中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「初登校」 埴輪  (MAIL)
 真新しい服、真新しい鞄、少女にとって、待ちに待ったその日がついにやってきた。
「おはよう、準備は万端みたいだね。」
「おはようございます。」
 外から帰ってきた青髪の青年と、朝の挨拶を交わす。どうやら、日課を済ませてきたらしい。今日の自分は相当早起きだが、それでも、目がさめた頃には、既に彼は居なかった。
「けど、そんなに焦らなくても、十分間に合うよ。」
 そう言って、自分の頭をぽんぽんとたたいてくる。確かに、まだ日の出からさほどの時間はたっていない。遠出するわけでもないのに、こんな朝早くから活動をしている人間は、あまり居ない。
「まあ、そう言うもんなんだろうけどね。」
 苦笑しながら、マリーネの全身を眺めるアイン。少し恥ずかしそうにうつむくマリーネ。
「それにしても、よく似合ってる。」
 確かに、淡い水色のセーラー服ふうのその服に、スミレ色の髪がよく映える。どことなく可憐な印象すらある。ジョートショップに来た頃の彼女とは、まるで別人である。半月程で、驚くほど変わった。
「ほんとに?」
 はにかみながら聞き返してくるマリーネに、微笑みながらうなずくアイン。そのまま、彼女の首に何かをかける。
「??」
「転入祝い。」
 アメジストの首飾りだ。どうやら手作りらしい。
「ありがとう・・・。」
「じゃあ、朝ご飯にしよう。」


「と言うわけで、今日からみんなの新しい友達になる、マリーネ・アスティアくんだ。」
「マリーネ・アスティアです。趣味は読書です。よろしくお願いします。」
 意外とよく通る声で、そう自己紹介をする。だが、あまり友好的な視線は帰ってこない。ジョートショップの二人目の居候の事は、街中に知れ渡っているのだ。
「視力に問題はないみたいだな。席は・・・、カリオンの隣が空いてるようだ。そこに座るといい。」
「はい。」
 そう言って、最後尾の窓側の席へ移動する。途中、悪ガキそうな連中から何度か足を引っ掛けられそうになったが、何事もなかったように無視して進む。
「ちっ。」
 悔しそうな悪ガキ。レベルが低いな、などと考えながら、自分でそろえた筆記用具を机の上に出す。使いやすいように配置していると、突如、隣から机を蹴られる。地面にばら撒かれる教科書と筆記用具。
「・・・・・。」
 隣でニヤニヤ笑っている級友の顔をみて、本気で低レベルな、などとあきれながら筆記具を拾う。まあ、半ば予想はしていたので、大して気にはならない。予想より、ずいぶん低レベルな気はするが。


 昼、中庭で一人弁当を広げるマリーネ。その姿を見つけたトリーシャとシェリルが寄ってくる。
「あ、マリーネ、一人なんだ。」
「よかったら、お昼一緒にどうですか?」
 小さくうなずくマリーネ。やはり、食事は大勢で食べるほうがいい。
「学校楽しい?」
「はい。」
 少なくとも、嘘はないようだ。
「そう言えば、友達は?」
 シェリルやトリーシャは、友人と言うよりはお姉さんである。
「まだ居ません。出来るかどうかも分かりません。」
 少しさびしそうに言うマリーネ。人間関係は半ばあきらめていたとはいえ、やはり友達はほしい。
「あ・・・。」
 彼女の評判はあまりよくない。仕事でアインに引っ付いているときは、面と向かっては誰もなにも言わないが、半分くらいの人間は彼女をよくは見ていない。どうやら、本人はそれを知っているようだ。
「・・・。」
 なんとなく沈黙してしまう。二人とも、マリーネに対して、どんな言葉をかけていいのか分からなかった。
 妙に重苦しい雰囲気のまま、昼食は終った。


「ふう・・・。」
 編入そうそう掃除当番だが、別に掃除は嫌いではない。それで、思わず一生懸命やってしまい、ゴミ捨てまで頼まれてしまった。
「なんだよ、もう一度言ってみろよ!」
「ほらほら!」
 焼却炉にゴミを捨て、戻る途中でそんな声が聞える。
「何をしてるの?」
 見れば、男子生徒が数人で、女子生徒二人を囲んでいる。リーダー格らしい男は、自分の隣の席に座っている奴だ。確か、カリオンとかいったか・・・。
「こいつらが生意気にも、俺達に文句を言ってきたからな。」
「自分たちの立場ってもんを教えてやってるのさ。」
 後で聞いた話だが、彼らは学園でも指折りの問題児で、しかも教師の前では猫をかぶっているため、誰も彼らにかかわろうとはしなかったらしい。
「楽しい?」
 新しい獲物の登場に目を輝かせている少年たちに向かって、そうたずねる。
「ああ。たのしいぜ!」
 そう言っていきなり突き飛ばそうとしてきた少年を、あっさりかわすマリーネ。
「じゃあ、試してみるね。」
 そう言った次の瞬間、マリーネの瞳に怪しげな光がともる。
「ひ!」
「げ!」
「わぁ!!」
 どうやら、所謂「邪眼」のようだ。威力を極限まで押さえてはいるが、悪ガキごときに防げる代物ではない。恐怖にパニクって、逃げ出した数名に、更に何かを行う。その場で突如、ぐるぐる回り出す少年たち。空間が輪のように閉じられているようだ。
「ゆ・・・ゆるして・・・・。」
 がちがちとはを撃ち合わせながら、そう嘆願するカリオン。彼は、見えない手で持ち上げられて、固定されている。
「やめてくれ!!」
 そう言った少年の周りでは、衝撃波がいくつも炸裂していた。マリーネは、直接当てないように、更に当っても怪我をしないように細心の注意を払って炸裂させている。だが、本人は気がついてはいないが、それはなぶっているも同然である。
「やっぱり、楽しくない。」
 約1分後、そうつぶやいて、力をとく。リーダー格のカリオン以外は、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。最も、カリオンが他の連中より根性があったわけではない。単に腰が抜けただけである。
「大丈夫?これ、痛まない?」
 そんな彼らをきっぱり無視して、暴行を受けていた女生徒の方に近寄る。心底心配しているようだ。傷はそれほどひどくはない。スカートのポケットから応急処置セットを取り出して、簡単に手当てをする。
「このお薬、よく効くから。」
 先ほどまでの様子とは打って変わったその姿を、呆然と見守る3人。てきぱきと処置をしていくマリーネ。
「多分、明日になれば治ると思う。」
 そう言って微笑むマリーネを、思わずほうけたように見つめる二人。そのまま、服についたほこりを払って立ちあがると、ゴミ箱を持って教室に戻ろうとする。
「あ、ちょっと・・・。」
 だが、弱弱しい声は、マリーネには届かなかったようだ。


「ごめんなさい。」
「う〜ん、やった事は悪くないと思うけど、動機がよくないね。」
 そう言った後、真剣な顔になったアインは、
「もし、それで楽しいって言ってたら、僕は君を、ここから追い出していたかもしれない。」
 という。マリーネも小さくうなずく。結局のところ、やる前から楽しくないのは分かりきっていたのだ。ただ、確かめてみただけなのだ。
「ま、その様子じゃ、分かっててやったみたいだね。」
 苦笑するアイン。まあ、マリーネの気性を考えると、他者を痛めつけて楽しめたりはしないだろうが。
「ごめんなさい。」
「いいよ、十分反省してるみたいだし。この話は無し。とりあえず、ご飯までに宿題を済ますこと。」


「マリーネ、ご飯だよ。」
「は〜い。」
 そう言って、と手とておりていくマリーネ。降りてきた彼女に、
「はい、マリーネ。」
 何かを手渡すアイン。怪訝な顔をしながら、渡された物を見る。小さな袋だ。香ばしいいい香りがする。どうやら、お菓子のようだ。
「とりあえず、それ食べるのはご飯の後。」
 その言葉にうなずいて、テーブルの上に置く。よく見ると、手紙のような物がついている。
「?」
 手紙を開いて、中身を読む。読み進む内に、マリーネの表情が明るくなる。
「ね、やったこと自体は悪くなかったって言ったでしょ?」
 送り主を知っていたアインが、そう言ってウィンクする。
 そのクッキーはとても美味しかった。

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