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「十六夜喜譚 その6」 埴輪  (MAIL)
「なぁ、十六夜・・・。」
「なんだ?」
「つけられてるんだけど、心当たりは?」
「腐るほど・・・。」
 公園からの帰り、折角だからもう一丁買い出しをしておこうとアインが提案し、そのまま商店街のほうへ移動を開始した二人。商店街にさしかかろうかというあたりでのアインの発言に、思わず苦い顔をしてしまう。
「さて、どうした物か・・・。」
「流石にこんなところで騒ぎたくないなぁ・・・。」
 そう言って、適当に人の少ない場所を見繕う。幸い、すぐに人気のない路地が見つかる。
「あそこにしようか。」
「そうだな。」


「さて、何のようかな?」
 つけてきた二人組を相手に、そう切り出す十六夜。
「少しばかり、頼まれ事をしてな。」
 髪の毛を逆立てた男が、にやりと笑いながら答える。
「どんな?」
「口にするのも陳腐な仕事だ。」
 一目でアルビノとわかる美青年が、アインに赤いひとみを向けながら言う。そのまま、
「お互い手強いと思うほうを相手にするぞ。」
 といいながら、細身の体格が持つにはふさわしくない、斬馬刀と言っても通用するような大剣を抜く。
「O.K。」
 髪の毛を逆立てた男も、ショーテルを抜きながら前に出る。そのまま、アルビノはアインの前に、箒頭は十六夜の前に出る。
「どうやら、意見はわかれたようだな。」
「翔輝の奴、目が曇ったんじゃねぇのか?」
 十六夜の言葉に、馬鹿にしたように返事を返す箒頭。
「ま、どちらの見る目が正しかったかは、その内わかるだろうさ。」
 投げやりに言い放つと、ディヴァイン・ブレードを抜く。どうも、ただで済むとは思えない。いざと言うときのために力をためておく。


「どうしてもやらなきゃ行けない?」
「俺に聞くな。元々単なるたのまれ事だ。」
「ならやめにしない?」
「そうもいかない。」
 デカイ剣を前にまったく動じないアインを見て、興味深そうな表情を見せる。
「どうしてもって言うんだったら、しりとりで勝負しよう。」
「・・・それでいいのか?」
「うん。じゃあ、しりとり。」
「りんご・・・。」
「ごりら。」
「羅生石」
「キリングドール」
「ルーク。」
 黙々としりとりを続ける二人。その横で、必死に雰囲気を盛り上げながら剣戟を繰り広げる十六夜達。ついに箒頭が切れた。
「いい加減にしろ!!」
「ロシュセイヴァー。」
「ヴァニシング・ノヴァ。」
「だからやめろっつってんだ!!」
 そこで初めて箒頭を見るアルビノ。
「邪魔をしないでもらおうか?」
「てめぇらこそ、俺の邪魔すんじゃねぇ!!」
「別に邪魔はしてないけど?」
「真剣勝負の隣でしりとりなんぞされたら、緊張感がもたねぇじゃねぇか!!」
 そこでぽんと手を打つアイン。
「そうか、緊張感の問題か。それは気がつかなかった。」
「本気でテメェには緊張感ってもんがないのか!?」
「しりとりのどこにそんな物が必要なんだ、カイザル。」
「・・・聞いた俺が馬鹿だった・・・。」
 その様子を見ていた十六夜が、感心したようにつぶやく。
「アインとまともに張り合った奴は、はじめてみたな。」
「俺も、この状況でしりとりなんぞを持ち出してきた奴とは、はじめてあった。」
 感心するように言うアルビノ。
「乗ってくる人間に会ったのも初めてだけど?」
 のほほんとした会話に、どっと脱力する箒頭。
「もう、いい・・・。帰るぞ・・・。」
「帰るのか?」
「やってらんねぇよ・・・。」
 気の抜けた顔で歩み去る箒頭。そのままきびすを返すアルビノ。
「次のときは、こうはいかねぇからな。」
 捨て台詞と取るか、負け犬の遠吠えと取るかは微妙なところである。


「と言うことがあったんだ。」
「大丈夫だったの?」
「怪我はございませんか?」
「ああ。ショーテルを使う奴とははじめてやりあったが、とりあえずは無傷だ。」
「しりとりで怪我するほど、間抜けじゃないつもりだけど。」
 心配する二人に対して、まともな答えと間違った答えが返ってくる。
「でも、物騒ね。」
 シーラが、頬に手を当てて小首をかしげながらつぶやく。
「まぁ、考えてみれば、僕達も街中で武器を持ってたんだから、人の事は言えない。」
「あの鞄の中か?」
「それだけじゃないよ。」
 といって、袖口からナイフを一本取り出す。唖然としていると、ポケットから小さな鉄球がいくつも出てくる。他にも色々とあちらこちらから取り出すアイン。最も、どれも純然たる武器ではないようだが。
「・・・準備がよろしいのですね。」
「どうやって隠し持ってたんだ?」
「仕込がいいからね。後、こんなのもあるよ。」
 そう言って、左手につけている篭手のようなものを弄くる。いきなりばねがはじけて弓を形作る。
「・・・物騒だな。」
「まぁ、この篭手はクリシード家特製の汎用冒険者ツールなんだけどね。」
「と言う事は?」
「鍵開けや罠をはずすためのツールもあるし、登攀用のワイヤーも仕込んである。どれも、野外や遺跡の中の活動じゃ必需品。」
 そう言って、出した物をちゃんと元通りにしまう。
「なんか、暗殺者でも出来そうだな。」
「でも、出来るけどやらないんでしょう?」
 十六夜の呟きに対して、シーラが口を挟む。
「どうして分かったの?」
「だって、貴方の信念にそうとは思えないし、第一アインくんがそんな面倒なまねをするとは考えられないもの。」
「・・・降参。」
 シーラの台詞に苦笑するアイン。初対面の頃からは考えられない話である。
「さて、今日は早めに休もう。明日は色々忙しいからね。」
 そう言って、居間を出て行くアイン。どうやら、風呂にでも入るらしい。
「私達も、御風呂に行きましょう。」
「そうですわね。」
 さすがと言うかなんというか、この家では男湯と女湯がわかれているので風呂で男女がかち合う心配はない。


「で、どうしてしりとりなんかやったんだ?」
「あのまま戦っても、まず勝ち目はなかったからだ。」
「へぇ、勝ち目がないねぇ・・・。」
 翔輝と呼ばれたアルビノが、自嘲気味に答える。それを聞いた箒頭―どうやら、カイザルというらしい―が、露骨にあきれた顔をする。
「お前さん、本気で腕が落ちたんじゃねぇのか?」
「根拠はあるぞ。」
「どんな?」
「殺気を受け流した。」
 真剣な顔で翔輝が答える。それを聞いて、唖然とした顔をする。
「お前の”凶眼”をか?」
「ああ。顔色一つ変えずに受け流した。しかも、目をそらしたりもしなかった。こいつを十分に振りまわせなかった以上、やりあっても勝てはしなかっただろう。」
「それでわざわざしりとりに乗ったのか?」
「まあ、そう言うことだ。」
 そう言って、大剣を引き抜く翔輝。カイザルから離れると、そのまま軽やかに振りまわし始める。まるで冗談のようなその光景をみて、カイザルは考えを改める。
(どうやら、あの間抜け面が手強いのは間違いないらしい。)


 不意の物音に、思わず意識が眠りから覚めるシーラ。目を開き、体を起こすと、影がこちらに近付いてくることに気がつく。ベッドから降りて、明かりをつけようとした瞬間、その何者かが飛び掛ってくる。
「きゃ・・・・・!!」
 悲鳴を上げようとした瞬間、口をふさがれ押し倒されそうになる。
「!!」
 とっさに密着状態からの掌打を叩き込み、隙間を作って膝蹴りをいれる。
「きゃああああああああああああああああ!!」
 悲鳴を上げながら回し蹴りをいれ、そのまま回転方向を変えて後ろ回し蹴りにつなぐ。相手の頭が少し下がったところへ、そのまま必殺の踵落しが炸裂する。すべて反射行動だ。
「がはぁ!!」
 うめき声を上げてノックアウトされる侵入者。ちなみにここまで時間にして1秒に満たない。
「どうしたの、シーラ!?」
 そこへ、アインが入ってくる。悲鳴が上がってから10秒とたっていない。そして、転がっているマグロを見てつぶやく。
「馬鹿な奴。」
 そう、見事にK.Oされたのは夜影であった。
「何があった!!」
「どうかなさいましたか!?」
「なになに!?」
 そこへ、他の人間も集まってくる。そして、転がっている夜影を見て唖然とする。
「アインか?」
「いや、僕じゃないよ。」
「そうか、シーラか。」
 そう言って、一応夜影の冥福を祈る十六夜。
「しかし、運のいい奴だ。」
「どうして?」
 マリーネの問いに答える十六夜。
「肋骨も鎖骨も全部無事だし、頚骨も大丈夫だ。シーラにレイプまがいの行動をしてこの程度なんだ。運がいいとしか言いようがない。」
 無茶苦茶である。最も、十六夜の言うことも一理ある。彼女の踵落しは、場合によってはアルベルトも一撃で沈める。
「さて、御姫様のケアは任せたぞ、アイン。」
 どちらかと言えば、ケアが必要なのは侵入者のほうなのだが、やはりこういった手合いはまだまだ苦手らしい。毛布に包まって震えるシーラを見て、思わず途方にくれるアイン。
 この日の公文城家の夜は、やや長くなりそうだ。

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