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「十六夜喜譚 その2」 埴輪  (MAIL)
 予定より一人増えた一行は、一路セラフィールドへ向かっていた。
「しかし、マリーネをつれてきていいのか?」
「ま、仕方がない。他の街を見るのもいい勉強になる。」
「すっかり教育熱心なお兄さんですわね。」
 どうも、アインはマリーネには甘いような気がする。
「そうなの?」
「そうね。アインくんって、意外と厳しいところとか譲らないところとかがあるから・・・。」
「そんなに厳しいかな?」
「少なくとも、俺の特訓の時は厳しかったぞ。」
「普通だと思うけど?大体僕だってああやって教えられたんだ。」
 そのやり取りを聞いてきょとんとするシーラ。となりで苦笑するクレア。
「何があったの?」
「ああ、十六夜にパラレルアタックを教えたんだけどね。」
「その教え方がすごくてな・・・。いきなり分身して的をばらばらにした挙句、『さ、やってみろ』、だ。はっきり言って呆然としたぞ。」
 あまりにも情けない十六夜の顔に、思わず引き出すシーラとマリーネ。
「あの技、アインさんのだったの?」
「うん。ま、撹乱だのフェイントだのくらいにしか使えないけど、不意打ちするには便利だからね。」
「だが、特訓は本気で厳しかったぞ。一撃当るまで開放してくれなかった。おかげで次の日は全身筋肉痛だ。」
「きっちり使いこなしてる人間が何を言うんだか。」
 いわれると返す言葉もない。言葉に詰まっている十六夜を見て、思わずため息をつく香夜。
「ハァ、情けない。」
「何が情けないの?」
「だってシーラさん、公文城家の跡取ともあろう男が、こんなのほほんとした弱そうな人に技を教えられた挙句の果てに、愚痴こぼしてるんですよ!?」
 ひどい言われようである。一部を除いて、アインはまったくの無名だ。仕方がないといえば仕方がないが。
「強くなったから、いいんじゃないか?」
「お兄ちゃんは黙ってて!!」
「香夜、あんまり怒ってばかりだと、美容と健康に悪いよ?」
「大きなお世話よ!!」
 あまりにのんきなアインの台詞に、ますますヒートアップする香夜。
「なんか、初対面の頃のクレアを思い出すなぁ。」
「私、あんなに凄いことを言ってましたか?」
「近いことを、ね。」
 赤面しながらたずねるクレア。あまりにも目の前の男が凄く感じなかった物で、勝てなかった兄や十六夜につい噛みついてしまったのだ。
「ま、仕方ないか。僕は所詮道化だからね。」
「その道化に勝てない人間がここにいるんだが?」
「基本的に、ジョーカーは最強で最弱って相場が決まってるから。」
 十六夜の突込みに対して、シーラが答える。
「アインさんに喧嘩を売る人間が間違ってると思う。」
「さっきから聞いてれば人を化け物みたいに・・・。」
 十六夜達の会話に苦笑しながら突っ込むアイン。話の流れに置き去りにされる香夜。
「もう、いい!!」
「あ、キレた・・・。」
 マジギレする香夜。
「だから、あんまり怒ると美容と健康に悪いってば。」
「だから大きなお世話よ!!大体ここまで言われて怒らないなんて、あなたにはプライドって物はないの!?」
「ない。」
 思わず冷たい空気が流れる室内。あまりにもあっさりと、しかも堂々といわれて凍りつく香夜。
「って言ったらどうする?」
 数秒待ってから台詞の続きを付け足す。
「じゃああるのか?」
「ないけどね。」
 十六夜ののんきな突っ込みに、のんきに返すアイン。
「あの、アインくん。そろそろ香夜さんをおもちゃにするのはやめたら?」
「知らないよ。勝手に反応して勝手に怒るんだもん。どうしようもないよ。」
 シーラに突っ込まれて、困ったように言うアイン。実際、自滅しに来る人間の事などどうしようもない。
「それはそうと、ちょっと雲行きが怪しくなってきた。」
「へ?」
「今日は野宿かもしれないな。」
「どう言うことだ?」
 十六夜の質問に窓の外を指差すアイン。
「まだ、ああ言うのが元気に活動してたみたいだね。」
「なるほど。さすがに振りきれそうにないな。」
「というわけでよろしく。」
「なに言ってるんだ、お前もこい!!」
「え〜?」


「やっぱり必要なかった・・・。」
「どこがだ・・・。」
 平然とつぶやくアインに、肩で息をしながら突っ込む十六夜。ディヴァイン・ブレードのおかげで大した怪我はしなかったものの、さすがに一人でさばくのはしんどい数がいた。アインが居なければヤバかったと本人は思っている。
「とはいえ、大分時間を食ったな。」
「大漁だったからね。」
 周囲には死屍累々と横たわる野盗達。実際のところ、かなり異様な光景である。
「やっぱり、今夜は野宿になるな。」
「さすがに仕方がない。街道とはいえ、夜通し強行軍はしないほうがいいだろう。」
 それを聞いて抗議しようとする香夜。
「それとも、走ってる馬車で寝るほうがいい?」
「う・・・。」
「まぁ、そう言うことだ。」


「それじゃあ十六夜、火の用意をお願い。」
「ああ。分かった。」
「アインさん、どこへいくの?」
「食料と水の調達。」
 そう言って森の中へ入っていくアイン。とりあえず女性陣は馬車の中で寝るとして、自分たちの分の寝床を用意しなければならない。
 そう考えながら、拾った枝の先端を細く削り、火がつきやすい状態にする。枯れ枝なので、十分に乾燥している。程なく、火が起こる。
「ちゃんと食料、持ってきてるのに・・・。」
 マリーネが鞄の中を覗きながらつぶやく。アリサさん特製の美味しい携帯用保存食らしい。
「そいつは、もしもの時のためにとって置くんだ。」
「そ、食料が確保できるときは、手持ちは減らさない。」
「早いな。」
「結構色々手に入ったからね。」
 そう言って、バケツと水筒に大量に汲んできた水の一部をなべに移し、なにか干した草のような物を入れて火にかける。
「ちょっと待っててね。すぐにご飯の用意をするから。」
 そう言って、なべの中に色々放りこむ。別に無作為に放りこんでいるわけではないらしい。
「一品はこれで言いとして、もう一品はっと。」
 そう言いながら、手際よくばらしたウサギを串に刺していく。どうやら照り焼きにでもするらしい。火であぶったウサギに、即席で作ったたれを塗り付けてゆく。時折、まめになべの様子を調べ、材料を追加で放りこんでいく。
「もうすぐ出来るから。」
 そう言って、謎の木の実をすりつぶし、水でといて生地を作る。比較的粘りのある生地を串にまきつけ、火にかける。
「すごい・・・。」
 調達してきた材料で、よくここまで出来る物だと感心するマリーネ。肉など臭みがありそうなものだが、たれがみごとに臭みを押さえている。
「このたれ、どうやって作ったんだ?」
「色々な果実と生で使う香草のたぐい、それからさっき精製した塩で、ね。」
 器用な物である。
「ま、冒険者の心得ってこと。とは言えど、ここまで出来る事はめったにないけど。」
 そういいながら、焼けた串焼きと木の実のパン、それからシチューを取り分けていく。その後、何かの作業をしながら言う。
「先に食べておいて。残りを保存食にするから。」
 てきぱきと作業を進める。あっという間にウサギの残りを燻製にする準備が整う。過日などの一部は、ドライフルーツにするようだ。
「後は待つだけっと。」
 そう言って、自分の分の食事に手をつける。それを見たほかの人間も食事を開始する。
「わざわざ待たなくてもいいのに。」
「そんな真似が出来るか。」
 口の中のものを飲み下して、十六夜がつっこむ。その隣では、恐る恐るといった風情で香夜が料理に口をつける。
「何でこんな奴が作った得体の知れない料理が、こんなに美味しいのよ!!」
「すぐ怒る・・・。」
「カルシウム不足か?」
 理不尽さに怒っているようだが、この場合、怒る理由の方がより理不尽である。


「そう言えば、日程に余裕とかはある?」
「一応は、な。元々これぐらいは誤差の範囲だ。」
「なら、小細工は必要ない?」
「ああ。」
 薪を炎に放りこむ。ぱちぱちとはぜる音があたりに響く。既に馬車の中は静まり返っている。
「さて、とりあえず明日に備えて、十六夜も休んでくれ。」
「見張りはどうする?」
「僕がやっとくよ。どうせ移動は馬車だ。」
 燻製にしたウサギの肉を布に包んで鞄にしまう。なべを火にかけ、何かの草を入れる。
「何を作る気だ?」
「色々と薬をね。いい薬草が結構手に入ったからね。」
「なるほど、その作業が徹夜になるのか。」
「そう言うこと。」
「なら、遠慮なく休ませてもらうぞ。」


 次の日、何かの肉が朝食に出たことだけを記しておく。

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