中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「青年、講師をする」 埴輪  (MAIL)
 その日は、朝から雨だった。
「うーん、今日の仕事は半分出来ないな。」
 外の天気を見て、アインがぼやく。室内で出来る仕事ならともかく、さすがに外側の修理なんかは厳しい。
「アインクン、無理しなくてもいいのよ。」
 そう言いながら、依頼票の仕分けをするアリサ。こう言うときに限って、室内で出来る仕事が入ってなかったりする。
「仕方がない。今日はマリーネの家庭教師をするか。」
 依頼票を見て、あきらめたようにそういうアイン。どれも、期限がまだ先なのが救いだ。
「そう言えば、マリーネさんの能力って、どんな物なんッスか?」
「・・・・・。テディは知らなくてもいいよ。というより、知らないほうがいい。」
「どうしてッスか?」
「聞いて楽しいもんじゃないからね。」
 そう言われても、好奇心が押さえられないらしい。それを見て、苦笑するアイン。
「しかし、正直10歳の女の子に何であんな物を持たせるんだか・・・。」


「じゃあ、とりあえず九九の復習から。」
 エンフィールドの識字率は高いが、世界には読み書き計算が出来ない人間は意外と多い。数字の大小の把握、足し算引き算が出来ても掛け算割り算が出来ないマリーネは、現在時間を見てはアインから色々教わっている。
「1・1が1,1・2が2・・・・。」
 とりあえず、6の段くらいまでは問題がないようだが、7のあたりから、そろそろ怪しくなってくる。
「違う違う。7×8は54じゃないよ。」
 そう言って、マッチ大の棒を大量に用意する。
「これ一束が7本。これが8束でいくつ?」
 少し眉間にしわを寄せながら、ちょっとずつ足していくマリーネ。その様子が何とも愛らしい。
「56本。」
「よく出来ました。」
 もう一度復唱させる。今度は間違えなかったようだ。
「じゃあ、ここに12本の棒がある。4人で分けると一人何本?」
「え〜っと、3・4=12だから3本。」
「よく出来ました。じゃあ、りんごを4つずつ持っている人が9人居ました。りんごは全部でいくつ?」
 などなど、初歩の算数を教えていく。メロディほどではないが、どうやらマリーネも意外と学習能力は高いようで、絵本を一人で読めるようになるまで2週間ほどでよかった。


「こんにちは。」
 食卓を囲んで昼ご飯を食べていると、クリスが現れる。
「あ、すいません、食事中だったんですか。」
「うん。クリスもどう?」
「僕は、もう済ませてきたから。」
「そうか。」
 確かに、世間一般の昼食とは、やや時間がずれている。
「で、何の用?」
「頼まれてた本、持ってきたんだ。」
「あ、すまない。助かるよ。」
 そう言って、各種辞書とクリスお手製の問題用紙を受け取る。
「じゃあ、食べて休んだらこれやろうか。」
 そう言って、紙を振る。口に物が入っていたので、小さくうなずくマリーネ。まるで、仲のよい兄弟のようだ。


「そうだ、アインくん・・・。」
「なに、クリス?」
「マリーネちゃんのことだけど・・・。」
「学校の話か?」
「うん。やっぱり、これくらいの年頃なら、行っておいた方がいいと思うよ。」
 そう言って、校長から預かってきた紙を二枚ほど渡す。
「まあ、いずれは行ってもらおうとは思ってるけどね。まずは読み書きと四則演算が完璧に出来るようにならないと。」
 そう言って、入学申込書になにやら書き込んでいく。
「とりあえず、本人がここに必要事項をかきこめるようになったら、だな。」
 保護者と身元保証人の欄にアリサの名前を書いた紙を見せる。本来は本人が記述する物だが、ほとんど形式だけになっているのでこの場では誰も気にしない。
「それともう一つ。アインくんに何か講義をやってほしいんだって。」
 もう一枚の紙は、依頼表だった。
「これ、いつでもいいの?」
「期限はとくに設けないって。」
「分かった。引き受けるけど、もう少し待ってって伝えといて。」
 この後、マリーネに辞書の使い方を教えてこの日は終った。


「さてと、講義って言っても、何をするべきか。」
 とりあえず、身近なところでクリス、シェリル、トリーシャ、ファーナの四人相手に聞いてみる事にする。
「みんなは、僕の授業でどんな事を教えてほしい?」
「やっぱり魔法!アレンジとかああいう奴がいい!」
「僕も、どちらかと言うとそういうのがいいかな・・・。」
 トリーシャが真っ先に答え、それにクリスが相槌を打つ。
「私は、いろんな所の文化や歴史が知りたいです・・・。」
「私は・・・そうですわねぇ、やはり魔法歴史学なんかに興味がありますわ。」
「どうやら、魔法がらみになりそうだな。」
 シェリルとファーナの意見をきき、とりあえずそう結論をつける。シェリルのリクエストに答えると、かなり長期にわたって講義を持つことになる。
「回数はとくに指定されていないようだし、3回程度をめどにやることにするよ。」
 そう言って、依頼票に色々かきこむ。それをクリスに預けると、
「とりあえず、校長に渡しといて。適当に準備するから。」
 そのまま図書館にいく。


「何で、こんなに生徒がいるんだ?」
 今回の講義は、日曜学校の延長線上なので、学園の生徒以外でも参加は出来る。そのため、興味を持ったマリーネも参加している。が、よもやリカルドやティグスまで参加しているとは予想外だったようだ。
「そこの二人、今更僕から何を教わるつもり?」
「いや、お前さんがどんな風に授業をするかが気になってな。」
「なんとなく、好奇心に負けてしまってね。」
 年甲斐のない二人である。
「・・・・・、まあいいや。とりあえず、第1回目は魔力とはってテーマで・・・・。」
 そのまま、講義をはじめる。グループディスカッションや実験を交えて話を進めていく。
「と言うわけで、魔力と一口に言っても、さまざまな形に変化します。では、今日はここまでにします。」
 そう言って、授業を締めくくる。内容的にはかなり分かりやすかったが、世界の根源をさくっとばらしかねない部分もあり、一部の人間はひやひやしていたようだ。
「ああ、つかれた。」
「ご苦労様。」
 そう言って、冷たい飲み物を差し出すマリーネ。受け取って一口のみ、
「今の話、わかった?」
「うん。すごく面白かった。」
「それはよかった。それじゃあ、そろそろかな?」
「なにが?」
 そう聞き返してきたマリーネに対し、紙を一枚差し出す。
「入学届?」
「うん。後はマリーネが名前と住所を書き込むだけ。どうする?学校に通うかい?」
「うん!」
 その返事を聞いたアインは、近くにあったテーブルに紙を置き、ペンをマリーネに渡す。
「じゃあ、ちゃんとこの内容を書くこと。」
 指で示された場所に、自分の名前と、ジョートショップの住所を書く。その紙を持って事務のほうへ行き、色々な手続きを済ませる。
「色々準備があるから、ここに実際に通うのは来週からだ。余裕があるときでいいから、ちゃんとお店は手伝うこと。いいね。」
「はい!」

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