中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「少女の初仕事」 埴輪  (MAIL)
「さてと、マリーネ。早々悪いけど、明日から仕事手伝ってもらうよ。」
 夕食の席で突然の爆弾発言をするアイン。
「アインさん!!」
 アインの台詞に、抗議の声を上げるテディ。当然予想していたらしく、平然とアインは切り返す。
「別に、出来ない仕事はさせないし、給料はちゃんと出すよ。ただ、働かざる者、食うべからず、だ。」
「でも!」
「アインクン、何か考えてるの?」
「秘密。」
 苦笑しながらアリサに答える。そのまま、じっとマリーネの返事を待つ。
「わかりました。」
 元々、単なる居候に成り下がる気はなかったので、彼の申し出は渡りに船である。
「じゃあ決まり。明日、ここの非常勤従業員を紹介するよ。といっても、全員というわけには行かないだろうけど。」


「というわけで、今日からここの見習い従業員になった、マリーネ・アスティアだ。みんな、色々教えてあげてくれ。」
「よろしくお願いいたします。」
「それはいいけど・・・。」
「なんか、いきなりだね。」
「そもそも、アリサさんの娘って言うにはちょっとでかくないか?」
 確かに、この場の誰もアリサの実年齢を知らず、外見だけならどんなに無理しても30代前半より年かさには見えない。
「まぁ、本人が承知してるからいいんじゃない?」
 そう言って、軽く受け流す。その後、その場に来ていたアレフ、リサ、パティを紹介する。パティとは一度会っているが、一応挨拶はする。
「そいつはそうと、こんな小さな女の子に何させる気だ?」
「とりあえず、道具の管理と簡単な作業。手先が器用そうなら、細工物を教えようかと思う。」
「ま、そんなとこだろうな。」
「じゃあ、仕事しようか。」
 そう言って、仕事を分担する。マリーネは、今日1日アインの補佐につく。


「ほい、釘とって。」
「はい。」
「今度はそっちの木螺子。」
「どうぞ。」
 意外とてきぱきと注文をこなすマリーネ。なんだかんだで棚の修理が終る。
「ほい、おわり。」
「すごい・・・。」
 マリーネの目には、まるで魔法のようにうつったようだ。
「まぁ、この仕事はじめてから、結構たつからね。」
「そうなの?」
「うん。といってもまだ3年って所だけどね。」
「3年でこんなふうに出来るようになるの?」
「さあ?人によるんじゃないかな?今日来てたメンバーは問題ないけど、クリスなんかはいまだにこう言うのが上手くならないからね。」
「クリス?」
「そう言う人がいるんだ。主に頭脳労働担当。基本的に学生だからあまり手伝いに顔は出さない。」
 そういって、道具を片付けて立ちあがる。依頼人から報酬を受け取り、次の仕事場へ移動する。


「しかし、自警団の建物の修理をする羽目になるとはねぇ。」
「そっちは収入があるから、まだいい。こっちはただ働きだぞ。」
 苦笑気味のアインに対してぼやく十六夜。この間の嵐の影響が、今になって現れたようであちらこちらにがたが来ている。丈夫な建物だけに、対応がばっちり遅れた形になっている。
「しかし、こんな子供までこき使う様じゃ、ジョートショップも末期だな。」
「それを第3部隊にいわれたくはないな。何せ、最初リオの勧誘まで考えてたんだろ?」
 結局、末期的な人材不足はどこも同じだということである。
「マリーネ、ここ押さえといて。」
「そこが終ったら、こっちも頼めるか?」
 などと、人の手だけは必要な作業が多く、マリーネもてんてこ舞いになる。そうやって、目の回るような半日が終る。
「さてみんな、今日の給料だ。それと、折角だからマリーネの歓迎会をやろうと思うんだけど・・・。」
「そう言うと思って、準備しておいたよ。」
「お代はいいわ。あたし達がおごってあげる。」
「そんな、悪いよ・・・。」
「私達の新しい仲間だからね。これぐらいはさせとくれよ。」
 などと、有耶無耶の内に段取りが決まる。その様子を呆然と見ていたマリーネに対し、アインが声をかける。
「ちょっと遅くなったけど。マリーネの分の給料。基本的に、ここでの生活費は天引きだから。」
 そう言って、給料袋を手渡す。意外と重い。中を見ると仕事に見合わない(とマリーネ自身が思う)額が入っていた。
「それは正当な取り分。多いと思うんだったら見合うだけ働けるようになればいいし、少ないと思うんだったら増やしてもいいと思わせる働きを見せればいい。」
 つまり、基本的にはこのくらいの額を払いつづける、ということである。使い道のない額をもらい、少々戸惑う。
「じゃあ、いこうか。」
 戸惑っているマリーネの背中を、アインがぽんと押した。


「しかし、由羅のやつにも困ったもんだ。」
「こんな子供にまで酒を飲ませようとするんだからな。」
 と言って、アインに手を引かれているマリーネを見る。少々顔が赤い。
「ま、あれぐらいならまだいいけど。で、どうする?」
「なにが?」
「お客さん。結構大勢。人間は二人で、その内片方は知り合い。」
 その言葉を聞いて、気配を探る。確かに結構いる。
「やはり、アインはごまかせないか・・・。」
「ロビン!!」
 確かに知り合いである。もと自警団第3部隊のエリート、ロビン。十六夜の同僚だった男。
「さて、その娘を返してもらおうか?」
 ロビンとは別の男が前に出る。
「どうして、うちの従業員を渡さなきゃいけないんだ?」
「そいつは、我々の所有物だからだ。」
「で、マリーネはどうしたい?」
 その問いかけに対し、アインにぎゅっとしがみつくことで答えるマリーネ。
「と、言うわけだ。大体まだ1日しか働いてないのに、転職されたら困る。」
「なるほど、あくまで逆らうのか・・・。」
「で、力尽くで、とでも言うのか?」
 アルベルトが挑発する。
「ふ、そう言いたいところだがな、まだ交渉は終っていない。」
「交渉?脅迫にしか聞えないが?」
 十六夜が指摘する。それを聞いて苦笑するロビン。
「だいたい、その娘が何者か、知ってていっているのか?」
「マリーネ・アスティア、人間、女性。推定年齢10歳。」
「性別と年齢は合っているな。だが、種族が違う。」
「それで?」
「その娘は、我々が心血を注いで作り上げた魔人だ。」
「だから?」
「今は大人しいが、いつ暴れ出すかわからんぞ。飼いならせるのは我々だけだ。」
「へぇ、あんた、うちの家族にけちをつけるんだ。」
「家族だと!?そいつは魔人だぞ!!」
「関係ない。この子はマリーネ・アスティア、アリサさんの娘だ。それ意外の情報なんて、何の意味もない。」
 そう言って、一歩前に出る。すさまじい気迫だ。スイッチが切り替わったらしい。
「アルベルト、十六夜、そっちは頼んだよ。」
「ああ。」
「任しときな。」
 そして、そこは戦場に変わった。


「さて、俺はザコを片す。十六夜はロビンをやれ。」
「どう言う風の吹き回しだ、アル?」
「人様の因縁を横取りするほど、俺は無粋じゃないんだよ。」
 そう言って、ディバイン・ハルバートをつきこむ。十六夜の後ろに襲いかかろうとしていた合成魔獣が、一撃の元に葬り去られる。
「お前達、僕と十六夜の勝負の邪魔はするな。それから、勝負の邪魔はさせるんじゃないぞ。」
 そう言って、十六夜のほうに向き直る。
「そう言えば、来たばかりの頃は、お前さんには勝てなかったな。」
「だが、アルベルト以外では、君が一番強くて、そして一番見所があったよ、十六夜。」
「まったく、おかげで残業ばかりだ。」
 苦笑しながら、もはや自分の一部と言っても過言ではないほど使いこんだ刀を構える。
「さて、お互いどれだけ強くなったか・・・。」
「いざ、勝負!」


「ちっ、同じような顔したやつが後から後からうじゃうじゃと!」
 横なぎの一撃で更に一匹仕留めながら悪態をつくアルベルト。最初の一匹は角度とタイミングのおかげで一撃で仕留めることが出来たが、次からそうはいかないようだ。
「くそ!!」
 4体同時に攻撃をしかけてくるのを、辛うじてさばく。
「分散連撃!!」
 流れるような攻撃で、四体全部に次々と狙い済ました一撃を加えていく。致命傷を与える事は出来なかったが、それでも重傷程度には出来る。そのまま、一匹ずつ止めを刺していく。
「オラオラァッ!どんどんさくさくかかってこい!!」
 ほえながら、一気に攻撃をかけるアルベルト。怒涛の突進で、更に一つ沈める。
「なかなか、へヴィーな勝負になりそうだぜ。」
 ぼやきながら、冴えに冴えた槍の技を見せ付けるアルベルトだった。


「なに!」
 数号打ち合っていると、突如、目の前で2本に別れた刀を、辛うじて迎撃する。そのまま反撃に行くと一本の太刀に受け止められる。
「さすがに、この程度の初歩の小細工はきかないか。」
「さすがにヤバかったけどね。」
「じゃあ、小細工第2弾、いくぞ。」
 そう言って、突如分身する十六夜。
「く!」
 本体を見きれず、小太刀による連続攻撃を食らってしまう。特別製の鎧がなければ、体を両断されていてもおかしくない一撃だ。
「・・・腕を上げたな、十六夜。」
「身近にああ言う化け物がいれば、どうしても強くなるさ。」
 そう言って、刀を八双に構える。
「だが、これはどうだ!?」
 赤い火線が十六夜を襲う。だが、十六夜は冷静に対処する。
「プロテクションか。」
「ああ。何せ、これが出来ないとしんどいんでね。」
 思わぬ堅実さを見せ付ける十六夜。奇策に惑わされて忘れていたが、目の前の男は元来堅実な戦いを得意とする。
「どうやら、剣質は変わっていないようだね。」
「なら、どうする?」
「一撃でけりをつければいいだけのこと!」
 そう言って襲いかかってくるロビンを迎撃する十六夜。勝負は、意外なことでけりがついた。
「剣質は変わってなくても・・・、奥の手はあるってことか・・・。」
「ああ。絶空来迎剣、ティグスの必殺技だ。」
 そう言って、刀に纏わせている朝焼けの色をした光を振り払うと、そのままアルベルトの援護に向かう。もはや、ロビンにはそれをどうこうする力はなかった。


「さて、いい加減にしてもらいたいもんだ。」
 そう言って、手首に巻いていた紐のようなものを手にもつ。その先からは、青白い光の刃が発せられる。
「マリーネ、僕から離れないように。」
 そう言って、手近な奴からしとめていく。斬られた相手は、不思議なことに傷一つつかぬまま地にふせる。あっという間に周囲を囲んでいた合成魔獣は全滅する。すさまじい力量に、わが目を疑うマリーネと男。
「なるほど、ランディが注意を促すわけだ。」
「それで?」
「だが、まだまだ甘いな、小僧。」
 そう言った次の瞬間、マリーネは相手の腕の中にいた。
「なるほど、空間操作か。」
「そう言うことだ。この娘が大事なのだろう?」
「アストラル・フレア。」
 相手の台詞を皆まで聞かず、いきなりなにかをぶっ放す。青白い火線が、マリーネごと相手を貫く。
「な!」
 だが、どう言うわけか、マリーネにはその炎は怖くなかった。そして着弾。後ろの男だけがダメージを受ける。
「貴様!」
「アストラル・フレア。」
 更に同じ技をぶちかます。御託を聞くつもりはないらしい。
「この娘が!」
 次は詠唱もなにもなしで、ダイレクトに火線が飛んでくる。どうやら、律儀に詠唱するのが面倒になったらしい。
「くそ!!」
 そう言って、マリーネをアインのほうに突き飛ばし、なにかを発動させる。
「!!」
 だが、その何かは、炸裂した瞬間に虚空に消える。どうやら、マリーネの能力に阻止されたらしい。
「貴様!創造主に逆らうつもりか!?」
「私はあなたに創られたわけじゃない!」
 そう叫んだ次の瞬間、男が弾き飛ばされる。単純な能力のパワーとスピードでは、マリーネのほうが圧倒的に上らしい。
「マリーネ、その辺にしておくんだ。」
 肩で息をする少女を、そう言ってたしなめる。どうやら、能力を使うとかなり消耗するようだ。
「さて、あんたにチャンスを上げよう。」
 そう言った次の瞬間、相手の周囲に無数に光の珠が浮かび上がる。
「これから無事に逃れられたら、見逃してあげる。」
 そう言って、マリーネを背負ってから、男に対して背を向ける。そのまま、勝負がついたらしいアルベルト達と合流して、さっさとジョートショップに向かう。
「馬鹿な奴め・・・。こんな物、空間を渡れば!」
 だが、空間を渡ろうとした次の瞬間、光の珠が一つ炸裂する。原理は分からないが、転移術で逃げる事は出来ないようだ。更に、無闇に密度が濃いため、下手に動くとそれだけでやられてしまう。
「何がチャンスだ、あのくそがき!!」


「一つ聞くが、アイン。」
「なに?」
「あれから、本当に逃れられるのか?」
「大丈夫、ちゃんと道は作ってあるから。ただし、普通の方法じゃ通れないけどね。」
 そう言って、マリーネを背負いなおす。
「アインさん・・・。」
「ん?」
「本当に、私ここに居ても言いの?」
「子供がそんなことを心配しないの。」
「大体、お前さん程度のことで追い出してたらきりがない。」
「え?」
「この街には、きみと同じ理由で他の町にすめない人間も、割りと多いんだ。かく言う僕も、その一人。」
 力量だけを見ていると確かにとんでもないが、別に追い出されるほど物騒な人間には見えない。首をかしげていると、
「その内分かる。」
 と十六夜が言う。どうやら、自分が話さなかったこと以上に、彼らにも秘密があるようだ。
「とりあえず、そろそろ休まないと、明日に差し支える。」
 こうして、マリーネの見習い店員第1日目は終わりを告げたのであった。

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