら、思ったよりは回復しているらしい。青年に支えられながら、階段をゆっくり降りていく。


「おはよう。昨日はよく眠れた?」
 せいぜい30代前半と思われる美しい女性が、そうやさしく声をかけてくる。非常に優しそうな女性である。だが、弱さの裏返しではない、という事は少女にもわかる。
「歩いて大丈夫なんッスか?」
「まあ、あんまり無理するのはよくないけど、でも寝たきりってのもよくないしね。」
 犬に酷似した魔法生物が、青年とそんな会話を繰り広げる。
「さてと、ここにいるのがこの店、ジョートショップの住民だ。僕はアイン・クリシード。ここの従業員。」
 そう言って、女性を手で示し、簡単に紹介する。
「で、この人が、アリサ・アスティア。ここの店主で僕の恩人。こっちの魔法生物がテディ。目の悪いアリサさんの補助をしている。」
「はじめまして。アリサ・アスティアです。」
「テディッス。よろしくお願いするッス。」
 そう言って頭を下げてくる。おずおずと頭を下げる少女。
「それで、もしよかったら君の名前、教えてくれないかな?いつまでもきみ、とかあの子、とかって呼ぶわけにもいかないし。」
 あくまで、もしよかったらである。別に彼女のほうに、名乗らない理由はない。
「マリーネって言います。」
 まだ力が入らず、かすれる声でそれだけを告げる。
「O.K。さてマリーネ、いったん部屋に戻ろう。体が治ったら、街を案内してあげるから。」


「で、橋の下で拾ってきた子は今どんな様子なんだ?」
「上で休んでるよ。まだまだ本調子じゃないからね。」
 仕事を割り振りながら、アレフに答えるアイン。
「悪いけど、僕は彼女が治るまで、仕事を休ませてもらうから。」
「ま、しゃーねぇわな。」
「仕方がない。あんたにゃ負けるけど、多少はあたしも細工物が出来るからね。そっち方面は出来るだけやっとくよ。」
「それじゃ、私はこう言うのを・・・。」
 エルとシェリルも適当に仕事を選んでいく。さすがに、アインが普段やっている量に比べると、対した量ではないが・・・。
「すまないね。」
「で、あの子のこと、どうするんだい?」
「治るまではうちにいてもらうよ。その後は、本人に決めてもらう。」
 そう言って、仕事の割り振りを終えると、乳鉢や天秤といった調合に使う器具を取り出す。
「それじゃあ、お願いするね。」
「ああ。そっちは余計なこと考えないで、治療のことだけ考えとけ。」


 アインが用意した昼食は、麺類だった。野菜や肉がふんだんに使われており、栄養価は十分である。しかも、消化しやすいように色々と配慮されている。
「いただきます。」
 そう言って、黙々と食べるマリーネ。やはり、付き合って食べるアイン。しばらく、麺をすする音だけが室内に流れる。相変わらずなにも聞かない。食事が終ってから、意を決したようにマリーネが口を開く。
「なにも聞かないの?」
「言いたいことがあるなら、聞かなくても話してくれると思ったからね。それに、初対面の相手について、色々詮索するのは趣味じゃない。」
 そう言って、肩をすくめると、食器を引き取る。そして、なにか粉のような物が入った包みを渡す。
「とりあえず、滋養強壮の薬を用意しておいたから。といっても、そんな副作用が出かねない物じゃないから、効果もちょっと薄いけどね。」
 そう言って、下に食器をかたしに行って、ついでに水を汲んで上がってくる。
「とりあえず、飲んでおいて。少しは効くだろうから。」


 それから3日。美味い飯とたっぷりの休息が効いてか、マリーネの体調はすっかり元通りに戻ったようだ。アリサ達は、かねてから話し合っていた通り、マリーネに街の案内をかねて、服を買いに行くことにした。
「あの・・・。」
「いいからいいから。」
「そうよ。大体女の子が、いつまでもそんな格好してるのはいけないわ。」
 そういって、何着かの服を見繕って買っていく。実用品が半分、おしゃれにきめたのが半分である。当然、靴も何足か買う。
「さて、着替えたところで、街を一回りしようか。」
 そういって、色々案内する。


「さてと、僕達がするのはここまで。後はきみの意志だ。この街にいつくもよし。出て行くもよし。ここに残るんだったら、僕達は大歓迎だ。」
「ここにいて、いいの?」
「もちろん。部屋も余ってるし、やっぱり食事は人数が多くないと。」
「別に、うちがいやなら他のところだってあるしね。この街なら、住む所はいくらでもあるよ。」
「本当に居てもいいの?」
「ああ。」
「それはそうとアリサさん。」
「なに?」
「ちょっと大きいけど、娘はいらない?」
「それは素敵ね。」
「じゃあ、それで手続きしてくる。」
 こうしてマリーネは、マリーネ・アスティアとなり、正式にジョートショップの一員となるのであった。

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